1.前世の記憶
冬休みは引きこもり! なんて馬鹿げている。
私は一年中引きこもりだ。有名大学を卒業したは良いが、就職活動を一切しなかった為、現在ニート。いわゆる廃人。親の脛をいつまでもボリボリとかじりまくっている女だ。
そんな私が今ハマっているのは乙女ゲーム……っていうのは嘘だ。
乙女ゲームにハマっているのは私の母親だ。食事中はいつもその話ばかり。ヒロインがどうだの、悪役令嬢がどうだの、いつもグダグダとそんな話ばかりしている。
私はそれに適当に相槌を打ちながら話を聞いているが、正直滅茶苦茶興味がない。
そんなことよりも私は、少年漫画を読んでいたい。特に超能力を使う話が大好きだ。
もし、生まれ変われるなら、特殊能力を持った最強主人公にしてくれ。
そんなことをポケーッと考えながら漫画を片手で読みながら口に餅を運んだ。
「ッグ!!」
そこでやられるのかよ主人公! とツッコミを入れようとした瞬間、餅が喉に詰まった。
これは自分の力ではもうどうしようもない。呼吸が段々と苦しくなる。
こうして私は息絶えた。
「なんてこったパンナコッタ」
ふとしたきっかけで前世の記憶を思い出してしまった。
寝ようとベッドの上に横になろうとした瞬間、天蓋を吊るしている柱に頭をぶつけた拍子に前世の記憶が脳の中を優雅に流れた。
前世の記憶ってこんな簡単に思い出せるものなんだな……。
現世は何かというと、母親がハマっていた乙女ゲームのヒロインだ。見た目は今までに見たことのない天使のような外見をしている。
ふわふわのニートに欠かせない羽毛布団のような白に近い金色の髪に、柔らかで鮮やかな桜色のガラス玉のような瞳。肌は太陽を生まれてから一度も知らないような透明感のある真っ白な色をしている。……引きこもりの肌だ。私はこの肌をよく知っている。
それにしても、どうして私がヒロインに選ばれたのだろう。私は世界で一番、ヒロインに向いてない女だと思う。
これから恋多き乙女になるのか?
……うん、面倒くさいし、だるい。悪役令嬢が他の攻略対象と恋に落ちてくれねえかな。
てか、そもそも廃人を好きになる物好きなんていないだろう。このままいつも通り過ごせば、自然と攻略対象達も離れていくはずだ。
そうすると、私は優雅にこの世界で廃人として過ごせるじゃないか! これはなかなか名案だ。
私はそんなことを思いながら一人で満足気に頷き、そのまま眠りについた。