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羅天絞喰  作者: D・D
第一章 怖くて偉大で大きな樹
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4.二人

鬱蒼した森の中、二人の若者が歩く。

一人は大柄な男性。23、24といった年齢だ。濃い青髪を逆立たせており、するどい目つきをしている。腰に刀を指しており、格好も戦場へと向かうような身なりだ。

もう一人は小柄な女性。年は18歳。でもって、歩き姿は高貴さが漂っており、見るものを惹きつける美貌の持ち主だ。ショートの黒髪を後ろで結い付けており、服装はひらひらとしているがそこには気品さが備わっているのが伝わってくる。


「まだつかんのか。」


「もう少しです。」


「お前、さっきもそう言ってなかった?」


男はいつまで歩けばいいのかわからないこの状況に痺れを切らしそうだった。

見た目から察することが出来るかもしれないが、男は短気な性格の持ち主である。

そんな男に対し、横で歩く女性はそっけない様子で返答する。


「気のせいじゃないですか?」


「……」


男は自分の質問に対する意のこもっていないような返答に思わず沈黙してしまう。

女性が歩きながらも男に視線を微塵も向けずに返事をしたが故に。


「おい、カウラ。お前、なめんてんのか。人と会話する時は相手の方を向くって習わなかったのかぁ?おい」


「…驚きました。あなたにもそのあたりの教養はあったのですね、ラザク。てっきり、刀のみ振っている人生を送った男だと思っていましたよ。」


未だに男に対して視線を向けずに返答する女性カウラ。

そんな様子を見て、大柄の男ラザクは怒気の感情を表へとさらけ出す。


「なめてんじゃねえか。おい。俺を甘く見るとどーなるかわかってんのか。」


「すみませんね。私のあなたに対する感想を言ってしまって。人の本音というのは怖いものですね。」


「てめえ。」


空返事のようなカウラの嘲り。

それを耳にするたびにラザクの怒りは増していく。


「おい、カウラ。おめ…」


「あー、はいはい。」


ラザクが数々の己に対する謗言に物申してやろうしたところ、そこにカウラは目を細めながら、しっしっと撥ねのけ却下の合図。


「普段、ろくに使わないそのちっぽけな脳みそを使わない方がいいですよ。あなたはただでさえ頭が弱いのですから。」


「ぶっ殺す!!」


カウラのラザクに対する罵倒の数々。その中でも、先ほどの一言でラザクの怒気はピークに達した。

短気な性格であるため、怒りのボルテージも溜まりやすい。


「着きましたよ。」


「ああ?」


カウラは怒りに怒ったラザクに向けて言い放つ。


「目的の村です。」


「んだよ、ついたのか。」


ラザクは、カウラに言われながらも、辺りを見渡す。そんじょそこらにあるような小さな村だ。


「……。」


カウラはラザクに向けて顔を向けた。


「なんだよ。」


涼しい顔をし、額に皺を寄せながらラザクはカウラに対し、言い放つ。

カウラの表情の意図が掴めないといった様子で。


「いえ、私を殺さなくていいのですか?」


カウラは不思議そうな表情を浮かべながら、ラザクに向かって呟く。

それは、先程までのこの男の殺意はどこへ行ってしまったのか、ということについてだ。

だいぶ、謗る言葉を並べたと思うのだが。


「あぁ?あー、知らん。つかもういい、村、ついたし。」


ラザクはそう言うと辿り着いた村に目を向けた。

どうやら、目的の場に到着したと同時にそちらに気を向けたようである。


「それでいいのですね」


本当に短期。というより、単純すぎる性格だ。

その場その場の気分次第で行動が変わっていく男である。


まあ、そんなことはもう慣れきったものなのだが。


カウラのこの心情はラザクを理解している証拠だ。実際、この二人の戦場での付き合いは長い。

性格も出で立ちも物事に対する感性もほぼほぼ二人の合致するところはないのだが、こと、戦場となると驚くことに相性が良いのだ。

そのため、今までもラザクとカウラでコンビを組まされ、数々の敵を倒してきた実績がある。


「一見、普通の村だな。本当にここか?何もなさそうだぞ。」


「教官が言うには村人たちに聞けばわかるだろうと、おっしゃっていましたので。聞くが早いのでは?」


「……そうだな。」


二人の若者は意見を一致させ、村内へと入ろうとする。

だが、村人たちの熱烈な視線によって、歩みを進ませてくれなかった。それもそのはず、村人たちは二人の村外者に対し、敵視を向けていた。


「おーおー、なんだよこの村は。全然歓迎ムードじゃねぇじゃねぇか。普通、ここは村人みんなで出迎える場面だろ」


「普通はそうなんでしょうが、あなたの見た目のせいかと私は思いますね。その物騒な体躯に威圧的な顔、一般の人を萎縮させるには十分だと思います。」


「うるせーな、こんななりだからしょうがねえだろ。つーか、俺にビビる奴が悪い。」


「そうですか……。おや?」


ラザクの理不尽な言い分に嘆息するカウラ。そんな二人がやりとりをしているところにひとりの村人が歩いてきた。男性であり、顎にヒゲを生やしている。年季の入った相貌を持つ、老いた村人だった。


老いた村人は珍しくこの村に来た村外者二人の前に立つ。この二人の通常ではない風格を身にしみながら。


「お二方は、何用でこの村に?」


村人は恐れながらも問いつける。


「おっさん。この村の代表者か何かか?」


ラザクは二人の前まで来た村人に対し、見下ろしながら質問した。

ラザクの上背のせいも重なってその光景はまるで巨躯の男が老人を脅しているようにも見えなくもない。

ラザクにそのようなつもりは全くないのだが。


「ラザク、質問に質問で返すのは礼儀がなってないですよ。早くその威圧な顔と体躯を改めなさい。」


「どうしようもないことを言うんじゃねえ。」


カウラの指摘にラザクは睨めつけながら反論。


そんな二人の言い合いが始まったことによって老いた村人は少しおどおどしてしまう。こんな常人離れした人間と初めて会ったといった様子だ。


それを見かねたカウラが、


「ああ、これは失礼いたしました。そうですね。私たちはここより遠い街から来た一介の旅人ですよ。」


話が逸れてしまったところを省みてカウラは先ほどの村人の問いに答える。


柔らかな声音で答えられ、老いた村人は少しばかり安堵した。


「そうですか。旅のお方でしたか。私はこの村の長、ザサという者です。」


なるほど、村の長。これは話がわかる相手かもしれない。

そう思い、カウラは何から話したものか、と顎に手を置き思考した。


いきなり来た目的を直球で話し、あまり混乱させるのも野暮というものだろう。

まずは、私達がこの村に来た理由を一から話すのが先か、


「村の長なら、話が早え。おっさんこの辺り一帯に怪物とか住んでねぇか?」


カウラが口を開こうとする直前。ラザクは単刀直入に言ってしまう。

カウラは真横で唖然、といった表情をしてしまい、思わず呆然。

真に聞いたザサも思わず口をポカンと開けてしまっているようであった。





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