序幕
『概して、人間関係は取るに足らないものだ』
『たとえば、それで気を病むようなことなどあってはならない』
『いっそ、損得勘定で動くのがいいんじゃないか』
「そいつから離れろ」と、目の前の白衣を着たヤツらは口を揃えて『治療』と銘打った粗雑な解決策を投げる。
彼女は、たまたま出会った取るに足らない一人。
そして、自分をこうした元凶。
彼らが言わんとしていることは、自分に利を成す者には近付き、害を成す者から離れろ。という所か。
至って利己的に聞こえるが、どの生物もそうやって周りとの距離感を保って生活してきたのだ。
例えば、弱肉強食の世界。同種の群れを形成し、弱ったものは狩り尽くしたサバンナに置き捨てられる。
それまで同じグループだったからと言って、そこに与えられる慈悲はない。
一方で、人間は相互扶助的な共同体を育む。
こと日本においては情に厚く、赤穂浪士の討ち入りなどは義を代表する英雄譚として語り継がれている。
多少の節介や思い入れで損を被ってもいい、そんな程度なら誰でも抱くかもしれない。
けれど、自己の破滅を理解して、なお他者を立てる行動を取るのは人類だけだろう。
美徳は、ときに身を滅ぼす。