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生贄エルザの魔王様観察日記  作者: ぴあ
二冊目【テンノと私と彼女の裏設定】
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□ある複製された女との決闘





 宇宙に一つ閃光が煌めく度、一つの区画が消えていた。





『絶対にやるだろうとは思ってたけど、本当にやりやがったぞこのマスター?!』


 連鎖的に増殖していく爆発音を聞きながら、私は盗んだランディング・バイパー――もとい個人携帯用のエアバイクで要塞の外周を飛び回っていた

 戦闘機のようなフォルムに白銀のフルプレートが乗っているのはだいぶシュールな映像だが、見た目を気にしている場合でもない。


 っていうか思ってたより操縦難しいね、コレ。

 伸びていた支柱に危うく激突しそうになりながら、記憶と実際との感覚の違いに私は少し戸惑う。


『あたりまえだろうが、無重力空間なめんな! レースゲームで運転の才能があるとか誤解しちゃってる中学生かよ!?』


 もう何でもありだなマスターは!と、ハンドルの脇に突き刺された状態の聖剣はやけっぱちな悲鳴を上げた。

 聖剣がこの期に及んで戸惑うくらいだ。彼女たちにしてみればそれどころの騒ぎではないのだろう。


 どうやら私が初期配置の兵器を使う可能性は全然考慮されていなかったらしく、彼女たちは見事に大混乱。

 爆発が混乱を呼び、混乱がまた爆発を呼ぶ。ついには迎撃システムが誘爆したり、機能保全のために勝手なパージが発生したりして、彼女たちの大部分はその後始末にてんてこ舞いな感じだった。


 前方不注意にだけは気を付けながら、チラリと後方で広がり続けている爆発に目を向ける。

 私が巻き起こした爆発は(何から何を発射して爆発させたのかは念のため明言しないけれど)、順調に巨大化しながら要塞を内部から焼き尽くしている様子だった。

 それから視線を周囲に向ければ、同じように爆発して宇宙にデブリを振りまいている軌道要塞の各部位が遠巻きに確認できた。


『いくら自動化されてるって言っても、こんな規模の要塞を運用するなら本来相当数の技術者が必要なんだろうしなぁ。最初は玉砕精神溢れるテキトーな作戦だと思ってたけど、なるほど、ステージ設定的に実は理に適ってたのかも』


 えっへん。

 どうだ、そこまで計算し尽くされた私の作戦は。


『嘘だぞ。今の今までそんなこと考えてもいなかったぞ』


 せめて結果オーライと言ってくれ。

 とにかく、彼女たちの本体が出て来るまでこのまま延々と要塞をあぶり続けてやるぞ。これから毎日要塞を焼こうぜ!


『それでも出て来なかったら?』


 出て来るさ。出て来ざるを得ない。

 だって今の私を追って来れるのは、宇宙空間を自在に移動することが出来るのは――


 聖剣に説明しようとしたところで、“視覚情報補填(トゥルー・シーイング)”に反応が生まれた。

 咄嗟に“不可視の盾(インビジブル・アダマス)”を展開する暇もなく、エアバイクのエンジンに機銃が撃ち込まれ、一秒後には爆散する。


『マスター!?』


 それに巻き込まれるより一瞬早くバイクを足蹴にした私は、爆風と機体の残骸を鎧で受けながら要塞の外壁に落下した。

 ぶつかった反動で宇宙に投げ出される寸前に、手元に召喚した聖剣を突き立てて己の体を固定する。


 頭上を見上げれば、私が今乗っていたのと同様のエアバイクが複数体と。

 その中央に、場にあまりにも不釣り合いな白銀のレーシングバイクが一台浮かんでいて。


『……あれが本体か』


 説明せずとも聖剣は理解してくれた。

 レーシングバイクに乗った機装猟兵は、この世界のランドルギアに跨った“彼女”は、青いアイライトを輝かせながら私を見下ろす。


「随分と派手にやってくれたじゃないか。……スキル使用に特化したファンタジー世界の住人だと聞かされていたのだがねぇ」


 言うて、最近はファンタジーとSFの融合化が進んでいるからね。

 高度に発達した科学が魔法と見分けがつかないのであれば、私が科学を使えても何もおかしくないだろう?


 私は精一杯の強がりを漏らしながら、見えもしないのに鎧の下で頬を吊り上げた。


『詭弁が過ぎる。というかマスターは別に魔法が使えるわけじゃないじゃん』


 あれ、そう言えばお互いの声がちゃんと届いてるね。さっきのアトミックな爆音とかもしっかり耳に届いてたし。

 空気があるわけでもないのに、なんで?


『視聴者に配慮した結果じゃね? 漫画のオノマトペ的な』


 ……まあ魂の音が聞こえてるんだとか脳内保管しておくよ。


 さて、予定通り彼女とランドルギアを誘い出すことには成功したわけだけど。

 初手で乗り物が壊されちゃった挙句、慣れない無重力空間でどうやって戦ったらいいものかね。


 こういうときに役立ちそうなスキルは……


『こんな状況で戦うことが想定されているわけないだろうが。残念だが、オレっちのサポートはあんまり期待しないでくれ』


 まあ知ってた。

 そして安心して欲しい。今回はべつにノープランじゃない。

 彼女を倒すための算段は、一応このシーンが始まる前に考えておいているんだ。


 ともすればフワフワと浮いてしまいそうになる体を何とか外壁に押し付けながら、私は周囲の状況を確認した。

 彼女と共にやって来たクローンはおおよそ十体。そして先ほどの戦闘を考えるに、彼女たちはスキルに慣れていない。つまりあのランドルギアはスキルを授けるタイプじゃなく、純粋に乗り物としての役割に特化した存在だ。

 そうなると向こうの攻撃手段は必然的に。


 ガチャリと、音が届かない宇宙空間に銃器を構える音が響いた。

 本体はアーマーギアの手の平に内蔵された量子砲を、クローンはエアバイクに内蔵された機銃の銃口をこちらに向ける。


 ――頼むぞ、ランドルギア! 私にタイミングを合わせろ!!


 咆哮するように声を上げると、聖剣は私の前方に“不可視の盾(インビジブル・アダマス)”を生み出した。

 銃弾の雨を受け流しながら私は腰を落として力を引き絞り、そして本体の放った光弾が盾を貫く直前で宇宙空間に向かって飛び出す。光弾は鎧を掠めて要塞の外壁を爆散させ、私はそれと入れ違いに本体の彼女目掛けて斬りかかった。


「っ!? ギア、回避!!」


 彼女が命令するより早く、白銀のレーシングバイクはアクセルターンのようにその場で旋回した。

 ほんのわずかな移動だが、慣性制御ができない私にそれを追いかける手段はなく。振り下ろした聖剣が宙を斬り、私の体は反動で回転しながら外宇宙へと投げ出された。


「カミカゼなんて、そんなものでぇ!」


 体勢を立て直した彼女は、遠ざかる私へ振り向きながら手の平をかざした。

 残りのクローンたちも、即座に機体の向きを変えて機銃のアイドリングを再開する。


「……っ!?」


 そこで彼女は硬直した。――いや、クローンを含めた“彼女たち”が硬直した。

 なぜなら、鎧を脱ぎ捨てそれを足場とした私が、三つ編みを振り乱しながら生身で宇宙空間に顔を出していたから。


 私を再度攻撃するために彼女が完全に静止する。

 その瞬間を見逃さなかった私は、内側から風船のようにはち切れそうになる肉体を気合で抑制しながら標的を定める。


 “破壊の一突き:壱式(バンガロールブレード・アインス)”!


 スキルで過剰に強化された下肢を駆使して鎧を蹴飛ばし、私の肉体は来た道を引き返すように一直線に突き抜けた。

 そうして彼女の体にタックルした私は、装甲の隙間に聖剣を食いこませながら追加のスキルを発動する。


 “重量補填(カウンターウェイト)”!


「同じ技の使い回しなど……っ!」


 力こそパワーなんだよ! ゼウス様だってそう言ってただろうがあぁぁー!!


 私は生身のままで声にならない叫びを挙げながら、本来なら何倍もの質量差があるパワードアーマーをレーシングバイクから強引に引き剥がした。

 彼女は咄嗟にバックパックのバーニアを吹かそうとするが、それより早くレーシングバイクに足を付けた私が再度声を上げる。


 “俊足の理(リーズン・フォー・スピードスター)”!!


 スキルに呼応して私の肉体が緑色の粒子と化し、それに巻き込まれる形で彼女も同様に分解された。

 私たちはそのまま一筋の線を描いて要塞に突き刺さり、十数秒前に彼女が量子砲で開いた外壁の穴へと飛び込む。


 内部は兵器の発艦甲か何かだったのだろうか。

 半壊したこの空間に激突した私たちは、衝撃で二つに別れながら無機質な地面を派手にバウンドして転がる。


 つまりここには、重力があると言うことで。


「……ぐうぅ、この程度の特攻で怯むと思ったか!」


 それが強がりだと分かる程度には、彼女も激突のショックで怯んでいた。


 しかし、そこは分厚い装甲を着込んだ彼女と、麻服しか着ていない生身の私の差。

 聖剣を手放した私はうつ伏せに倒れながら体中の打ち身に悲鳴を上げ、一方の彼女は拉げたヘルメットを引き剥がしながら数メートル先の私に手の平の銃口を向けていた。それだけではなく、クローンの彼女たちも即座に駆けつけこちらに銃を構えようとしていて。


 装甲の下から現れた、金髪ポニーテールの勇ましい女性の顔が牙を剥く。


「奇策だけで勝てる戦場(バトルフィールド)など……!」

『――“一度だけの仕切り直し(ワンタイム・リードゥー)”!!』


 バチッと電気が弾けるような音を立てて。

 私と彼女のいる空間が一瞬収縮したかと思うと、次の瞬間、二人は向かい合うようにして武器を下ろして対峙していた。


「……え?」


 っ!!


 彼女が呆けた一瞬で、私は腰だめに聖剣を突き出した。

 スキルで貫通性能を引き上げた剣が、パワードアーマーの胸部装甲を穿って彼女の心臓を貫く。


「な、がっ?!」


 彼女は何が起きたか把握する間もなく口から血を吐き出し、反射的に突き出された右腕から光弾が放たれ、私のすぐ後方で爆発した。

 その爆風に三つ編みを揺らされながら、私はぜぇぜぇと酸素を取り込みつつ聖剣を根元まで抉り込む。


 ……


 “一度だけの仕切り直し(ワンタイム・リードゥー)”


 場に存在する転倒や麻痺のような状態異常を一旦全て解除し、互いに正々堂々真正面から向き合った、まったくの同条件から“決闘”を再開するスキル。

 本来なら勇者が魔王への一騎打ちを挑むために使用されるべき、正真正銘この聖剣の最後の切り札だ。


「なにそのチートスキル……。なにが正々堂々だよ……」


 彼女は少し羨ましそうに呟くと、引き攣った笑みを浮かべながら私に寄りかかった。


 ……私もそう思う。

 自分の身に圧し掛かる百キロ以上の重みに耐えながら、私は英雄になりたかった傭兵の死に顔へ頬を寄せた。





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