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和解

「和馬、戦争からは手を引いてくれ。三国の連合軍は終結する事無く撤退するぞ」

「何でそんな事が分かる?」

「それぞれの国の軍に向けて化物を放ってるからな。それぞれ一騎当千どころか、単騎で世界を滅ぼせる戦力だ。絶対に勝てない」

「……魔王や大魔導士を倒せる俺達を出し抜いた八雲が言うんなら、事実なのかもな」

 そう言って和馬はスキルを解いた様で、和馬を覆っていたオーラは霧状になって散った。

「俺にとってはこの戦争なんてどうでもいい事なんだ。話ってのは別の事だ」

 真っ直ぐに俺を見て話す和馬は、予想通りおかしくなっている感じはしなかった。

 少なくとも隼人なら、戦争から手を引けと言った段階で警戒心を強めると思う。

 かなりこの世界の事情に傾向している感じがしたからな。

 戦争をどうでもいいと言う和馬は、一先ず敵対関係にはならないだろう。


 さて、和馬の話ってのは何だろうな?

 粗方予想は出来ているけど。

 俺の空間転移を見て、ひょっとして元の世界に帰れるのでは?とか考えたんだろ。

「八雲、何故ずっと俺達を避けてた?」

「そっちかい!」

 あ、思わずツッコんじまった。

 和馬は俺のツッコミにも動じず、真剣な瞳のまま俺の返答を待っている。

 けど、避けてた理由を言う訳には行かないんだよな……。

 どうしたもんか?

 そして、俺が何も言えず沈黙していると、しびれを切らしたのか和馬が徐に口を開く。

「六花に告白してフラれたか」

「何で知ってる!?」

「何だ、図星かよ」

「あっ……」

 しまった、あっさり墓穴を掘って更にその穴に自らダイブした。

 的確に核心を突いて来るから、焦って自ら吐露してしまった。

 俺がorzに成っていると、和馬はそのまま話を続ける。

「安心しろ八雲。隼人に言ったりしないって」

「そ、そうか……」

「けど腑に落ちない点もある」

 おのれ和馬、何処まで気付いている!?

 場合によっては消さねばならぬか?――ってのは冗談だけど。

 今はツッコんでくれる妹が居ないので、自己解決。

「な、何が腑に落ちないんだ?」

 恐る恐る聞いて見る。

「お前の性格的に、普通にフラれただけなら気持ちを押し殺して何事も無かった様に振る舞うだろ。俺達を避ける程の理由が有ったって事だ。隼人に遠慮して距離を置いたってのも違う感じがする。とすると考えられるのは、六花がもの凄く性格悪い一面を出して、お前に釘を刺したとかな。お前を監視する事に六花が神経を使わない様に、お前は俺達というより六花から距離を置いた……ってとこか?」

 御名答。

 あれ?和馬ってこんなに頭使える奴だったか?

 部活でも私生活でも、考えるより感じろで取りあえず突っ込んでいくタイプだった筈だ。

 異世界に来てから何か変わった?

 召喚時に頭良くなるパラメータでも極振りされたか?

「八雲、お前今凄く失礼な事考えてるだろ?」

「何故分かった!?」

「ぶっ殺すぞ?大体長い付き合いだし、お前全部顔に出るから分かるわ」

 それはさておき、完全に俺と六花の事ばれてるじゃねーか。

 和馬と仲直り出来るとは思えないけど、せめて口止めだけでもしとかないと隼人と六花の関係が拗れるかも知れないな。

 俺は六花にフラれたからって嫌いになった訳じゃない。

 あの時の六花は隼人との間に余計な茶々が入るのを嫌がったんだと思うから、多少キツい物言いになっても仕方が無いだろう。

 だから俺からは口外するつもりも無いし、それに気付いた他人にも口を挟んで欲しくない。

 俺の真剣な眼を見て和馬が嘆息した。

「誰にも言ったりしないって。お前らの事だから、俺が口挟むのは違うだろ」

「和馬……」

「でも、俺達を避けてたのは別の話だからな」

「うぐ……ごめん」

 言い訳も出来ずに目を逸らすしか出来なかった。

 和馬は男気溢れる奴だから、相談しても良かったのかも知れない。

 今更過ぎた事はどうにも出来ないけど。

 そう思い、ちらりと和馬の方を見ると、和馬は口角を上げてニヤリと笑った。

「ってことで、もう俺達を避ける理由は無いよな?」

「え?いや……そうなのか?って、駄目だろ。少なくとも隼人と六花とは距離を置かないと」

「う~ん。まぁ、六花とはよく話し合えよ。取りあえず俺は元通りお前に接するからな」

 やべぇ、嬉し過ぎてちょっと目頭が熱くなって来た。

 まさか、異世界で和馬と和解出来るなんて思わなかったよ。

 まだ隼人と六花の問題が残ってるけど、それは追々考えていこう。

「それにしても、そんな話だとは思わなかったよ。元の世界に帰る方法を教えろとか言われると思ってたのに」

 照れ隠しに俺が呟いた一言に和馬は目を見開いた。

 そして両手で俺の肩を掴み、鬼気迫る勢いで叫んだ。

「やっぱりお前、帰る方法を知ってるのか!?」

「あ、ああ。俺の『空間転移』のスキルで帰れるぞ」

「そうか、良かった……」

 目に涙を浮かべ、心底安堵しているのが分かった。

 勇者として強力なスキルを得ているとはいえ、異世界に来てかなり不安だったんだろうな。

 自由に行き来出来た俺には想像出来ない程、精神的に追い詰められていたんだろう。

 勇者召喚に於ける恩恵――スキルとかパラメータ上昇とかの問題はあるけど、和馬なら悪用する事も無いだろうし、元の世界に連れて帰っても大丈夫だろう。

 隼人と六花も術を解いてやれば、危険な奴らじゃないから連れて帰れる筈だ。

 和馬との話もついたし、隼人と六花を早く何とかしてやろう。


――ごふっ!


 俺の肩を掴んでいた手が緩み、和馬が口から鮮血を吐いた。

「う……」

 何が起きた!?

 そう思った瞬間、俺の腹部にも射し込む様な痛みが走った。

 和馬の腹から俺の腹へ細身の剣の様な物が突き抜けていた。

「な……んだ、これ?」

 俺の腹部に深く突き刺さった剣を、吹き出す血が赤く染め上げていく。

 そしてその剣が俺の腹から引き抜かれ、和馬の体からも引き抜かれた。

 崩れ落ちる和馬の後ろに見えたその剣を引き抜いた人物――女性?

 和馬との話に気を取られていて、接近に気付かなかった。

「何を勝手に帰ろうとしてるの?この裏切り者。まぁ、一番邪魔な奴を消す為に最後に役に立ってくれたし、その点だけは褒めてあげるわ」

 冷たい眼差しで倒れた和馬を見つめて、俺を一瞥した女は言葉を続ける。

「私と隼人の輝かしい未来には、あなたは邪魔なのよ。異世界なら罪に問われる事も無いから好都合。なんてラッキーなのかしら、フフフッ」

 以前の姿からは考えられない程妖艶な微笑を浮かべた美しい少女――六花が、赤く染まった剣を片手に立っていた。

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