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風神?

鎌鼬かまいたち

 風が吹くと、突然鋭利な鎌で切られた様に皮膚が裂ける現象。

 昔はイタチの仕業とされていたが、科学的には風が起きた時真空に近い低気圧が発生し、殺傷現象が起こると言われている。

 異世界に於いては同様の魔法も存在するが、強大な魔力を必要とする為、使い手は殆ど居ない。

 カマイタチが起こせない程度の風属性魔法は殺傷能力が低く、好んで使う魔導士は少ない。

 それ故にエッセル共和国の兵士達は目の前で起こっている惨劇を現実の物と受け止める事が出来なかった。

 クアトロ王国に比べて直接戦闘に長けた兵士が少ないエッセル共和国は、兵力を補う為に魔導兵器を大量投入していた。

 銀色の甲冑に身を包んだ重厚な戦士タイプのゴーレム型魔導兵器。

 それを合計30体も揃えて臨んだ今回の侵攻だったが、エッセル共和国軍は中継地点の魔王城にすら辿り着けずに、道中で思わぬ足止めを食らっていた。

 いや、足止めどころか下手をすれば撤退せざるを得ない程の大打撃を受けてしまっている。

 それもたった一人の少女の手によって。


「陣形を組め!敵はたった一人なんだぞ!包囲殲滅すれば直ぐに片がつく!!」

 声を張り上げ兵を鼓舞してはみるものの、圧倒的戦力の前に為す術が無い事を指揮を執っているテスタ代表は気付いていた。

 少女が舞う様に籠手を降ると一陣の風が渦を巻き、兵達を飲み込んで宙へと吹き飛ばす。

 魔導兵器が襲いかかれば少女の籠手から見えない刃が飛んだ様に、一刀の下に真っ二つに切り裂かれる。

 少女は紙でも切るかの様に襲い来る魔導兵器をスライスしていった。

 その見えない刃を生身の兵に使わないというだけでも、手加減されている事が明白である。

 歯噛みする程の悔しさと、絶望を突きつけられて折れそうな心を意志の力だけでなんとか封じ込めている。

 そして先日見た少女が数日の間に化物へと変貌を遂げている理由を何とか探っていた。

 テスタ代表は、先日少年と少女2人と中年の女性がプロトタイプの魔導兵器と闘っているのを目の前で見ていた。

 その時はそこまで圧倒的な力を見せていなかった。

 片割れのもう一人の少女と連携しても一撃で魔導兵器を屠る力など無かった。

 あの時と違うのは――籠手。

 つい先程通信兵からの報告で、クアトロ王国の軍が一人の籠手を着けた少女から襲撃を受けたと報告が入った。

 その少女は『雷神』と名乗ったと言う。

 そして目の前にいる少女も籠手を着けている。

 つまりこの少女は間違い無く、その『雷神』の片割れであろう。

 風を操る様から見て、さしずめ『風神』と言ったところか?

 竜巻に呑まれて飛んで行く兵達を見ながらそんな事を考えていたテスタ代表は、最早勝てない戦に興味を失っている様だった。

 降伏――それが頭を過ぎった時には、最後の魔導兵器がキャベツの千切りの様に縦にスライスされていた。


「さすが伝説の籠手だね~。これ加減しないと蟻を踏みつぶす様に命を摘み取っちゃうから危険すぎ」

 瓦礫となった魔導兵器の上に立ち、腕に装着された籠手を眺めながら美緒は呟いた。

 一つの軍を少女一人が殲滅出来てしまうのだから、使う人次第で世界は滅びる事だろう。

 恐ろしい迄の破壊力を持った籠手が二対存在するのは、片方が悪に堕ちた時それを止める為なのかも知れない。

 しかしそんな事は意に介さず、拾ったアイテム程度の認識しか無い美緒であった。

「あのハゲ見た事ある。あの人がボスかな?……あの頭に落書きしたい」

 美緒はおかしな欲求に捕らわれながら、残った兵士に守られているハゲ頭の男に近寄る。

 兵士達も最早戦意喪失していて、武器を構えてはいるが眼に生気は無かった。

 徐々に近づく美緒に気圧される様に、ジリジリと下がりながらテスタ代表は問うた。

「貴様、何者だ!?」

 某国の宰相と同様の質問を投げかけた代表に、少し考える素振りを見せてから美緒が答える。

「えっと、二つ名っぽく言えば『鎌鼬かまいたち』?」

「「「「「『風神ふうじん』じゃ無いのかよっ!!」」」」」

 まだ喋れる兵士達から一斉にツッコまれた。

 美紅が『雷神』と名乗っていたと報告を受けていたので、当然片割れであるこちらの少女は『風神』を名乗ると思ってたところに、美緒のネーミングセンスの無さが炸裂した結果である。

 異世界でも雷神と風神は対を成す神とされている様だ。

「じゃあ、『風神』でいいや」

「「「「「軽っ!!」」」」」

 美緒にとってはどうでもいい事をツッコまれて、不服だと言わんばかりに頬を膨らませる。

「これ以上余計なツッコミ入れたら、全員竜巻で空中遊泳楽しんで貰うよ?」

「「「「「すいませんっした!!」」」」」

 実にどうでもいい処で連携が取れているエッセル共和国の兵達であった。

 そして、これ以上怒らせては危険と判断した兵達が、美緒の進む道をモーゼが海を割った様に空けてくれた。

 最早諦めているテスタ代表は兵達の行動に憤る事も無く、冷静に受け止めていた。


 何が悪かったのか。

 魔導兵器をもっと大量に投入すべきだったか?

 兵卒の育成に力を入れるべきだったか?

 他国同様達人を雇うべきだったか?

 そもそも折角召喚した勇者をクアトロ王国に連れて行かれてしまったのが悪かった?

 それとも単純に運が悪かった?

 今更反省しても何も得られないが、後悔は波の様に何度も押し寄せる。

 この目の前のたった一人の少女が立ちはだかった事で全てが水泡に帰した。

 一矢報いる術も無いなら、せめてこの少女の目的だけでも知りたい。

 テスタ代表は拳を握り締め、この圧倒的に負けた闘いの答えを求めた。

「何故お前達は我らを殲滅したのだ?」

 ハゲた頭のコミカルさとは対照的な真剣な眼差しで聞かれ、美緒はキョトンとしつつさも当然の答えがそこにある様に応えた。

「あなた達がお兄ちゃんの敵だから」

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