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雷神

 クアトロ王国宰相アストア=ヴォルノイは困惑していた。

 何故この兵士はこんな報告をしに来たのか?

「魔大陸、魔王城に向かう道中にて黒髪の少女が一名現れ、現在交戦中です。戦闘に関するご指示を頂きたく参上しました」

 一瞬宰相の頭を過ぎったのは、魔王城に住むという大魔導士ノヴァの姿。

 しかし、彼女は金髪金眼の少女であるという。

 今この兵士が報告したのは黒髪の少女という事なので、大魔導士では無いのだろう。

 ならばたかが少女一人と闘うのに全軍の将である自分に指示を仰ぐのはどう言う訳だ?

 アストア宰相は状況が呑み込めないまま報告に来た兵士を睨む。

 仮にも一部隊の隊長クラスが報告に来た。

 この程度の些事に対応出来ない程無能な者を部隊の隊長に据える事などしないのだから、確実に何かが起こっている。

 しかし、それを引き起こしているのがたった一人の少女だと言う。

 考えられるのは、未知の魔物が洞窟から這い出して来たと言った処か。

 姿が少女だからと侮って全滅するのは愚の骨頂である。

 そう判断したアストア宰相は全軍で殲滅せよと指示を出そうとした。

 次の瞬間、宰相の乗った馬車の両脇を轟音を響かせながら稲妻が駆け抜け、周辺を守っていた兵士達が叫びを上げ一斉にその場に倒れ伏した。

 ブスブスと鎧や服が焦げる臭いが立ち込める。

「なっ、何が起こった!?」

 状況が把握出来ない。

 攻撃?

 魔法?

 この魔王城へと続く街道を見渡す限り埋め尽くしていた兵卒達が、一瞬で立ち上がる事も出来ない程のダメージを受けて倒れてしまうとは、どれ程強大な魔法を行使されたのか。

 宰相は状況を確認しようと馬車から降り、攻撃が来た方角である前方に視線を移す。

 そこに立っていたのは、報告に有った特徴と一致する一人の黒髪の少女。

 年は人間にすれば13~15ぐらいであろうか。

 しかし、物の怪の類いであれば、見かけの情報など当てにはならない。

 少女の身に付けている両腕の籠手がパリパリと稲妻の余波の様な物を纏わせていた。

 先程の攻撃はやはりこの少女が放った物か。

 しかし、あれ程の大規模な魔法を使える者など、大魔導士クラスで無ければ有り得ない。

 そんな話など聞いた事が無いと、背筋に冷たい物が走ったアストア宰相は考えを巡らす。

 戦力差が数の理論を無視した形で突きつけられては、策を労する事に意味は無いだろう。

 勇者達を先行させたのは間違いだったか。

 出し惜しみしている場合では無いと判断した宰相は部下に向かって叫んだ。

「魔導兵器を全て投入だ!見た目に惑わされるな!魔王クラスの敵と認識し、全力を持って迎撃しろ!」

 負傷兵を担いで後方へ下がる者、魔導兵器の起動に向かう者等、宰相の指示に従って戦場が急激に動き出す。

 だが、前方に立っている敵――であるはずの少女は、その場にそぐわない態度で遙か遠方の空を見つめていた。


「今のって師匠の気だよね?何時になく本気で怒ってるみたい。敵さん可愛そうに」

 自分が引き起こした目の前の惨劇を棚に上げて、視線の先から感じる戦闘の気配に微妙な感想を呟く美紅。

 そして前方の兵達の動きは無視して、パリパリと残留放電が纏わり付く両腕の籠手に視線を落とす。

「それにしても凄い威力。敵さん皆生きてるよね?2割ぐらいに加減して撃ったのに敵の大半が戦闘不能になっちゃった。この籠手って世に出して良い物じゃないね、きっと」

 ボソッと恐ろしい事を呟いたが、それを聞く事が出来た者は誰もいない。

 美紅の周囲には気を失った兵士達が無造作に積み上げられているだけなのだから。

 美紅は倒れた兵士達を踏み越えながら、ずっと先に見える豪奢な馬車に近づいていく。

 その馬車から降りて戦慄した表情で此方を見ている男と目が合った。

「あれが相手の大将かな?あんまり好みじゃないから容赦しなくてもいいね」

 美紅と目が合った宰相の後方で、突如土煙が数カ所で舞い上がる。

 銀色の装甲を纏った鈍重そうな兵士の様な姿が動き出す。

 大きさは3m弱で以前見た龍型のそれ程ではないが、普通の人間よりかなり大きい。

 蒸気の様な物を体の各所から吹き出しながら、それは徐々に動きを軽快にしていく。

「エッセル共和国で見た魔導兵器を強化したヤツ?気を感じないから中の人は居ないみたいだし、ちょっと全力で撃ってみよっと」

 銀色の魔導兵器が宰相の合図と共に美紅に襲いかかった。

 全部で15体。

 鈍重そうな見かけからはとても予測出来ない軽快な動きで跳躍し、始めの5体が美紅に向けて蹴りを放つ。

「せーのっ!」

 美紅は肘を少し後ろに引いた体制から、籠手を前に撃ち出す様に両腕を押し出した。

 同時に籠手から稲光が直線的に照射され、辺りを一瞬明るく照らす。

 遅れて大気を揺るがす轟音が魔大陸の街道に響き渡る。

 全力で撃ち出された伝説の籠手の力の前に、宙を跳んでいた魔導兵器5体は塵も残さず消え去った。

「魔導兵器って魔法効かないはずなのに、完全にオーバーキルだったね。でも流石に全力は疲れるなぁ。あと1回ぐらいしか撃てないし、30%ぐらいに抑えとこうっと」

 第二陣として次の5体が地を掛けて来るのを、美紅は3割に抑えた雷撃で打ち抜く。

 伝説の籠手から発せられる攻撃は魔法の様な現象ではあるが、物理特性も持っているらしく、魔導兵器の耐魔法コーティングを易々と貫く。

 美紅の放った雷撃は4体の魔導兵器を貫き、その行動を止めた。

 雷撃を受けなかった残りの1体が美紅を射程に捕らえて、眼からレーザーの様な魔力砲を放つ。

 しかし、そこにあった少女の姿は残像。

 既に美紅は仕留め損なったその魔導兵器の懐に潜り込んでいた。

 雷を拳に纏わせて拳撃突き出すと、魔導兵器の胴体の中心に大きな穴が穿たれてその動きを止めた。

「うん、やっぱり直接殴る方が楽しい」

 美紅はそう呟き、残りの5体に向かって疾風の如く駆けだした。


「な、なんだアレは!魔族の上位種か何かなのか!?魔導兵器が全く役に立たないとはっ!」

 青ざめて冷静さを欠いたアストア宰相の様子を見て、周りの兵達も浮き足立つ。

 魔導兵器が次々に沈黙していく事で、後方の兵士は命令を待たずに我先にと逃げ出していた。

 軍が瓦解していく事にも気付けない程衝撃に打ち震えている宰相の目の前に、全ての魔導兵器を沈黙させた少女が降り立った。

「き、貴様っ、何者だっ!?」

 辛うじて発する事が出来たのは相手の正体を聞く言葉だけだった。

 それ程に宰相は狼狽していた。

「何者って言われても……。そうだ、二つ名とか欲しいから『雷神らいじん』とでも名乗っておこうかな」

 『雷神』と名乗った少女に抗う術が無い事を悟っている宰相は、自分の命が風前の灯火であると覚悟を決めて最後に問うた。

「それ程の力を何故、選りに選って我が軍に向けたのか教えてくれ」

 だが、その問いに少女は少し考える素振りを見せる。


――何でだっけ?


 即答出来ない程度の答えの為に我が軍は崩壊したのかと、宰相は唖然とするしかなかった。

 そして返って来た答えは至極単純なものだった。

「えっと、お兄ちゃんの敵だから?」

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