変身
魔王城に向かっている魔力の塊は3つ。
飛行機並の速度で急接近してくるこれらは、間違い無く現勇者である隼人達だな。
他の兵はまだ魔大陸に入ったばかりの様で、遙か遠くをゾロゾロと動いている。
勇者だけ先行させているのは、魔王城に居る敵――俺達を完全に排除する為だろう。
『敵兵の中に生命体では無い高い魔力を秘めた何かが数体居るな。恐らく魔導兵器だろう。それがエッセル共和国の方からも来る』
賢者の石の言葉に、その場に居た全員が表情を引き締める。
一体でもかなり厄介な魔導兵器が数体。
しかも、クアトロ王国だけじゃなくエッセル共和国までとは。
美紀叔母さんが破壊した一体だけじゃ無かったのか。
あれと真面に闘えるのなんて気功を使える人間だけだ。
各国の兵はお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに任せようと思ってたけど、魔導兵器がいるんじゃ話は変わってくる。
ちょっと厳しいかも知れないけど、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんには勇者と闘って貰おう。
「美紅、美緒。二手に分かれて魔導兵器の殲滅頼めるか?あれは気功じゃ無いと破壊出来ないから」
俺が二人に頼むと、何時もとは違う反応が妹達から返って来た。
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「お兄ちゃん、あの勇者達の中にいた女の人って……」
珍しく俺を心配している眼を向けた妹達に、俺は少し戸惑ってしまう。
そうか、中学が一緒だったし六花の事も知っていたか。
俺の中じゃとっくに終わってる事なんだけど、周りから見たら違うのかな?
いや、頭では理解していてもハルナに対する拒絶反応から見るに、心はまだ引き摺ってるのかも知れない。
それでも、妹達に心配されてる様じゃ兄貴失格だと思う。
「大丈夫だって。あの程度のスキル、俺には大した脅威じゃないから」
「「そうじゃなくて」」
「だから、大丈夫なんだって」
俺の言葉に納得出来て無さそうな妹達の頭を撫でてやると、美紅と美緒は渋々頷いた。
それにしても俺自身ですら気付いて無い事まで分かるとか、こいつらのチート能力ってホント凄ぇよな。
女の勘ってヤツだろうか?
美紅と美緒が『舞空』を発動して飛んで行ってから、数分もしない内に隼人達3人が魔王城に降り立った。
クアトロ王国方面に向かった美紅を放って置いたのは、一人ぐらいでは王国の兵達を止められないと高をくくったからか?
一騎当千、いや一騎当万クラスのチート妹を舐めすぎたと後悔する事になるだろうな。
美緒はエッセル共和国方面に向かったが、特に心配する事は無いだろう。
「やはりこの魔王城へ戻っていたか。先日の決着を付けさせて貰うぞ、この世界の平和の為にな」
隼人が剣を抜いて構えながら前口上――というより本題を述べた。
やはり目の色が違う気がするし、話し合いは不可能か?
いや?この反応は……。
「レド、鎧化だ。闘うぞ」
『承知しました、ご主人様』
レッドドラゴンの姿が赤い光へと変貌し、俺の体に纏わり付く。
そして徐々に光りが弱まると共に、真紅の鎧の形を成して体の各所に装着された。
それとほぼ同時に付近の魔力が蒸発したかの様に突然消え去る。
六花がスキルを発動した様だ。
当然の事ながら、俺の空間転移のスキルも隼人のスキルによって封じられた。
切り札になるスキルを最初から使うとか、闘いに関してはやっぱり素人だな。
部活ばっかやってて、そういう駆け引きには疎いのかも知れない。
「レーチェはどっかに隠れてろ。アランさん、ノヴァさん、行けそう?」
「うん、大丈夫だと思うよ。魔力は身体強化に使える位はストック出来たみたいだし」
「ちょっと待て、今変身するから」
それぞれ魔導具から禍々しいオーラを発しながら、二人は返答してくれた。
絶対その魔導具呪われてるよ!
お祖母ちゃんは黒いオーラが纏わり付いている杖を天に向けて掲げ、カナリアの様な美声で高らかに叫んだ。
「へんしーん!!」
その声に呼応する様に杖から出ていた黒いオーラは帯状の光になり、お祖母ちゃんの四肢に纏わり付く。
以前と違うのは、杖自体も帯状になって体に纏わり付いていった処だ。
残った賢者の石は、黒いブローチになってお祖母ちゃんの首元に装着される。
そして帯状の光はお祖母ちゃんの体に巻き付いた部分から次々とフリルの付いた可愛らしいコスチュームへと変化して行く。
それに合わせて、何故かお祖母ちゃんはクルクルとバレエダンサーの様にポーズを決めて回っていた。
アニメの変身シーンを再現してるのか?
隼人達は呆気にとられて襲ってくる気配が無いので、お祖母ちゃんの気が済むまでやらせてあげよう。
三回転ぐらいした処で変身が完了し、ゴスロリちっくな可愛らしい姿の金髪美少女がドヤ顔で決めポーズをとった。
杖のデザインがもの凄く残念だったからどんな衣装になるかと思ったが、真衣のデザインにしてはかなり真面に仕上がっていた。
お祖母ちゃんがルル達と見ていたアニメを参考にしたのかも知れないな。
隼人達が半分白目になっているのに対して、お祖父ちゃんはお祖母ちゃんへ熱い眼差しを送って頬を赤く染めていた。
いや外見は可愛いけど、年齢も考慮しようぜ。
そして、変身したお祖母ちゃんを見て和馬が一言呟く。
「魔法少女……?」
おしい!正解は魔法老女でした。
そして、俺は以前の変身との違和感を感じていた。
杖までコスチュームになっちゃったら武器無いじゃん。
「ノヴァさん、武器が無いけどどうするの?」
「アニメでは魔法と言う名の物理攻撃をしていたので、私も素手で殴ろうと思う」
ぐっと拳を握るお祖母ちゃんの眼は本気だった。
絶対につっこまないからね。
「じゃあアランさんとノヴァさんはあの青鎧の勇者とピンクローブの勇者の方を頼むよ。俺は黄色鎧の勇者の相手をするから」
「「了解した」」
俺の指示にお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが頷くと、ほぼ同時に六花が魔法を発動させて攻撃してきた。
ジャブ程度のファイアボールだが、仮にも勇者の放つ魔法だけあって大きい火の玉が轟音を上げて迫ってくる。
しかし、危険予知で未来の攻撃が見えている俺は、同じ魔法を既に魔眼にストックしてある。
無詠唱で同程度のファイアボールを発動して相殺すると、六花は眼を見開いて驚いていた。
「詠唱している素振りは無いし、魔力が無い状態で魔法が使えるって事は、魔導具を使って魔法を発動しているのか?」
隼人が何かブツブツ言ってるが、勘違いを正してやる必要も無いのでほっとこう。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが隼人と六花に向かって駆け出したのを見て、俺も力強く地面を蹴った。
ドラゴンの鎧を纏った事で、外気功による強化を成した俺の脚力は魔力による身体強化を超える力を発揮出来る。
一瞬でお祖母ちゃん達を追い抜き、和馬の懐へ潜り込んだ俺は、スキルを使う間も与えずに倒すために腹部へ右拳を叩き込む。
しかし、それは和馬が身を捻った事で難無く躱されてしまった。
流石、一年から部活でレギュラーとして活躍出来る程の運動神経を持ってるだけある。
もっとも俺の目的は、和馬を倒す事では無く和馬と話をする事だ。
俺はそのまま右手で和馬の右腕を掴み、隼人と六花から引き離す様に魔王城の瓦礫が積もった方向へ投げた。
初撃を躱した事で油断していたのか、思いの外容易く投げられた和馬は、体を丸くして防御姿勢を取りながら瓦礫に突っ込んでいった。
「和馬っ!」
その様子に動揺した隼人だったが、お祖母ちゃんの素早い攻撃に防戦一方になり、此方に助けに入る事も出来ない様だ。
そして六花は、魔法でシールドを展開しながらお祖父ちゃんの攻撃を何とか防いでいた。
状況確認の為に二人の方へちらりと視線を移した俺は、一瞬だけ見せた六花の不気味な微笑みに戦慄する。
俺には今更六花に対しての想いなど無いが、彼女の中ではまだ何か燻っている物があるのかも知れない。
それが決して好意的な感情では無い事を六花の瞳が告げていた。




