デザイン
異世界から一時、元の世界の自宅へ帰って来た。
何時も通り玄関に転移すると見かけない女物のスニーカーが揃えて脱いである。
誰か来てるのかな?
俺と妹達がリビングに入ると、ルルとミーシャとお祖母ちゃんが魔法少女物のアニメを見ていた。
3人の後ろ姿はさながら姉妹の様であったが、その内の一人は腐に目覚めそうなBBAだ。
「これが新しいプティキュアか。魔法少女とか言ってるが、ほぼ物理攻撃じゃのう」
視聴者の誰もが思ってても口に出さない事を容易に吐露するお祖母ちゃん。
子供向け番組なんだし、そこは目を瞑ってやれよ。
容赦無い感想にドン引きしていると、俺達が入って来た事に気付いた女の子が話しかけてくる。
「八雲君、良かった。もう出たって聞いてたから会えないと思ってたのに」
「誰かと思ったら真衣か。いや、丁度良かった。魔導具の製作を頼もうと思ってたから、家に行く手間が省けた」
何故か家にいた真衣が笑顔を向けて来るが、俺にとっては好都合。
時間も無い事だし、早速魔導具を作って貰おう。
さて魔法石を取り出して置く場所を確保しようとリビングを見渡すと、謎の物体――いや、見た事ある気がする魔導具が転がっていた。
『ヤ、ヤクモ……我の姿、今どうなってる?』
賢者の石だった。
魔法石の部分はそのまま残っていたが以前の洗練された杖の形は見る影も無く、禍々しい魔界の悪魔をイメージしたかの様な棒状の何かになって転がっていた。
「私がリニューアルしてパワーアップしておいたの。どうかな?」
もの凄い期待感の籠もった眼で俺に感想を求める真衣。
どうって、もの凄く残念な形状ですけど……?
「えっと……斬新な杖だね。高位な魔物とか召喚出来そうなぐらい」
全く賛辞になっていない俺の感想に、何故か真衣は頬を赤らめて俯く。
褒め言葉と受け取って貰えて何よりだ。
だからもう俺に感想を求めるのは止めてね。
「それで作って貰いたい物なんだけど、スキルを消す魔導具って作れるか?」
「う~ん、この中の魔法石じゃちょっと無理かも。スキルを消すのって召喚魔方陣を作れる位の魔力を込めれないと駄目だから。昨日作った魔導具に使われてる魔法石が最低でも5個ぐらい必要だよ。しかも1回使ったら壊れる程度の魔導具にしかならないと思う」
俺の依頼に、真衣は魔法石を手にとって見比べながら応える。
スキルを消せる賢者の石ってやっぱ別格なんだな。
でも昨日使った魔法石程の物なんて何処で手に入れればいいんだ?
いや、手に入れる手段が有ってももう時間が無いし、取りには行ってられない。
ここは発想を変えるとするか。
「じゃあ、魔力をストックしておくとか、魔法をストックしておく様な魔導具は?」
「それ位なら大丈夫だよ。強力な魔法石は少ないけど種類は豊富だから、組み合わせれば出来ると思う」
「よし、それで頼む。形は杖とかだと闘う時使いづらいから、腕輪にして貰えるか?」
「了解。じゃあ金具部分に使う金属も出しておいて」
真衣が魔法石を選んでいる横に、魔導兵器の金属部分を空間収納から取り出して置いた。
真衣は赤と緑と青の魔法石を右手に持って金属を左手に持つと、静かに眼を閉じる。
イメージを固める為に集中している様で、数秒間動きを止めた。
残念なイメージになってません様に……。
「『創造』!!」
真衣が高らかに唱えてスキルを発動させると、魔法石と金属は眩い輝きを放ち一つに合わさる。
暫くすると輝きが消え、そこには――禍々しい呪いの魔導具が顕現していた。
「マジか……」
銀色の金属を使った筈なのに黒い外装になっていて、蛇柄の文様みたいなのが浮かんでいる。
銀って空気中の硫化水素と反応すると黒くなるんだっけ?
それにしてもどす黒い。
更に赤と緑と青の魔法石は一つの赤紫色の魔法石へと変化して、腕輪の中央に埋め込まれていた。
その魔法石には紫と黒の靄の様なものがうねりながら纏わり付いている。
これ装備したら絶対呪われるだろ!
……まぁいいや、どうせお祖父ちゃん用だし。
俺の分も作って貰おうと思ってたけど、別に無くても闘えるから要らないな。
俺がリビングの隅で空気になっていたお祖父ちゃんに視線を向けると、俺の意図に気付いたのか眼を見開いたお祖父ちゃん。
「……ア、アランさん。この魔導具で魔力とか魔法とかストック出来る様になるから、これ付けて闘って貰えるかな?」
「え?八雲君が使うんじゃないの?じゃあ、もう一個作るね」
「えっ!?」
俺が装備しない事が分かると、真衣はいそいそと魔法石をあさり始める。
ま、拙い!新たな呪いの魔導具が生成されてしまうっ!
「いやいやいや!俺はドラゴンの鎧が有るから大丈夫っ!ってか、鎧装備したら着けられないから!」
「そうなの?でも、恩返しに何か八雲君にも作ってあげたいけど」
「うん、ありがとう。気持ちだけ貰っておくよ」
危ないところだった。
なんとか真衣に諦めて貰って、お祖父ちゃんに魔導具(呪い)を手渡した。
「まぁ、今更一個ぐらい呪いが増えても大した事ないからね……」
哀愁を肩に乗せたお祖父ちゃんは俺から腕輪を受け取ると、淋しそうに左腕に魔導具を装着した。
二度と外れないとかじゃ無い事を祈る。
しかし、何故真衣のデザインがこれ程悪い方にエスカレートしているんだ?
昨日迄は不格好でも呪われそうな程のデザインでは無かったのに……。
便利な能力だけど、もう頼るのは止めとこうかな。
「この程度じゃ全然恩返しにならないから、後で何か作っておくね」
「あ、ああ」
満面の笑顔を浮かべて微笑む真衣に、俺は薄い笑いを浮かべて返事するしか出来なかった。
「「お兄ちゃん……哀れ」」
終始後ろから見ているだけだった妹達がそっと目を伏せた。
さて、気を取り直していこうか。
「アランさんとノヴァさん。異世界に戻って闘って貰いたいんだけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。この呪……魔導具があるし」
「私も大丈夫だ。真衣に新しいコスチューム作ってもらったからの」
俺が聞くとお祖父ちゃんはやや項垂れて返事をし、お祖母ちゃんは眼を輝かせてガッツポーズをとった。
賢者の石がパワーアップした事で新たな痛コスチュームが誕生してしまったのか。
お祖母ちゃんのあの姿だけでも破壊力抜群だからな。
いや、中身がBBAだという事を知らなければ、普通に可愛いコスプレ美少女になってしまうのか。
まぁ変身した時のお祖母ちゃん強いし、問題無いか。
玄関まで全員でゾロゾロと歩いていくと、流石に廊下が狭かった。
「じゃあ、アランさんとノヴァさん俺に掴まって。レーチェとレドも行くぞ」
「え~、私も行くの~?」
『承知しました、ご主人様』
ふらふら飛んでいるレーチェと、ミーシャに抱っこされていたレド――レッドドラゴンを掴まえる。
「じゃあ、俺達また異世界に行ってくるから」
美紅と美緒が俺に掴まったのを確認してから、ルルとミーシャと真衣に手を振って空間転移を発動した。
そう言えば、母さんと父さんの姿が見えなかったけど、どっか出掛けたのかな?
別に用事は無いからいいんだけど。
そんな事を考えてる一瞬の間に、目の前の風景は瓦礫に埋もれた魔王城へと移り変わる。
「レーチェ、ハルナがどっちの方にいるか分かるか?」
「えっと、魔大陸のアイン王国方面かな~?ここからだと結構距離あるよ~」
レーチェがマーキングでハルナの位置を割り出してくれたが、魔王城に来るよりアイン王国に転移しといた方が近かったのかもな。
早くハルナに会いに行きたかったが、俺の危険予知は厄介な3人が接近している事を告げていた。




