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常識外れ

 俺と妹達は組織の本部があるサントゥリア王国に来ている。

 直接氷の女王や騎士風のおっさんの元へ行ってもいいが、相手をなるべく傷つけずに無力化したいので圧倒的戦力で臨みたい。

 俺と妹達だけでも勝つ事は可能だろうけど、無傷で勝つのは難しいだろう。

 という事で美紀叔母さんの助力を仰ごうという訳だ。

 それと俺が異世界に来なかった間に世界情勢がどう変わったのか、ティエンさんに聞こうと思って。

 魔王の娘にして組織の首領であるティエンさんなら、隼人達の情報も掴んでいるかもしれないし。

 真衣は基本的に牢に捕らわれていた為、殆ど隼人達との接触は無かったらしいので詳しい事は聞けなかった。

 それに隼人達の事も気になるが、クアトロ王国の動きも気になる。

 クアトロ王国の宰相が勇者から催眠術の手解きを受けているとしたら、魔導具を使って催眠術を解いたとしてもまた掛けられてしまう懸念が残る。

 勇者同様に魔界に送るにしても、お祖母ちゃんの魔力は殆ど残って無いからもう一度送還魔法を使う事は出来ない。

 あとは幽閉するしか方法が無いと思うけど、仮にも一国の権力者を幽閉するには色々問題があるだろう。

 異世界の平穏の為とは言え、俺が力ずくで解決していい事なのかどうか良く分からないし。

 その辺の判断もティエンさんに委ねようと思っている。


 和風の廊下を歩く俺達の重さで足元の木が軋む。

 その音で俺達の存在を捉えたのか、忍装束の男が突如目の前に現れた。

「ヤクモ様でしたか。突然気配が現れたので慌てて駆けつけましたが無用だった様ですね。首領は何時もの広間に居りますので」

 以前と違い妙に友好的な忍装束の男に困惑してしまう。

 この数日の間に何があった?

 まぁ敵対的じゃ無いならどうでも良いんだけどさ。

 俺達は言われるままに広間へ向かう。


 木造の扉を開けて広間へ入ると、ティエンさんは忍装束の男から何やら報告を受けている最中だった。

 さっき会った男の人とは違うようだけど、頭巾を巻いてるから誰が誰やら分からない。

 ティエンさんはどれが誰なのか判別出来ているんだろうか?

 報告を終えた男はそのまま姿を消した。

 俺達を見て怪訝な顔をすると、大きく溜息をつくティエンさん。

「ヤクモ、君が来る度に色々厄介事が起こるんだが、何か心当たりは?」

「いやいや、濡れ衣でしょ!何で俺のせい!?」

 ティエンさんの言葉に、流石に俺も憤った。

 人を、行く先々でトラブルを呼び込む某少年探偵みたいに言うのは止めて欲しい。

「お兄ちゃんには女難の相が出てるもんね」

「お兄ちゃん的にはT○L○VEルが起きた方が嬉しいんだろうけどね」

 うん。T○L○veルなら大歓迎だ。

 是非呼び込んで欲しいと切に願う。

 いや、そんな事より厄介事ってさっき報告されてた事か?

「何か起こったんですか?」

「うむ。クアトロ王国とエッセル共和国とアイン王国が三国同盟を組んで、魔大陸を経由し、このサントゥリア王国に向けて進軍して来た。中心の魔王城は勇者が魔王を退けた為もぬけの殻らしく、魔族の攻撃を殆ど受けずに突っ切れる様になってしまったらしい。父上や母上は倒された訳では無く行方不明らしいが、抑止力の無い今の状態では世界中を巻き込んだ戦争にも発展しかねん」

「あ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんなら、勇者達にやられそうだったんで家で保護してますよ」

「何いいいぃぃぃ!?」

 顎が外れそうな程驚愕しているティエンさんと対照的に、俺達兄妹は至って冷静だ。

 向こうが攻めて来てくれるなら、クアトロ王国の宰相を捕まえる口実も出来るので好都合だし。

 と思っていたらティエンさんが俺の肩を掴んでガクガクと揺さぶる。

「ヤクモぉ、早く父上と母上を魔王城に戻すんだ!大変な事になるぞぉ!」

 ティエンさん、目の色が変わってて怖えよ。

「落ち着いてください。今のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんじゃ勇者にやられるのがオチですよ。お祖父ちゃんは装備が無いし、お祖母ちゃんは前の勇者を送還するのに魔力を使い切ってるんですから」

「う……それはそうだが……」

「取りあえず色々聞きたい事が有ったんです。事は急を要するかも知れないですが、俺の用件も結構重要なので。良いですか?」

「ああ、分かった」

 一先ずティエンさんも呼吸を整えて、上座に戻った。

「それにしても魔王城ってそんなに重要な拠点なんですか?」

「勿論だ。各国に繋がっている門を結ぶ道は全て魔王城を経由している。魔大陸の森を無理矢理突っ切れば他の国の門へ行く事も出来るが、魔物の巣窟である森を行軍すれば不要な戦闘を強いられる。魔王城を無傷で通過出来れば他国への進軍はとても容易になるんだ」

「なるほど。じゃあお祖父ちゃんとお祖母ちゃんには魔王城へ戻って貰わないとだね。その為には勇者を抑えないといけないか」

「だが、今回召喚された勇者達は相当に強い。しかも3人だ。情報によると賢者の石と同等のスキルまで使うらしい。はっきり言って魔力が全快している母上でも勝てないかも知れない」

 ティエンさんは顎に手を当てて真剣な表情で考え込む。

 まぁ、丁度勇者の話題が出た事だし、組織の手に入れている情報を聞いておくか。

「その3人の勇者について知ってる事を教えて欲しいんですが」

「3人の勇者か。本来ならその土地の精霊の魔力が満ちるまで召喚など行えないのだが、今回は例の女勇者が魔導具を作ってそれを補ったらしい。そんな事が可能なら、クアトロ王国はあの女勇者がいる限り、無限に強力な兵を揃える事が出来てしまう」

「ああ、その心配は要らないですよ。女勇者は元の世界に還しましたから」

「は!?え!?は!?」

 ティエンさん、百面相してる場合じゃないでしょ。

「女勇者がクアトロ王国から逃げ出した処を保護して、俺の空間転移で元の世界に連れて行きました。だから、その無茶な召喚はもう出来ませんよ」

「……ヤクモ、君は何処まで常識外れなんだ?」

「いや、そんなに褒めないで下さいよ」

「「お兄ちゃん、褒められてないと思うよ」」

 解せぬ!

「しかし、女勇者が元の世界へ帰ったと言うならば、一つ肩の荷が下りた」

 ホッと息を吐いたティエンさんは、静かに瞑目する。

 数秒何かを考える様子を見せたが、目を開くと俺を見て話を続けた。

「此度召喚された勇者達は前の勇者よりも強力なスキルを持っている。一人は『技能消去』。相手のスキルを一つ消すスキル。これは対処法が確立していて、相手にスキルを使ったと認識されなければ消される事は無い。そしてもう一人は『魔力消去』。これが一番厄介だろう。周囲の魔力を完全に消し去ってしまうのに、自身が味方と判断した者の魔力だけは残せるという物だ。対処法は、時間制限まで耐え凌いで効果が切れるのを待つ事ぐらいだ。身体強化も無しで相手の攻撃を耐え凌ぐのはかなり難しいだろう。残りの一人は『絶対無敵』。物理、魔法に拘わらず全ての攻撃を受け付けない。これも時間制限があるが、攻撃まで無敵状態なので盾で受ける事も適わない。耐え凌ぐのではなく逃げ続けるしか対処法が無い。無敵なのは本人だけなので距離を取っていれば何とかなるとは思うが。分かっているのはこのぐらいだ」

 隼人達のスキルについてティエンさんが詳細に説明してくれた。

 『技能消去』は隼人のスキル、『魔力消去』は六花のスキルだな。

 ということは、和馬のスキルは『絶対無敵』か。

 攻撃まで無敵とか、どうやって闘えばいいんだ?

 いや、唯一話を聞いてくれそうだったし、和馬とは話し合いをする方向で考えよう。


 勇者について聞き終えた俺は、次の話を振ってみる。

「前の勇者が掛けた術についてはどれ位調べてありますか?」

 俺の質問にティエンさんは眉を寄せて俯いた。

「残念ながら術の正体は掴めていない。だが、勇者が現れる以前と様子に変化があった人物はリストアップしてある。後は術に対する対処法さえ掴めれば何とか出来るのだが、如何せん魔法も効かない謎の術だ」

「そうですか。じゃあ、その術を解く為の魔導具があるので、後で術を掛けられた人のリストを下さい」

「はあぁぁ!?」

 俺が空間収納から魔導具を取り出して見せると、正に開いた口が塞がらなくなったティエンさん。

 この人、からかうとすげぇ面白いかも。

「いや、もう驚くのは止めよう。お前の常識外れに付き合っていたら精神が持たない」

 ティエンさん、何か凄く失礼な事を言ってる気がするな。

 もっと俺を称えなさい。

 この魔導具作ったの俺じゃ無いけど。

「只、この魔導具は相手にしばらく照射し続けないと効果が出ないんです。その為に術に掛かった人を拘束しなければいけません。場合によっては達人クラスの人を無力化しなければいけないので、美紀さんを連れて行きたいのですが今何処にいますか?」

「あぁ、君の叔母上か。ミキ殿はラルドと共に魔大陸の警戒に向かって貰っている。ハルナも付いて行ってるから、レーチェが居れば場所も分かるだろう」

 ハルナも一緒か……。

 妹達が意味ありげに俺を睨む。

 分かってるよ、逃げないでちゃんと話するよ。

 美紅と美緒の頭を軽く撫でて、俺は意を決する。

 ん?何か忘れてるような……あ、レーチェを家に忘れて来た。

伏せ字が伏せ字になってない様に見えるけど伏せ字です。

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