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作戦

和馬視点です。

 鎧を着た兵士達が慌ただしく駆け回る中、俺達3人は失態を報告するために一時帰国した。

 ここクアトロ王国は王政ではあるが、実質宰相が実権を握っている。

 俺達を召喚したのも、その後の支援や要請等を諸々執り行っているのも宰相だ。

 今回受けた任務は魔王の撃退だったが、成功したとはとても言えない。

 それに加えて目の前で女勇者を奪われるという失態を犯した。

 俺達は一応勇者という位置づけになっているが、それがどの程度の地位にあるのか定かでは無い。

 今は宰相直属という事で優遇されているが、それだって何時まで続くか分からない。

 それ以上に、何時までこの世界に居る事になるのか……それが一番重要なんだが。

 帰るどころか、罪に問われればどうなるんだろう。

 この世界に来てからどうもマイナス思考になってしまうが、ファンタジーな世界の事なんて分からないから不安に苛まれるのもしょうが無い事だ。

 こういうファンタジー世界の事って、彼奴が得意なんだけどな。


 そう、彼奴――八雲も召喚されてたんだな。


 八雲は俺達とは別口で召喚されたんだろう。

 悪い予想をすれば、魔王が召喚したという事も考えられるけど、話してる時の八雲はいつもの彼奴だった。

 洗脳されているとか、心が汚染されてるって事は無いと思う。

 寧ろ洗脳されているのは……。

 それに俺は八雲の事を色々聞きたかったのに、彼奴は魔王と大魔導士を庇うような事ばかり話して。

 まぁ、彼奴らしいっちゃらしいんだが。

 でも八雲が自分の事を話してくれない御陰で、現在は敵対する様な状況に陥っている。

 なんで彼奴は魔王を庇ったりしたんだ?

 なんで彼奴は女勇者を連れ去ったりしたんだ?

 一貫して俺達と敵対する様な行動をとっているが、必ずしも向こうが悪とは限らない。

 俺達が何かを間違えている可能性だってある。

 現に隼人はこの世界に来てから様子がおかしいし。

 いや、正確には宰相の目を見てからだ。

 奇妙な色に変貌した目を向けられてから、隼人は元の世界に居たときとは別人の様な行動をする様になってしまった。

 それが悪い事では無い筈なのに、何故か不安が拭えなくてモヤモヤする。

 元の世界に帰る為に、俺達を守る為に、この世界を救う為に行動してる筈なのに。

 隼人が動く度に、逆に俺の方が冷静になって行く。

 以前は俺の方が諫められる側だったのにな。


「どうした、和馬?」

「あぁ、いや。何でも無い」

「心配するな。魔王は事実上退けた訳だし、女勇者の件は元々逃げられた王国側に責任がある。何か言われても俺が何とかするから」

 俺が心配しているのはそれだけじゃ無いんだが、隼人はいつも通りの調子で胸を叩く。

 こういう処は以前と変わらず頼もしいんだがな。

 それにしても俺達が宰相の部屋へ向かっている途中も、六花は何も喋らなかった。

 隼人以上に様子がおかしいな……特に八雲に会ってからがおかしい。

 そういえば八雲が俺達を避け始めたのって、サッカーの試合後に六花が八雲を探しに行って居なかった時からか。

 六花と八雲の間に何かあったのか?

 まさか……。

 いや、もしそうだとしたら余計に俺が口を挟んでいい事じゃないな。


 色々考えていたら、もう宰相の部屋の前まで来てしまった。

 隼人がノックすると中から入る様に促されたので、重々しい飾りの掘られた扉をそっと開ける。

 廊下へ部屋の中からの灯りが差し込み、明度の違いに目を瞬かせてしまう。

 室内を覗くと、豪華に飾り付けられた机の向こうに、初老で白髪交じりの黒髪の男が座っていた。

 このクアトロ王国の宰相アストア=ヴォルノイ様だ。

 外見は優しそうなおじさんだが、瞳の奥で燃える野心は隠しきれていない。

 そこが俺が信用しきれない最大の理由だ。

 それに隼人がおかしくなった時に見せた目の色。

 あれは催眠術か何かじゃ無いのか?

 俺は無意識にスキルが発動していた様で掛からなかったが。


 俺のスキル『絶対無敵』は、あらゆる攻撃を無効化する。

 それが魔法とか物理に関係無く、一切受け付けなくなる。

 多分その御陰で俺には催眠術が掛からなかったんだと思う。

 しかし、頼る人も居ない世界で巨大な勢力に反旗を翻す事など不可能だ。

 俺は術に掛かったふりをして、隼人と六花と共に居る事を選んだ。

 今の処、宰相は俺達に不利になる様な事はしていない。

 油断は出来ないが。


 俺達3人が部屋へ入ると宰相の他にもう一人、離れた処にあるソファーに腰掛けているのが見えた。

 アストア宰相よりも少し年の行った男。

 その瞳は宰相と同様に野心を持った目をしていた。


「御苦労だったな勇者達よ。報告は受けている。まぁ楽にしてくれたまえ」

 アストア宰相は俺達を謎の男の対面に座る様に促した。

「ああ、彼はアイン王国のウィリディス侯爵だ。此度の作戦に加わってくれる事になっている」

 作戦?何の事だ?

 俺達は3人共、頭に疑問符を浮かべている状態だ。

「君達を呼び出したのは、次の作戦を伝える為だ」

 宰相の言葉に俺達は更に困惑を深める。

「俺達の罪を問うために呼んだのでは無いのですか?」

「罪?君達は魔王を退けるという多大な功績を挙げたのにか?栄誉を与えこそすれ、罪に問う事等無いと思うが?」

 訝しむ隼人に、理解出来ない様子で宰相は宥める。

 真面目な隼人は何らかの罰を覚悟して、ある程度は甘んじるつもりだったのだろう。

 懺悔する様に自分の失態を報告する。

「魔王は退けたと言うよりは取り逃がしたと言う方が正しいです。それに国にとって重要人物である女勇者を目の前で攫われました」

「ふふっ、勇者様はとても真面目な方の様ですな。これなら作戦の詳細は其方にお任せしても問題無さそうだ」

 俯く隼人に声を掛けたのはウィリディス侯爵と呼ばれた男だ。

 やや低めの声は人を従えるカリスマ性を感じさせる程渋かった。

「ウィリディス殿にそういって貰えると嬉しい限りですな。ハヤトよ、魔王を撤退させる事は先代の勇者ですら出来なかった偉業だ。倒せなかったからと恥じる事など無い。それに女勇者が逃げたのは国の衛兵の手落ちだ。残念ではあるが、お前に責任など無い。さぁ、気持ちを切り替えて、次の作戦の打ち合わせをしよう」

 アストア宰相の言葉で一先ず気を取り直した隼人は、漸く俺達の疑問を代弁する。

「それで作戦とは何ですか?」

「うむ。わがクアトロ王国、エッセル共和国、アイン王国の三国が連携を取り、サントゥリア王国へ攻め込む事になった。勇者達には、その先頭に立って貰いたい」

「えっ!?」

 俺は耳を疑って、思わず反意と取られても仕方の無い声を上げてしまった。

 だが、アストア宰相は俺の先手を取って話を続ける。

「言いたい事は分かる。この世界の為に魔王を滅ぼすのとは違って、人間同士の戦争には加担したく無いと言いたいのであろう?」

 俺はその言葉を肯定するべく頷いた。

 しかし、隼人と六花は特に異を唱える気は無い様だった。

「此度の作戦は、その集大成と行っても過言では無い。サントゥリア王国には魔王と後ろで繋がっている組織『ウル』がある。世界の平和の為には残して置くべきでは無いものだ。きっと最後の戦いになるだろう。これが終わればお前達が元の世界に帰れる様尽力する事を誓おう。どうか力を貸してくれまいか」

「分かりました。お任せ下さい!」

「おお。期待しているぞ」

 宰相の説明に納得した隼人は生き生きと返事をした。

 宰相と侯爵は終始笑顔だったが、目の奥が全く笑っていない事に俺は気付いていた。

 それに女勇者が攫われた今、俺達が元の世界に帰るのは難しいだろう。


 俺達を召喚した時に使っていた魔導具は、過剰な負荷に耐えきれず壊れてしまった。

 それを女勇者が修復する事で元の世界に帰れると言われていた。

 それが本当かどうかも怪しいものだが、彼女がいればまだ希望はあった。

 だが女勇者が居ない今、どうやって帰るための魔導具を作るのか。

 隼人と六花はちゃんと帰る事を考えているのだろうか?

 俺はどうすればいい?

 もう一度八雲と話しをするべきじゃないだろうか。

 八雲こそ、俺達が元の世界に帰る為の鍵を握っている気がする。

 さっき会った時の八雲は明らかに元の世界の衣服を着ていた。

 「スキルの使い方に関しては俺に一日の長があると思うぜ」と言っていた事から、俺達より以前に召喚されていた筈。

 と考えれば一週間はこの世界にいるのに衣服は綺麗なままだった。

 あの転移するスキル……元の世界へも転移出来るんじゃないだろうか?

 でも八雲は魔王側に付いていたから、サントゥリア王国とも繋がりがある可能性がある。

 あいつと敵対するべきじゃない気がするけど、今回の作戦に参加すれば否応なく闘う事になるかも知れない。

 いや、あえて作戦に乗ったフリをしてサントゥリア王国へ向かい、機を見て話をするというのはどうか?


 もう頭の中が混乱して来た。

 あー、考え過ぎて踏み込めないのは俺らしく無いな。

 俺は下へ向いていた視線を無理矢理上に向ける。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず。

 俺らしくってのはやっぱり行動あるのみだ。

 待ってろ八雲!サントゥリア王国で!

 全部決着つけてやる!!

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