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女勇者

 俺達の話し声を聞きつけて、黒い影がリビングから飛んで来た。

「愛しの娘達~!!パパご帰還だよ~~!!」

 宙を舞う様に美紅と美緒に向かって駆けて来た父さんは、二人に抱き付く寸前でその動きを止めた。

 その父の左右の頬には美紅と美緒の拳がめり込んでいる。

 一瞬空中で制止した父の様子は、時を止めるスキルでも使ったかの様に不自然に浮いていた。

 そして時は動き出す。

 渾身の拳撃を受けて、縦回転しながら廊下の突き当たりまで吹き飛んだ父さんは、頭から落下して気を失った。

「「お兄ちゃん、今よ!早く空間転移で異世界に戻って!!」」

「お前ら……」

 家族の為に頑張って働いて来た父さんは、溺愛している娘達から本気の攻撃を受けて倒された。悲しい……。

「今はこの娘と話をしないとだろ。異世界に行くのはその後だ」

「「え~!」」

 そこに父さんが吹き飛んで行った音を聞きつけた母さんが駆け込んで来た。

「あら、あなた何でこんな所で寝てるの?あ、八雲早かったのね……って、その娘は何故泣いてるの?八雲、あんた、まさかついに……」

「何もしてねぇっ!!」

 ついにって何だよ!

 事案発生して無いからね!

 母さんは無視して、俺は座り込んで泣いている女勇者の肩を軽く叩く。

「取りあえず中に入ってくれ。話したい事があるんだ。君の力を借りたい」

 俺の言葉にビクリと肩を揺らした女勇者だったが、少し考える素振りを見せた後に頷いて立ち上がった。


 俺達がリビングに入ると、お祖母ちゃんがBL本を熟読していた。

 リビングで読む本じゃ無いけど、お祖母ちゃんの部屋は無いから仕方ないのか。

 そして賢者の石はアレな本をルルとミーシャがいる前で堂々と読んでいた。

 子供の教育に良くないっ!!

 賢者の石とレッドドラゴンは後で魔大陸に捨ててこよう。

 お祖父ちゃんは、窓の外を見て黄昏れていた。哀愁が……。


 女勇者の名前は、工藤くどう 真衣まい

 住所を聞いたらかなり近くで、隣町の辺りらしかった。

 隼人達が召喚された事で、あの異世界と繋がっているのはこの世界だけである可能性が濃厚だ。

 きっと彼女もこの世界の住人だと思うので、後で送って行く事にして今は話を聞いている。

 大体彼女の話を聞いた処で、俺は本題を切り出す。

「君のスキルで魔導具を作って欲しい」

「魔導具……」

「うん。勇者が異世界の人達に催眠術の様な何かを仕掛けたらしいんで、それを解除出来る魔導具を作って欲しいんだ」

 元の世界に連れてきた事を貸しにする気は無かったけど、場合によっては交渉材料として使わざるを得ないかもな。

 そもそも接点なんて殆ど無いのに、いきなり図々しくお願いしても聞いてくれるかどうか。

 真衣は俯いて何か考えている様だ。

「いや……です。あの世界の人達を助ける魔導具なんて作りたく無い」

 吐き捨てる様に真衣が呟いた。

 震える肩が痛々しくて、俺は真衣を説得する言葉が出て来なかった。

 そりゃあ召喚されて直ぐ監禁されて、更に助けを求めた人に裏切られてと散々な思いをしたんだもんな。

 異世界への印象は最悪だろう。

 もっとも半分は紅林雄人のせいなんだけどな。

 さてどうしたものかと頭を捻っていると、真衣が真剣な眼差しでこちらを振り返った。

「でも、貴方の為になら作ってもいい」

 あまりにも真っ直ぐな瞳で見つめられて硬直する。

 俺は今、完全に赤面しているだろう。

「あ、ありがと……痛たたた!」

 何故かルルが俺の頬を千切れるかと思う程思い切り抓った。

 顔の赤みは引いたのに、ルルに抓られた所だけ赤く腫れ上がったまま元に戻らない。

 俺、ルルに何かしたか?

 あぁそうか。魔導具を作って貰えて母親を元に戻せるから、嬉しくて照れ隠ししたんだな。

 素直に喜べばいいのに。

 ルルは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


 俺が真衣に視線を戻すと、真衣はまだ俺の方をじっと見つめていた。

 そんなに女の子に見つめられると、すげぇ恥ずかしくなってくる。

「あぁっと、あの……なんで俺の為になら作ってもいいんだ?」

 あ、恥ずかしすぎて変な事聞いちゃった。

 元の世界に連れて来て貰えた恩からって聞かなくても分かるのに。

 真衣は少し頬を桜色に染めて俯いてしまった。

 その様子を見ていたお漏らし妖精レーチェが、ブンブンと羽音をさせて飛び回りながら妙にニヤニヤしている。

 もの凄くぶん殴りたい。

「ハルナちゃんに感謝しなさいよ~」

「え……!?」

 レーチェの口から唐突に発せられた名前に、俺の心臓の鼓動が急激に加速する。

「ハルナちゃんが、クアトロ王国に捕らわれていた時に、その娘を説得してくれたんだからね~。その娘がヤクモを侮辱した時も、本気で怒って諫めてたし~。愛だね、愛~」


 ハルナが俺の為に動いてくれていた?

 俺の事で怒ってくれていた?

 それなのに、俺はハルナを避けて異世界に行かずに過ごしていた。

 たった一度拒絶された程度で、俺は心を閉ざしていた。

 拒絶されても仕方の無い事をしていたのは俺なのに。

 近づかれただけで血の気が引くとか、失礼極まりない事をしてたのは俺の方だ。

 なんか、無性にハルナに会って謝りたくなってきた。

 それと、お礼も言わないとな。


 俺の後ろに座っていた妹達が近づいてきた。

「だから異世界行ってハルナちゃんに会うべきだって言ったでしょ、お兄ちゃん」

「ハルナちゃんのあの時の状態って普通じゃ無かったんだし。落ち着いたらきっと何時も通り話せるよ、お兄ちゃん」

「……あぁ、悪かったな。美紅、美緒。お前達の言う事聞いとけば良かったわ」

「「でしょ。いちごショートケーキで許してあげる」」

「分かった、今度買ってきてやるよ」

 ニヤリと口角を上げた妹達。

 何とか二人と和解出来て良かった。


「貴方ってシスコンなの?」

「んな訳ないだろ!」

「なら良かった。ライバルが妹とか無理ゲーだもん……」

 真衣がなんかゴニョゴニョと言っていたが、よく聞き取れなかった。

 そして何故かルルがもの凄い形相で真衣を睨んでいる。

 それを見てレーチェがケタケタ笑っていたので、軽く叩き落としておいた。

「痛いよヤクモ~」

 レーチェは無視して、早速魔導具を作って貰う事にしようか。

「それじゃあ、催眠術の類いを解除する魔導具を作って貰えるか?」

「うん良いけど、魔導具を作るのに魔法石が必要なの。しかも魔法以外の作用をキャンセルする魔導具となると相当な魔力を秘めた魔法石がいるけど、持ってる?」

 魔法石か……組織に行って譲って貰おうか?

 いや、まてよ。そういえば空間収納に入れておいたアレがあった。

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