スキルの使い方
何かがおかしい。
六花は俺に対してあまり良い感情は持ってないと思うからしょうが無いけど、隼人と和馬がこんなに簡単に俺と敵対するなんて。
俺の態度に怒る事はあっても、それは友達としての絆を大切にしてくれてるからだったと思う。
でも、今の彼奴らの目は完全な敵意に満ちている。
俺はこのまま隼人達と闘っていいのか?
「「お兄ちゃん、あの人達って」」
妹達がクアトロ王国の兵士達を仕留め終わって、俺の所へ戻ってきた。
俺が頷くと美紅と美緒はそれだけで理解した様だ。
一年間だけだが、同じ学校にいたから顔ぐらいは知ってるだろう。
「君達は八雲の妹の……。一緒に召喚されていたのか。君達も敵か?」
妹達を見た隼人が眼を細めて問う。
若干誤解している点はさておき、フェミニストの隼人が妹達にまで敵対的視線を向けるなんて。
絶対に何かがおかしい。
俺達はこのまま闘うべきじゃ無い。
「隼人、俺はお前達の敵には成りたく無いんだ。けど、話し会える状況じゃ無さそうだから一旦引かせてもらう」
俺は妹達の腕を掴んで空間転移を発動――出来なかった。
「っ!?消された……のか?」
スキルを消すなんてお祖母ちゃんぐらいしか出来ないと思ってた。
「さっき、魔法を使った気配は無いのに転移したのを見せて貰ったからな。俺のスキルでお前のスキルを消した」
隼人が召喚で得たスキルはお祖母ちゃんが使ってた『相手のスキルを消す』スキルか。
これまた厄介なスキルを持ってるな。
そして、周囲の魔力も消えた。
「魔力も消したからもう逃げられないわよ」
六花のスキルは周囲の魔力を消せるのか。
隼人と六花でお祖母ちゃんの使ってた無敵状態を再現出来てしまうとはね。
でも、魔力を消すだけで空間転移は出来なくなるのに、スキルを消すスキルまで空間転移に使ったら無駄だと思うんだけど。
こっちは伊達に5回も召喚(返還)されてないんで、スキルはいっぱいあるんだよ。
残るは和馬のスキルだけど、まだ動きを見せないな。
土壇場で使われて窮地に陥るのは勘弁してほしいから、早めに使って欲しいんだけど。
「お兄ちゃん、転移出来ないのになんか余裕だね」
「ん?あぁ、切り札は残してあるからな。それに闘っても負ける事は無いと思うし」
俺の言葉に僅かに顔が引き攣るが、隼人達3人が襲いかかってくる気配は無い。
隙を突かれて女勇者を奪われない様にする事を第一に考えているのか。
要所を見極める眼は部活で培われた物だろう。
一筋縄じゃ行きそうにないなぁ。
女勇者は今回諦めるつもりだったけど、此奴らの強力なスキルの隙を突けるのは此方の手の内を見せてない今だけかもしれない。
あれを試してみるか。
俺は軽めの内気功で隼人達を威嚇するための発功を放った。
魔法を使った様に見える光の玉が隼人達に向かって飛んで行く。
「何っ!?魔法は使えない筈じゃ!」
地面に向けて放ったので軽い破裂音を出して霧散し、隼人達にダメージは無かったが威嚇は成功して少し相手の陣形が乱れた。
俺と女勇者の間に立っていた隼人が少し避けた事で、僅かばかりの空間が出来る。
「悪いな隼人。スキルの使い方に関しては俺に一日の長があると思うぜ」
この一週間、俺は何もしてなかった訳じゃない。
ハルナの事があって異世界に来るのは避けてたけど、ぼーっとしつつもスキルや魔法について研究してたんだ。
御陰で、空間転移を一時的に消された程度じゃ何の脅威でも無い。
先ずはこれ。
「瞬間移動~」
俺が某アニメの狸型ロボットの様に間延びした調子で言ってみると、隼人達3人に囲まれていた女勇者が俺の目の前に一瞬で移動した。
「「「なっ!?」」」
隼人達は封じていたつもりの転移を使われたと思ったのか、動揺を隠しきれていなかった。
そもそも触れても居ない他人を転移させるスキルなんて俺には無い。
タネは『空間収納』だ。
このスキルだけ戦闘向きじゃ無かったんだけど、ある事に気付いて試してみた処、もの凄く使えるスキルである事が証明された。
この『空間収納』、生命を宿していなければ何でも収納出来る。
有機物も収納出来るが、無機物であれば固体、液体、気体と制限無く収納出来てしまうのだ。
これを利用して一定空間内にある元素を根こそぎ収納すると真空状態が出来上がる。
質量保存の法則に基づいて、真空部分を調和させるために周りの空間が吸い寄せられる。
しかもこの『空間収納』が便利な事に、吸い寄せる空間の方向を決められる。
通常の物理法則であれば無くなった部分を全ての角度から埋めようとするが、『空間収納』のスキルは俺の思った方向からだけ埋める事が出来る。
今回、発功で隼人を避けさせて作った俺と女勇者の間の空間を切り取って、女勇者の側から空間が埋まる様にしたので瞬間移動した様に俺の側に近付いたという訳だ。
戦闘時なんかはこれを逆向きにする事で俺の体を移動させて攻撃を避ける事も出来る。
「と言う訳で、俺達逃げるから。美紅、美緒、掴まれ」
「「うん」」
俺は妹達が俺に掴まったのを確認してから、女勇者の腕を掴んで空間転移を発動させた。
一瞬にして景色が切り替わり、元の世界の自宅の玄関が俺達の前に顕れる。
転移は成功した様だ。
「お兄ちゃん、なんで転移出来たの?」
「そうだよお兄ちゃん、スキル消されたんじゃ無かったの?」
「だから言っただろ、切り札があるって。今のはスキルじゃなくて魔眼にストックしておいた空間転移」
そう、空間転移を魔眼にストックしておいたのだ。
魔眼にストックするには魔法を発動する処を見なければならない。
しかし、空間転移する処を見るのは不可能。
そこで『危険予知』の対象を俺にする事で、俺が直近の未来に空間転移する処が見れる様になるという訳だ。
未来の映像の俺が空間転移を発動する瞬間を魔眼にストックしてから、一歩前に出て実際に空間転移するだけ。
実際に空間転移を行わないと、未来の映像からストックした物が消えてしまう。
未来が無かった事になると一種のタイムパラドックスが起こるみたいだ。
まぁ、俺がちゃんと空間転移使えばいいだけなので特に問題無いけど。
空間転移は使用時に魔力を消費するので、俺の固有スキルなのに魔法と同じ扱いらしい。
つまり、魔眼を持っていればコピー出来てしまう危険なスキル。
魔眼を持ってる奴がいるかどうかは不明だけど、今のところ出会っていないし大丈夫だろ。
女勇者は眼を見開いて動かなくなっていた。
暫くして、漸く動いた唇は震えていた。
「ここって、元の世界……?」
「う~ん、平行世界がここだけとは限らないから君がいた世界かどうかは分からないけど、とりあえずここは日本だよ」
それでも安堵したように崩れ落ちて、女勇者の眼からは大粒の涙がこぼれ落ちた。




