救出
レーチェのマーキングで、女勇者はクアトロ王国からエッセル共和国に向かって森を突っ切る様に逃げている事が分かった。
なんでまたエッセル共和国に向かってるんだ?
ひょっとして、ずっと監禁されてたから土地勘が無いのか?
何にせよ、また勇者に掻っ攫われる前に救出しないとな。
俺の空間転移は一度行った場所にしか行けないので、クアトロ王国ではなく隣のエッセル共和国に転移した。
多少目立つが、『舞空』の魔法でクアトロ王国方面に向かって飛ぶ事にした。
「ヤクモ~、ゆっくり飛んでね~」
「知らん」
急いでるんだからゆっくり飛ぶ訳が無い。
俺の頭にしがみついてるレーチェの懇願を完全に無視して、何事も無かったかの様に全速力で飛び上がった。
「あばばばばば」
案の定、俺の頭に冷たいものが走る。
このお漏らし妖精、あとで覚えてろ。
妹達も既に問題無く『舞空』を使えるので、平然と俺の後を付いて来る。
レッドドラゴンは元の姿に戻ると目立つので、小さい姿のまま俺の背中に張り付いていた。
『はぁはぁ、ご主人様の背中……』
この変態が!
やはりルルとミーシャに近づけるのは教育上良くないな。
もう家に連れていくのは止めとこう。
「ねぇ、お兄ちゃん。お祖母ちゃんを家に連れて来て良かったの?」
「え?何でだ?」
「だって、賢者の石が無いと魔大陸のバリアが解けちゃうんじゃ無かったっけ?」
「ん……?あ、あああぁっ!!」
やっべぇ!忘れてたぁ!!
魔大陸を覆っているバリアは賢者の石が張ってるから、魔大陸の外に賢者の石を持ち出せ無いんだった。
その為に代換品を作れる女勇者を保護しようとしてたのに、隼人達から逃げるのに手一杯でそこまで頭が回らなかった。
俺は『舞空』で飛行高度を上げて魔大陸の方を確認した。
「……あれ?バリア張られたままじゃん」
何故かバリアは解けていなく、何事も無かったかの様に魔大陸全域を覆っていた。
お祖母ちゃんが嘘をついていた?
いや、そんな風には見えなかったけどな。
異世界間航行は同一空間内転移とは通る亜空間が違うから、そのせいで賢者の石からの魔力が切れない状態なのかな?
あるいは、代わりの何かが臨時のバリアを張ってるとか。
考えられるのはそんなとこか?
まぁ、バリア消えてないし、取りあえずは放置でも大丈夫かな?
帰ったらお祖母ちゃんに聞いてみよう。
「ヤ、ヤクモ~。もうすぐ着くからスピード緩めて~!」
「おぉ、そうなのか。だが却下する」
「いやあぁぁ!」
俺の頭は大洪水に見舞われた。
決して頭を濡らしたくて態とスピード上げた訳ではない。
そんな性癖無いからね。無いったら無いんだからね。
魔大陸の方から大きな魔力が3つ迫って来ているのを『危険予知』で感じたから、急ぐ必要があったんだ。
あれは間違い無く隼人達だろう。
「空から行くとこっちの位置がバレちまうな。美紅、美緒、そろそろ下に降りるぞ」
「「了解」」
俺達は森の中へ身を隠す為に降りて『舞空』を解除し、体から発する光を消した。
もっとも、視認出来なくなっただけで魔力感知の様なものがあれば容易に見つけられてしまうだろうけど。
俺の『危険予知』と『魔眼』は専売特許って訳じゃないからな。
レーチェのマーキングみたいな魔法があるんだから、それに類する魔法があっても不思議じゃない。
まぁ『危険予知』と『魔眼』は、相手を探索するのが本来の使い方じゃないんだけど。
「レーチェ、どっちだ?この森の中には既にかなりの数の敵がいるぞ。早くしないとあの女勇者がまた捕まっちまう」
「えーっと、あっちの方角だよ~」
レーチェが指差す方角に向けて俺達は走り出した。
確かにその方角に魔力の反応がある。
そして、その魔力を取り囲む様に他の魔力が近付いてるのも分かった。
「拙いな、あいつ囲まれてるぞ」
確認出来る魔力は9つ。
それ程大きくない魔力だから力ずくでいっても大丈夫だろう。
走りながら雷系魔法を威力弱めにして、一番近い一人に放つ。
「ぎゃあああっ!!」
スタンガンレベルだから命に別状無い筈だけど、痛い事は痛いよね。
こちらに気付いて他の8人が一斉に振り向いた。バカだな……。
俺の攻撃は勿論陽動だ。
周りを警戒せずにこっちを向いたバカな雑魚共を、妹達が左右から無力化する。
その間2秒。
妹達のチートな動きもだいぶ目で追えるようになってきた。
それにしてもこの雑魚敵、女勇者を追って来てたんだからクアトロ王国の兵士だと思うが、安っぽい革鎧の装備と鈍な剣だけの装備だし、戦闘を想定してない事が見受けられる。
仮にも勇者を追跡するには些か装備が弱すぎないか?
この女勇者、魔導具を造れる以外は戦闘能力が低いって事だろうか?
賢者の石に匹敵する魔導具を造れるなら、やりようによっては紅林雄人より強くなれると思うんだが。
その強くなれる筈の女勇者は怯えた目で此方を見ていた。
まぁ前回助けに来た時も俺の事は信用せずにイケメン勇者に付いていったんだから、急に友好的になるとは思えないけど。
どうやって心の距離を縮めようかと悩んでいると、俺の頭の上で虫の様にモゾモゾと動く気配が。
「助けに来てあげたわよ~。感謝しなさい~!」
なんでレーチェの癖に偉そうにしてんだよ。
確かにこいつのマーキングの御陰でスムーズに辿り着けたけど、俺の頭の上でもマーキングした事で帳消しだ。
人の頭を縄張りにすんな。
それにしても、助けに来たって明言してんのに女勇者は石化したかの様に動かない。
会ったのは二度目だが、一度目だって禄に話した訳でも無いもんな。
信用するに足りないのは分かる。
けど、時間が無いから彼女が動くのを待っては居られないし、多少強引に行くか。
こいつが全ての鍵なのだから。
俺が一歩踏み出した処で、女勇者の瞳が揺れる。
だが、その一歩が遅かった事に気付く。
上空から3つの光りが流星の如く俺達の目の前に舞い降りた。
そして光が収まると、青い鎧を纏ったイケメンが俺に問う。
「八雲、お前は敵か……?」
「それは、お前達次第だけどな。出来る事なら敵対したくないから、その娘渡してくれないか?」
「そうか、残念だ。この娘は渡せないんでな」
隼人と和馬と六花は女勇者を囲む様に立ち、武器を構えて俺に敵意の籠もった双眸を向けた。




