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玄関

 見慣れた風景、我が家の玄関。

 咄嗟だったから思わず元の世界の自宅に転移してしまった。

「奇妙な造りの建物だね」

「ヤクモ、此処はまさかお前達の世界か?」

「うん、まぁそうですね」

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんを異世界間航行させてしまった。

 これで二人共『他言語理解』のスキルを身に付けた事だろう。

 それ程影響無いと思うし、別に気にする事も無いか。

 俺達の話し声にルルとミーシャがレドを引っ張りながらリビングから出て来た。

「ヤクモ様、早かったですね。其方の方は?」

「ああ、俺のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだよ。それで、この虫みたいなのがレーチェ」

 俺の応えにルルが青ざめて目を泳がせる。

「ま、魔王と大魔導士……」

 虫みたいと言う俺の紹介で不服そうにしているレーチェには目もくれず、ガクガクと膝が震えているルル。

 そんなに怖くないよ、今は弱ってて勇者に負けそうになってるぐらいだから。

「ヤクモ、お前今私達をバカにしただろ?」

「滅相も無い」

 お祖母ちゃんにも心を読むスキルが!?

 迂闊な事を考えるのは控えよう。


 閑話休題、自宅に転移したのは好都合だな。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんをヘタな所に置いてくると、また隼人達に絡まれるかもしれないし。

 それに、万一に備えて、やっぱりレッドドラゴンを連れて行かないと駄目な気がする。

 隼人達が何故急に敵対的になったのか分からないが、場合に寄っては戦闘になるかもしれないからな。

「ルル、ミーシャ。ちょっと問題が起きたんでレドを連れていくぞ」

 ルルはガクガク震えていたのが止まり目を見開くが、納得してくれた様で一つ頷く。

「分かりました。ヤクモ様の身の安全の為なら」

「ヤクモお兄ちゃんの為ならミーシャも我慢する」

 ルルに続いてミーシャも納得してくれた。

 しかし、何でこのドラゴンをそんなに気に入ってるんだろうな、この二人は。

 どんなに外見が可愛くなっても、中身はドMの変態なのに。

「あぁ、そうだ。ルルに聞きたい事があったんだ」

「何でしょう?」

「ルルがこっちの世界にいる間に、ルル以外の人間が向こうで勇者召喚する事って出来るのか?」

「それは出来ないと思います。各国の精霊達に認められた巫女で無ければ勇者召喚は出来ませんし、巫女がその土地を離れても生存している限り、次代の巫女は誕生しません。そもそも一年間は精霊達の魔力が満たないので勇者召喚は出来ませんよ?」

「なるほど」

 とすれば、ルルとミーシャが我が家にいるからスィフル王国とアハト王国は勇者召喚が出来ない筈。

 エッセル共和国も女勇者がまだ異世界にいるから召喚出来ない。

 召喚した勇者が存在している国では次の勇者召喚は出来ないらしいからな。

 残るは俺を召喚した他の3ヶ国と、紅林雄人が魔界に送還された事で召喚出来るようになったかもしれないクアトロ王国。

 この4ヶ国のうちの何処かが隼人達3人を勇者として召喚したって事だよな。

 だけど、一年間は召喚出来ない筈なのにどうやって勇者召喚したんだ?

 ……あ、そうか!

 俺を召喚した5ヶ国と女勇者を召喚したエッセル共和国は今年召喚を行ったけど、紅林雄人が居た事で、クアトロ王国は今年の勇者召喚を行っていないんだった。

 それで精霊達の魔力が一年分貯まっていたと考えれば、隼人達が召喚されたのも納得出来る。

 3人も召喚されているのは謎だけど、少なくとも一人はクアトロ王国で召喚された事で間違い無いだろう。

 奇しくもお祖母ちゃんが紅林雄人を魔界に送還した事で新たな勇者召喚を許してしまったのか。

 クアトロ王国で召喚されたとしたら、レーチェの話を聞いて急に敵対的になったのも頷ける。

 女勇者の重要性を知っていたからだ。

 彼奴らと戦いたくは無いけど、それは避けれないかも知れないな。

「レーチェ、女勇者の所まで案内頼む。アランさんとノヴァさんはこの家に居てください。この世界は平和だから安全です」

 何かあったとしても元勇者である母さんがいるから、魔王でも来ない限り安全だ。

 あ、連れて来たの魔王だった。

 俺は退屈しのぎにと、お祖母ちゃんと賢者の石の為にお土産本を渡しておいた。

「おお、これがびーえるか!」

『うむ。中々素晴らしい本ではないか』

 二人(?)共満足してくれた様だ。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに靴を脱いで中に入る様に促すと、玄関の扉が勢い良く開けられた。

「「あれ~?何でお祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいるの!?」」

 妹達が道場から帰って来た。

「おい、孫。お祖母ちゃんは止めろ」

「僕もお祖父ちゃんは……」

「「そうだった、ごめんノヴァさん」」

 いや、なんでお祖父ちゃんは無視なの?

 ほらほら、お祖父ちゃんから哀愁オーラが漂って来てるじゃないか。

 でも面倒そうなのでほっとこう。


「あらあら、何の騒ぎ?」

 玄関で騒いでいたせいで、母さんまでキッチンの方から出て来てしまった。

「おお、クソ勇者。久し振りじゃの~」

「あら、クソ魔導士様お久しぶりで」

 いきなり姑と嫁が険悪な雰囲気で罵り合う。

 お祖父ちゃんは売られて行く子牛の様な顔で落ち込んでるし、早くこのカオス空間から立ち去りたい。

「母さん、アランさんとノヴァさんを少しの間うちに置いて欲しいんだけど。俺はまた直ぐに異世界に行かなきゃいけないから」

「それなら丁度良かったわ。お父さんから電話あって今日帰って来るそうよ」

 ああ、父さん出張が終わって今日帰ってくるのか。

 タイミング良くお祖父ちゃんとお祖母ちゃんを連れて来れたな。

 ツンデレお祖母ちゃんは父さんに会いたかっただろうし。


 突然母さんの言葉を聞いた妹達が、冷戦状態だった筈の俺の腕にしがみつく。

「「お兄ちゃん、早く異世界に転移して!」」

「な、なんだ!?どうしたんだお前ら?」

「「お父さんウザいから会いたくないの!早く異世界連れてって!」」

 父さんェ……娘達を溺愛しすぎて必要以上にベタベタするから……。

 年頃の娘を持った父親の悲しい一面を見せられた。

 父さん帰ってきたら肩でも揉んでやるか。

 俺はレドの首を掴むと、空間転移を発動した。

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