説得
「ちょっと待って!!ストップ、ストーーップ!!」
俺が慌てて闘いの中に割って入ると、双方一旦距離を取って俺の方へ注目した。
「「「八雲……!?」」」
隼人と和馬と六花は当然眼を見開いて驚き、思考が追い付かない様で次の言葉を紡ぎ出せない。
俺は三人が落ち着く迄の時間を使ってお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに説得を試みる。
「アランさん、ノヴァさん。こいつら三人は俺の知り合いなんだ。ちょっと攻撃するのは待ってほしいんだけど」
「ヤクモ、そうは言っても襲って来たのはこの人達だから」
「こいつら勇者を名乗ってたからな。魔王退治でもしに来たんだろうて」
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは一応被害者らしい。
襲われたらそりゃ抵抗するよね。
「俺が三人を説得するから、一先ず下がってください」
お祖母ちゃんは賢者の石の魔力が使えないし、お祖父ちゃんも勇者と闘った時の装備を着けていない。
あの装備、俺が壊しちゃったから使えないのかな?
二対三というだけでも不利なのに、二人共本来の強さを発揮出来ない状態だ。
それにしても勇者を名乗ってたって事は、やっぱり三人は召喚されたのか?
次の召喚は一年後って聞いてたのに、どういう事?
俺が隼人達の方に目を向けると、隼人が一歩前に出てきた。
「八雲、お前も召喚されていたのか。それならお前も勇者だろう?何故魔王を庇う?」
もって言ったか?やっぱり此奴ら召喚されて……。
それにしても、勇者だから魔王を倒すって短絡的過ぎるだろ。
昨今のラノベじゃ、割と勇者の方が悪者だったりするのに。
まぁ、此奴らは部活に夢中でラノベとか読んだりしなさそうだから、思考が一般的というか単純な言葉に捕らわれてしまうんだろうな。
そもそも頭が固いから、説得するのは難しいと思う。
六花の事を隼人達に教えていないのも、思考が一片に寄りすぎて六花だけじゃ無く他の人間まで巻き込んでしまう恐れがあったからだ。
俺一人が憎まれ役で事が収まればいいと思って、隼人と和馬から距離を置いたんだ。
でも、今回はちょっと状況が拙い。
なんとか説得出来ればいいが。
「隼人、一先ず武器を収めてくれないか?ちゃんと話すから」
俺は大きく腕を広げて話し会おうぜと身振りするが、隼人は微動だにせず武器を収める気配は無かった。
「お前が本物である証拠が無い。仮に本物だったとしても魔王に操られている可能性もある」
あら、結構用心深いね。
隼人を説得するのは並大抵の労力じゃ出来ないからな。
隼人は思いやりがあって周りに気を使えるが、こうと決めた事は絶対に曲げない頑固さもある。
それが旨く回ってる時は素晴らしいリーダーシップを発揮するが、反対意見に対して柔軟性を示せない欠点が出た時は大変だ。
今正にそんな状態だし、これは無理ゲーだわ。
ホントはこう言う時、和馬の方が話し易いんだけどな。
猪突猛進でありながら男気溢れる和馬は、誠実に対応すれば隼人との間に入ってくれる頼もしい奴だ。
だが、残念ながら和馬に頼るのは不可能だ。
六花との事で彼女の方へ目を向かせない様に、俺はあえて和馬に不誠実に対応してきた。
そのツケがあるので、この場で和馬が俺の話を聞いてくれる可能性は無い。
六花に至っては、最早敵を睨む様な眼を俺に向けているので論外だな。
「どうすれば信じて貰える?」
「……分からない。何を持ってお前を信じればいいか」
「なら、試しに信じてみるってのは?」
「俺が一人ならその選択肢もあっただろうが、和馬と六花を巻き込む危険がある以上迂闊にその提案には乗れない」
俺と隼人の会話は平行線のままで、膠着状態から抜け出せる糸口が見えない。
頑なになっているだけかと思ったが、隼人は意外と冷静に状況を見ている様だ。
「いいぞ、話を聞く」
突然有らぬ方向から声を掛けられ、目が点になってしまった。
声の主――和馬は武器を収め、何時になく真剣な顔で真っ直ぐに俺を見ていた。
そして俺以上に驚愕している隼人が和馬を諫めようとするが、和馬がそれを手で制す。
どういう心境の変化だ?
あの猪突猛進な和馬の方が隼人より冷静なのが不気味だが、話を聞いてくれるなら儲けものだ。
「この人達は確かに魔王軍の幹部で魔族を統括してるけど、世界を滅ぼそうとしてる訳じゃ無いんだ。まぁ、攻め込んで来た人間には容赦してないみたいだけど。それでも勇者だから魔王を倒すっていう短絡的な事は止めてくれ。この魔大陸を魔王が支配している事で世界の均衡が保たれてる一面もあるんだ」
「それは魔王軍の言い分だろう?多くの民が虐げられている現状を見過ごす事は出来ない。それは俺が勇者だからじゃない。人として当然の事だし、力を得た者としての義務だと思うからだ」
俺の言い分を真っ向から否定する隼人。
「多くの民を虐げとるのはその国の重鎮じゃろが。各国の中にまで攻め込んだ事なんてないわい」
お祖母ちゃんが不服そうに頬を膨らまして文句を言う。
金髪美少女が膨れてる姿ってスゲー可愛いな。
血縁で無かったら求婚していた処だ。
話を聞くと言った和馬は何故か不満そうに眉ねを寄せて俺を睨んでいた。
こんな程度の説明じゃダメだろうな。
何て言えばいいんだろう?
「八雲、俺が聞きたいのはそんな事じゃない。俺はお前の……」
「いた~~!!ヤクモ~、大変大変~!!」
和馬が何か言い掛けた処で、タイミング悪く羽虫妖精の声が魔王城の中庭に響いた。
レーチェが上空からダイビングする様に俺の下へ降りてくる。
「何だレーチェ、何で魔王城にいるんだ?」
「ミキさんが今日あたりヤクモが来るだろうって言ってたから~」
ああ、なるほど。
美紀叔母さんなら俺がいつ頃来るか読んでても不思議じゃないな。
「そんな事より~、捕まってた女勇者がクアトロ王国から逃げ出したみたいなの~!ヤクモなら高速で飛べるから、クアトロ王国の追っ手より早く追いつけるでしょ~」
この状況でそんな大事件が起こってるのかよ!
まだ隼人達との問題が解決して無いけど、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんを空間転移でどっかに置いて来ればいいか。
隼人達三人は心配していた様な事は無さそうだし、暫くほっといても大丈夫だろう。
「レーチェ、女勇者にマーキングはしてあるか?」
「うん。この前捕まってた時にしておいた~」
それを聞いた隼人達が、突然敵意を剥き出しにした。
俺の危険予知の反応が真っ赤に染まる。
「その妖精を捕まえろ!」
何かが拙いと直感で判断した俺は、レーチェを掴んだまま後ろにいたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに飛びつきつつ空間転移を発動した。




