拒絶
勇者は魔界に送られ、魔王城での闘いは終息した。
勇者の仲間である大剣を持つ女――グラディアは逃げてしまったが、勇者程の脅威では無いだろう。
ラルドが命を狙われてる様だけど、美紀叔母さんが側にいれば問題無いと思うので放置。
「ノヴァさん、この魔導兵器貰ってもいいかな?」
「そんなもの邪魔なだけだ。好きにしろ」
お祖母ちゃんの許可を貰ったので、空間収納に魔導兵器を入れておく。
後で使うかは分からないが、取りあえず持ってて損は無いだろう。
素材高く売れる?
それから、ラルドが通信機で組織と連絡をとってみた処、どうやら各国は軍を引いたらしい。
お祖母ちゃんがあちこち飛び回って、圧倒的な力の差を見せつけた御陰か。
どの国も進軍していた中に達人級の使い手は居なかったらしい。
魔大陸に向かっている間に隣国が攻め込まない様警戒していた事が伺えた。
この世界が平和になる道のりはまだ長そうだ。
勇者が居なくなったからと言って、奴が仕掛けた何かは未だに残っているしな。
なんとかクアトロ王国に捕らわれているもう一人の勇者を助け出して、紅林雄人が掛けた何かを解除する為の魔導具を作って貰わないと。
ハルナを救出出来た事だし、次に目指す場所はクアトロ王国だ。
だが、ハルナはまだ目を覚まさない。
これは、姫を目覚めさせる王子の接吻が必要なのでは?
「「いや、お兄ちゃん。無いからね」」
ちっ、妹達に感づかれたか。
俺をジト眼で睨むなよ。
紳士である俺がそんな事する訳ないだろ?
このハルナの桜色の唇に……そんな……こと……。
「「お兄ちゃん、ストップー!!それは犯罪だよー!」」
はっ!!俺は一体何を!?
美紅と美緒が俺の頭をがっしり掴み、必死に引っ張っている。
俺は無意識に口先をハルナに近づけてた様だ。
危ない所だった。なんと恐ろしい魔力……というか魅力?
ハルナの可愛らしい桜色の唇は男を吸い寄せる力でもあるのだろうか?
妹達が止めてくれなければ危うく俺は犯罪を……って、まてよ?
「美紅、美緒。よく考えろ。ここは異世界だから日本の法律は適用されない」
俺の言葉に、妹達の眼が汚物を見るそれに変わった。
「お兄ちゃんェ。何正当化しようとしてんの?」
「お兄ちゃんェ。法が罰しなくてもお天道様は見てるよ?」
『ェ』って言うな。
俺と妹達が言い争っていると、そこへブンブンと虫の様にレーチェが飛んで来て忠告する。
「ヤクモ~、この世界でも強姦は犯罪だからね~」
なん……だと……?
「いやいや、誰が強姦しようとしてんだよ?俺は目覚めのキスをだな」
「「それが許されるのはイケメンだけだよ」」
ぐうの音も出ない。
先ずはハルナを目覚めさせる為のキスの前に、俺のブサイクの呪いを解く為のキスが必要だったようだ。
俺達が周りでワイワイ騒いでいたせいか、ハルナが身じろぎして薄く眼を開けた。
「う……ん……」
ハルナのルビーの様な赤い瞳に光が戻る。
「……ここは?」
状況を把握出来ない様で周りを見回すハルナ。
「ここは魔王城だよ。でも、勇者はもういないから大丈夫だ」
俺は安心する様に優しく言ったつもりだったが、ハルナは視点を俺の所で止めると、何故かその双眸を見開いた。
「い……いや……」
ん?
どうしたんだろう?
まだ魔導兵器に乗せられていた時の後遺症でも残っているのだろうか?
心配なので声を掛けつつ近付く。
「大丈夫か?どこか具合悪いのか?」
すると突然、先程レーチェの回復魔法で血色が戻ったはずのハルナの顔が蒼白に変貌する。
「いやっ、来ないで!!」
何か恐ろしいものでも見たかの様に、ハルナは怯えて後ろへ後ずさる。
何だ……?
これ、いつものアレか?
――明確な拒絶。
そんなの慣れっこだし、ブサイクなのは呪いのせいだと解っている。
それでも、俺の心は弓矢で射貫かれた様なショックで打ち拉がれた。
俺の心を暗い暗い闇が包み込んでいく。
いつもの様子とは違うハルナ。
いつもは俺の方が蒼白になって倒れてしまっていたぐらいだ。
それでもハルナは嫌がらずに近付いて来てくれた。
もしかしたら、ハルナなら……そう思っていた。
そうだ、俺はハルナなら俺を受け入れてくれると思っていた。
拒絶しないと思っていた。
でも……彼女も他の女の子同様、俺を拒絶した。
目の前が暗く染まり、心は漆黒に塗られた扉に鍵を掛ける様に閉ざされた。
いまさら、他の誰が言っても何も感じないはずの一言。
そのたった一言で俺の全ては虚無の渦に飲み込まれていった。
「あっ、ご、ごめんなさいヤクモ。違うんです。何か分からないけど、近付かれた時に恐怖が襲って来て……私、何故こんな事を言ったのか……」
ハルナは瞳を潤ませて震えている。
何か言っていたが、耳で聞こえていても全く頭に入って来なかった。
俺が少しふらついていると、俺の肩を誰かが軽く叩いた。
振り返ると、美紀叔母さんが少し悲しそうな顔で俺を見ている。
「八雲。私はここに残るから、後の事は任せてあなた達は帰りなさい。もうすぐ学校始まるでしょう」
何も考えられない俺は、素直に美紀叔母さんの言葉に従う事にした。
「あ……うん、分かったよ。美紅、美緒。帰るぞ」
妹達の腕を掴んで空間転移を発動させる。
「「お兄ちゃん!?」」
お祖母ちゃんが消した魔力は戻っていて、問題無く空間転移を発動する事が出来た。
家に転移した途端、妹達が暴れ出す。
「お兄ちゃん、あれでいいの!?」
「お兄ちゃん、ハルナちゃんに何も言わないの!?」
俺に何が出来るって言うんだ?
相手の意志をねじ曲げろとでも?
「いいんだよ。何時もの事だろ」
「「お兄ちゃん……」」
何時もの事――自分で言ってて嘘くさ過ぎると思う。
心の奥で軋む様な痛みが走った。
美紅と美緒が玄関で大きな声を出していたので、リビングからルルとミーシャが出て来た。
「ヤクモ様、どうされたのですか?」
「あっ、ヤクモお兄ちゃん、その鎧かっこいい!」
ああ、そういえば鎧付けたままだっけ。
この鎧がかっこいいとか、ミーシャの感性はよく分からんな。
「レッドドラゴン、俺から離れろ」
『分かりましたご主人様』
妙に素直なレッドドラゴンに拍子抜けしてしまう。
そして、ドラゴンが元に戻ると玄関に入りきれない程大きかった事を思い出す。
「わわっ、ちょっと待て!」
俺の叫びも空しく、鎧は赤く輝いて俺の体から離れて行き、ドラゴンの形へと変化していく。
しかし、俺の心配は杞憂だった様で、体調50cm程度のドラゴンをデフォルメした様な形態になった。
頭が大きく、眼がクリッとしている二頭身ドラゴンだ。
ホッと息をつくと、ルルとミーシャがキラキラした目でドラゴンを見ていた。
「ヤクモ様、このペットすごく可愛いです!」
「ヤクモお兄ちゃん、このペットに餌あげてもいい!?」
ペット扱いのレッドドラゴンは、ルルとミーシャに『レド』と名付けられてもの凄く可愛がられていた。
中身はドMの変態なのに。




