勇者召喚
「とりあえず、君の名前教えてもらっていいかな?俺はヤクモだ」
名前は基本だよね。
俺の問いに美少女が応える。
「はい、私はハルナ・ウム・ヴェルメリオです、。ハルナとお呼びください」
なるほど、ハルナか……可愛い名前だ。
よし、嫁に――じゃない!
いかんいかん、あまりにも可愛いもんだからつい。
上目遣いの赤い瞳で見られると、男なら誰でも堕ちてしまうだろう。
恋は落ちるものじゃなく堕ちるものなのですよ。
「それで、教えてほしいこととは?」
マリアさんが発した言葉で我に返る。
ハルナは魅了の魔法でも使ってるのか?『魔眼』におかしな魔力の流れは見えなかったが。
さて、質問の内容はおおよそ決まっている。
次の3つだ。
1. 勇者召喚について
2. この国でお金を稼ぐ方法
3. ハルナと親密になるには
……最後の要らないって?
とりあえず、勇者召喚について聞いてみるのが一番手っ取り早いんだが、仮に勇者召喚が隠蔽されていた場合に色々と疑われる可能性がある。
どう聞くのがいいのかな?
よし、これでいこう。
「今日町で勇者が何とかって噂を聞いたんですが、勇者って何ですか?」
そんな噂聞いて無いんだけど、隠蔽された情報でもキーワードぐらいは漏洩するもんだ。
これで俺が勇者に関係してるとは思われないだろうし、一般的に知られている勇者情報がどの程度かが分かる。
今後のことを考えると、この世界での常識と非常識の線引きを確実にしておきたい。
「勇者か……」
あれ?マリアさんの表情が険しくなった。
ヴェルデの時と同じような顔してるけど、気のせいか?
そして、マリアさんは話を続ける。
「会ったことはあるが、どうにも好きになれない奴だった」
ん?
……。
んんん?
俺のことじゃないよね?
あ、俺は勇者じゃなくて返還者だった……。
ってことは、俺以外に召喚された勇者がいるってこと?
「その勇者は一年前にクアトロ王国で異世界から召喚されたらしい。名目上は魔王討伐のためということだったが、国の戦力増強のためというのが大方の見解だ」
あ、魔王とかいるんだ。さすが異世界。
一年前に召喚か……。
そういえば次の召喚は一年後とか言ってたから、俺が召喚される一年前に既に召喚されている勇者がいても不思議じゃないのか。
というか、毎年勇者を召喚してたら勇者のバーゲンセールになるんじゃね?
俺みたいに返還される奴もいるかもしれんが……。
と、俺は次のマリアさんの言葉に心臓が飛び跳ねる思いがした。
「その勇者を擁する王国に戦力で拮抗するために、他の六カ国も今年勇者召喚を行ったそうだ」
あああああああああああああああ!!
それ、ほとんど俺じゃんんんん!!!
そして、返還されちゃったああああああ!!!
戦力増強出来なかった国の人達ぃぃ、ごめんねええええええええええ!!!!
――ふうっ。
取り乱しました。
いや、ちょっと気になるとこもあったな。
六カ国って言った?
俺が召喚(返還)されたのは五回だったはずだよな。
つまり、今年召喚された人が俺以外にも一人いるのか?
それと……、
「最初に勇者を召喚した国は今年は召喚を行わなかったんですか?」
という俺の問いにマリアさんが応えてくれる。
「一度召喚に成功した国では、再度勇者を召喚出来ないらしい。だから、クアトロ王国では今年は召喚が行われなかったそうだ」
「なるほど」
つまり、この世界は七カ国なので勇者は最大でも七人になるってことね。
ん?今なんて言った!?
「一度召喚に成功した国では、再度勇者を召喚出来ない!?」
「ああ、そのように聞いているが」
まずいことに気が付いた。
『クーリング・オフ』された国は、たぶん召喚が失敗したことになるんじゃないかと思う。
でも5回目の召喚の時、美女達が唱えた返還の魔法は発動しなかった。
だから、空気を読んで『空間転移』を使って自力で帰ったんだった。
つまり、一年後にあの国で勇者召喚が行われても、勇者は召喚されない。
その時に俺が返還されていないことに気付かれたら、この異世界で動きづらくならないか?
まぁ、黙ってれば分からないかも知れないけど、憂いはなるべく取り除いておきたいな。 そうすると、考えなければならないのが『クーリング・オフ』の有効期間だ。
日本では最短が8日だったかな?
つまり、一週間以内にあの国で『クーリング・オフ』して貰わなければならない。
とりあえずまだ時間はあるし、後でゆっくり考えよう。
「それにしてもマリアさん、勇者の召喚について詳しいですね」
「ああ。ハルナの双子の姉のイリナが今年勇者召喚を行うってことでな。色々話を聞いてたんだ」
「ああ、なるほ……双子おおぉぉぉ!!?」
「ど、どうした!?」
なるほど、俺を召喚して返還した美少女はハルナの双子の姉だったのか!
そっくりだけど、別人か……。
いや、双子ってことは趣味嗜好も似ている可能性は否定出来ない。
何せこれだけ外見が似てるんだから、いつ俺を拒絶しても不思議じゃない。
まだ、油断は禁物だ。
そう思ってハルナの方を見ると、キョトンとした顔で小首を傾げていた。
超かわいい、ぺろぺろしたい――。
はっ!また魅了されていたのか、俺は!
さっき過呼吸になるほど発作が出たのに、何故俺はこの娘に惹かれてるんだ?
俺の心の葛藤を見抜いているかのように、マリアさんが冷ややかな目で俺を見ていた。