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「「お兄ちゃん目を覚ませぇっ!!」」

 黒く燃える様なオーラを纏った八雲に向けて、美紅と美緒の蹴りが左右から跳ぶ。

 ガンッ!という音と足への衝撃を双子は感じるが、二人の足は八雲の体に届いていなかった。

 それでも兄を正気に戻すために拳や蹴りを繰り出し続ける。

「お兄ちゃん、闇落ちとかイケメンキャラだから格好いいんだよ!お兄ちゃんには無理だよ!」

「そうだよ!お兄ちゃんがやっても三流当て馬キャラにしか見えないよ!すごく痛々しいよ!」

 兄からのツッコミが無いのをいい事に、言いたい放題の美紅と美緒。

 八雲の目を覚まさせようと攻撃を繰り返すが、八雲の纏っているオーラが全て弾き返してしまう。

「君達、緊張感が無いな。どいてくれないか」

 勇者は呟くと共に美紅に向けて剣を一閃放つ。

 そして、美緒の背後から大剣を持つ女も襲いかかった。

 美紅と美緒は気配だけでそれらの攻撃を察知し、躱して後方へ大きく跳ぶ。

 大剣を持つ女は、美緒に躱されても攻撃の勢いを殺さずにそのまま八雲に斬りかかる。

 しかし美紅と美緒の攻撃同様、八雲のオーラが鎧の様に大剣の侵攻を食い止めた。

 それでも大剣を構え直して攻撃しようとするが、先程魔王を襲ったのと同じ無数の黒い閃光が大剣を持つ女を襲って吹き飛ばす。

「ぐうっ!!」

 魔王城の庭園の石に激突して、女は呻き声を上げた後気を失った。

 魔王と闘える程では無いが、彼女の実力は充分達人の域に達している。

 にも拘わらず一瞬で無力化した八雲の力を見て、勇者は目を細める。

 勇者はスキルを強めにして数回程剣を振り、八雲に向けて剣撃を放った。

 しかし、黒いオーラの前に全く通じない。

 物理攻撃は全て八雲の体へ届く前に防がれている様だった。

「じゃあ、魔法は?」

 高速詠唱で炎や氷等を撃ち出すが、先程の物理攻撃と同様に通らない。

 離れての攻撃は無意味と悟り、勇者は地面を思い切り蹴って、今度は体重を乗せた全力の一撃を放った。

 それは受けきれないと見たのか、八雲は右にステップして避ける。

 目の焦点が合っていないので無意識に見えるが、その動きは本気の体裁きの様に軽快だった。

「意識は闇に呑まれても、戦闘本能は別って事か。だが逆にその本能の御陰で、今ぐらいの一撃なら、その黒いオーラを貫けるって分かったよ」

 次の一撃を放とうと剣を構え直した勇者だったが、八雲が右手を開いて構えたのを見て即座に盾で防御態勢をとった。

 八雲の右手から黒く太い閃光がレーザーの様に放たれ、勇者の盾を貫く。

「ぐっ!魔王の鎧や盾を貫く程の攻撃だ、このレプリカでは防ぎきれないか」

 魔力による防御も重ねていたが、勇者はかなりのダメージを負ってしまう。

 だが、苦しそうな表情を見せたのは勇者では無く八雲の方だった。

 使えば使う程黒いオーラの力が増大し、闇が八雲の体を蝕む様に包み込む。

 魔王が倒れてる今、八雲のオーラの侵攻を止める事は誰にも出来ない。

「お兄ちゃん、それ以上その力使っちゃダメ!」

「お兄ちゃん、それ以上闇落ちしたら戻れなくなるよ!」

 美紅と美緒が八雲を止めるために本気の攻撃を繰り出すと、八雲は敵と認定したのか今度は黒い閃光を妹達に向かって放つ。

 攻撃の気配を読める双子はそれを真面に食らう事は無かったが、迂闊に近づけなくなり距離を取って攻撃を凌ぐ。

「どうしよう、近づけない」

「強い一撃を与えてお兄ちゃんの意識を戻すしかないと思うけど」

「うん、でもそれをあの勇者にやらせちゃいけない」

「だよね。殺されちゃうかも知れないし」

 美紅と美緒は何とか八雲の目を覚まさせようと考えるが、武術に秀でてはいても策略には疎い二人だ。

 そんな脳筋娘達に術を思い付く事など出来なかった。

 八雲が闇に呑まれて苦悶の表情を見せると、勇者は不気味にほくそ笑む。

「くくくっ、実に愉快だよ。人間の本質は闇だ。憎悪、憤怒、怨恨。他人に対する想いの中で愛を凌ぐ強さを持っている。異世界は争いに満ちているから、その美しい闇を見せてくれるかと思っていたのに、どいつもこいつも浅すぎてつまらなかった。世界大戦を起こすために邪魔な魔王を排除しようと思ってた処で、まさかこれ程素晴らしい闇に出会えると思わなかったよ。感謝しよう。そして、その闇を抱えたまま散る事で完成する」

 勇者の独り言に、八雲は全く反応しなかった。

 しかし、勇者が剣を振ればそれを躱して反撃もする。

 勇者が牽制するための魔法を放つと、竜巻が起こった様に土煙が上がり視界が遮られた。

 八雲は黒いオーラを閃光にして四方八方に放つが、勇者を捉えきれない。

 背後から剣を振りかぶった勇者が現れる。

 それに気付いた八雲は白羽取りで勇者の振り下ろされた剣を受け止めた。

 そのまま取った剣を捻って投げるが、勇者は空中で猫の様に体制を捻り、もう一度剣を八雲に向かって振る。

 首元を剣が通過するが、紙一重で八雲は躱し後ろへ飛び退いた。

 魔王との闘いで消耗している勇者は本調子では無い。

 八雲も互角の戦いを繰り広げているが、無意識下で闘っているため精細を欠く部分もあった。

 そんな状態にも拘わらず常人の域を超えたスピードで闘う二人。

 美紅と美緒は迂闊に手出し出来ない事がもどかしかったが、それでも横から魔力を溜めて攻撃しようとする魔導兵器を牽制しながら、僅かでも隙が出来れば飛び出そうと準備していた。

 黒い閃光と黄金の剣閃が飛び交う。

 数十、数百と繰り返される攻防。

「なかなかしつこいね。君、絶対モテないだろ」

 勇者が拮抗した戦況に悪態をつく。

「「お兄ちゃんがモテない事を見切っただと!?」」

 美紅と美緒の状況にそぐわない一言に、無意識の筈の八雲のこめかみに青筋が浮かび上がった。

 それを見た双子が目を見開く。

「ひょっとして、魔力を使いすぎて呪いが弱まってきたのかな?」

「分かんないけど、そろそろチャンスが巡ってくるかも」

 美紅と美緒は魔導兵器に蹴りや拳を撃ち込みながらも、勇者と八雲の攻防に注視する。

 そして、その機会は突然あらぬ方向からやって来た。


 赤い流星。

 魔大陸の空を駆けるそれは、真っ直ぐに魔王城の庭目掛けて落ちて来ていた。

 戦闘に集中している勇者と八雲は気付いていない。

 その気配に最初に気付いたのは、離れた所で隠れながら闘いを見ていたレーチェだった。

「り、流星が振ってきたああ~!?きゃあああああああああああ~!!」

 盛大にその場で漏らしたレーチェの叫びを聞いて、美紅と美緒が空を見上げる。

「「え、あれって……」」

 空から飛来した赤い塊は、眼下で闘う黒いオーラを纏った八雲に向けて叫んだ。

『ご主人様ーー!放置プレイ長過ぎですよーーー!!』

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