声
俺を追う龍型の首が半分諦めたかの様に動きを緩める。
移動速度が速すぎて付いて来れなかったか。
俺は外から取り込んだ膨大な魔力を右腕に集中させた。
狙うは顎の付け根の辺りだ。
龍の口から吐き出す攻撃が一番強力そうだから、関節部をぶっ壊して開かなくしてやる。
「くらえっ!!」
舞空を高速に保ったまま、魔導兵器の顎に向かって拳を突き出す。
体外から取り込んだ魔力を目一杯込めた一撃が、龍の顎にめり込んだ。
衝撃が轟音となって辺りに響く。
俺の渾身の一撃を受けた龍型魔導兵器はバランスを崩し、倒れてその巨体を地面に打ち付けた。
美紀叔母さん程の攻撃力は出なかったけど、体内の気を減らす事無く相手にダメージを与えられたし、これならイケそうだ。
「お兄ちゃんすごい!」
「お兄ちゃんかっこいい!」
うむ。もっと褒め称えよ妹達よ。
「お兄ちゃん煽てれば木にも登りそうだね」
「うん。お兄ちゃんちょろいよね」
お前ら、それは本人に聞こえないように言えよ。
後で覚えてろ。
魔導兵器の顎部分は俺の攻撃によって歪んでいたが、次の攻撃をしようと軋む音を発しながらも、それを無理矢理開こうとしていた。
叔母さんなら完全に顎を粉砕出来てたんだろうな。
美紀叔母さんがエッセル共和国の魔導兵器を破壊した時は発勁してダメージを与えてた。
でも、俺のは魔力を使った偽気功だから発勁しても多分効かないと思う。
同様の攻撃をするには正しい気功を覚えないとダメだって事だ。
まぁ、さっきの攻撃でダメージは与えれてるみたいだし、もう何発か撃てば破壊出来るだろう。
俺は先程の要領で、もう一度体外の魔力を息を吸い込む様に取り込んでいく。
すると、再び俺の中で得体の知れない何かがドクンと脈打った。
何だろうな、これ?
――憎い。
え?
――憎い。
誰か何か言ったか?
空耳だろうか?
俺が何かの音に気を取られていると、お祖父ちゃんと交戦していた勇者が不快な笑い声を上げた。
「あははは!さすが召喚者だね。あの魔導兵器にダメージを与えられる奴なんてこの世界には殆ど居ないよ」
こっちの様子を見てるなんて余裕だな、勇者。
この龍型魔導兵器を片付けたら、お前をぶっ倒してハルナの居場所を聞き出してやるからな。
俺は無視して魔力を取り込み続けたが、勇者がお祖父ちゃんから距離を取って、戦闘中にも関わらず離れた所から俺に話しかけてくる。
「君、凄くいい眼になってるねぇ。くくく。楽しみは最後まで取っておこうと思ったけど、今すぐネタバレした方が面白い事に成りそうだ」
何を言ってるんだ、こいつは?
――憎い!
また、何処からか声が聞こえる。
というか、これって俺の中から聞こえるのか?
俺の心の声……?
――憎い!憎い!
何だ?魔力を取り込む度に声が大きくなっていく?
「お兄ちゃん、なんか眼が怖いよ?大丈夫?」
「お兄ちゃん、なんか雰囲気がおかしいよ?」
妹達が何か言ってるが、よく聞こえない。
――憎い!憎い!憎い!
どうして俺の心は、こんなにも誰かを憎んでいるんだ?
何が起きているのか分からないが、俺は只管に魔力を取り込み続ける。
俺は魔導兵器を破壊しなければいけないんだ。
だが、俺の心の声が更に増幅されていき、意識を保つのが辛くなってくる。
俺の異変を突く様に、紅林雄人は魔王と四天王から距離を取り、魔導兵器の近くへ回り込むと何か呪文らしきものを唱えた。
それに呼応して龍型魔導兵器の頭部が変形し始め、額部分が左右に開き、半透明の薄水色のガラスが顕わになる。
そのガラスの奥に見えたのは――燃える様な赤髪の美しい少女。
俺はそれが誰なのか一目で理解する。
「ハ……ルナ……?」
ハルナが魔導兵器の中に捕らわれていた。
もし、俺の攻撃が頭部を吹き飛ばす程強力だったら、ハルナを巻き込んでいたかも知れない。
エッセル共和国の魔導兵器を俺達が破壊した事を知っていて、奴が、紅林雄人が態とハルナを魔導兵器の急所に載せていた。
外気功に慣れていなかった御陰で大事には至らなかったが、勇者がこれを仕組んだ事に俺の心が大きく乱れた。
「あはははっ!どうだい、これ?この魔導兵器は、彼女の魔力を吸って動いてるんだよ。魔力を吸い尽くした後は生命力を吸っていくんだ。早く助けないと大変な事になっちゃうよ~」
明らかに俺を煽ってると分かる勇者の挑発に、俺は自分の意志で抗えなかった。
――憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!
だめだ、心が制御出来ない。
――憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!勇者が憎い!!
俺はそこまでこの勇者を憎んではいなかった筈なのに、何故か俺の中の憎悪は爆発するかと思う程膨らんでいた。
自分を制御出来ず棒立ちになった俺の前へ、紅林雄人が無造作に近寄る。
「君の心を解放してあげるよ」
勇者の瞳の色が変化した様に見え、次の瞬間俺の意識と心は深淵の闇に呑まれた。




