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無勢

「なんで勇者は入って来ないで、外で魔法撃ってんだ?」

 恐らく魔法であろうと思われる攻撃音が先程から繰り返し響いている。

「きっと魔王城に張られたバリアを破ろうとしてるんだろうね」

「バリア?俺達が入って来た時はそんなの無かったけど?」

「ああ、それも僕に掛かってる呪いの一つでね。『謁見制限』と言って、魔王と対峙出来るのは一グループのパーティに限られちゃうんだよ。誰かが魔王と闘っている間は、誰も城の中に入れないんだ」

「いや、俺達アランさんと闘ってるつもりは無いけど?」

「まぁ、呪いだから勝手に発動しちゃってる部分もあると思うよ。それから、所詮呪いによるバリアだから、強い力があれば壊れちゃうんだ」

 お祖父ちゃんが言うより早く、外でバリアが砕け散る音が聞こえた。

 そして今度は城の壁を破壊しながら此方へ突き進んで来る様で、壮大な地響きが鳴り渡る。

 到底人間が出している音とは思えない轟音。

 その音を発していたらしき物が、崩れて穴の開いた城の壁から顔を出した。

 銀色の金属質な頭部。

 それはドラゴンというよりは龍に近い形状をしていて、赤く光る眼に当たる部分が此方を睨んでいるかの様だった。

 見えている頭部だけで数メートルはあるので、もし俺の予想通りの形状――龍に近い形であったなら、全長は数十メートルにも及ぶはず。

 城に開けた穴からズルズルと這い出して来たそれは、思っていた通り胴体は長く、蜥蜴のように短い手脚が生えている。

「龍型の魔導兵器か……」

 俺はエッセル共和国で対峙した魔導兵器を思い出していた。

 頭部だけであの魔導兵器より大きい上に、更にその数倍以上もある胴体。

 恐らく、表面の金属は耐魔法加工や魔力吸収加工が施されているだろう。

 倒す方法は外気功による物理攻撃での破壊しか無いと思うが、俺の外気功でダメージを与えられるのか?

 美紀叔母さんを置いて来たのは失敗だったかも知れない。

 まさか勇者まで魔導兵器を持ち出すとは思わなかったからな。


「う~ん、ヤクモ、ここ何処~?って、はわわわわわ~、ドラゴン~!!」

 俺の頭の上で気絶していたレーチェが起きた様で、魔導兵器を見て驚愕していた。

 ん?なんか頭に冷たいものが……。

 このクソ妖精!また俺の頭の上で漏らしやがったな!?

 後でシメる!


 龍型魔導兵器が壁を崩した事による砂塵が止むと、瓦礫を乗り越えて人影が数人現れた。

 男が一人と女が三人。

 見なくても誰かなんて既に分かり切っているが。

 その男が笑みを浮かべながら話しかけてくる。

「思ったより早い到着だね。魔王相手に前座でも楽しもうかと思ってたのに、いきなり本番とはちょっと興がそがれるよ」

 勝手な事をほざく口元が俺の苛立ちを更に引き上げる。

「おい、ハルナは何処だ?」

 俺は不快な感情を隠す事なく、目の前の勇者――紅林雄人にぶつけた。

「いやいや、それ以上興をそぐ様な事言わないでよ。もうちょっと空気読んで欲しいなぁ。メインディッシュは最後に取っておくものでしょ」

 冷たい瞳で造られた笑顔に心底虫ずが走る。

 教えないなら力ずくで言わせるまでだ。

 けど、やや此方が無勢か?

 お祖父ちゃんがどれ位闘えるか知らないけど、この前勇者に不覚を取ったとか言ってたし、あまり当てにしない方がいいかも。

 となると俺と美紅と美緒の三人で、勇者のパーティ四人+魔導兵器と闘う事になる。

 まさか魔導兵器まであると思って無かったからな。

 叔母さんを置いて来たのは失敗だったか。

「おい、お漏らし妖精」

「ヤクモ、その呼び方は非道いよ~」

「黙れ、人の頭の上で散々漏らした癖に。って、そんな事はどうでもいいんだよ。レーチェ、ハルナの居場所は分かるか?」

「う~ん、凄く近くにいるみたいだけど、何かに妨害されて正確な場所が分かんないよ~」

 まったく、使えない羽虫だな。

「じゃあレーチェ、美紀さんがラルドと一緒に魔大陸の何処かに居るはずだから、魔王城に来る様に通信魔法で伝えてくれ」

「うん、分かった~」


 さて、これで援軍が来るまで時間を稼げば何とかなると思うが。

 俺が勇者と闘うとなると、一番厄介な大魔導士アレアを抑えられない。

 逆に俺がアレアと闘うと、恐らく一番驚異である勇者を抑えられない。

 いや、妹達なら或いは勇者に勝てるかも知れないが、そうなると大柄な剣士と白猫の獣人を抑えられない。

 そもそもあの魔導兵器を誰が抑える?

 あれ?援軍が来る前に、もう手詰まりじゃねーか!

 一旦空間転移で距離を取るか?

 いや、空間転移は切り札として紅林雄人にはまだ見せたく無いな。

 色々思考を巡らせている間にも、勇者のパーティはジリジリと此方に近付いてくる。

「あのブサイクな魔導士の男は私がやるわ。あんた達は他の小娘達をやって」

 アレアが剣士の女と白猫の獣人に指図する様に促す。

「別に構わないが、また返り討ちにされるだけじゃ無いのか?相性的にも私があのブサイクと闘うのが理想だと思うが?」

「返り討ち、ぷぷぷぅ。またあのブサイク君に返り討ちにあって、お家に帰る事になるんじゃないの~?ぷくくくっ!」

「なんですってぇ!?」

 剣士と白猫に揶揄されてこめかみに青筋を立てるアレア。

 ってか、ブサイク連呼すんな!

 それにしても、あいつら仲悪いのか?

 連携が取れてないのは此方にとっては好都合だけど、逆に連携しなくても個々の能力が高くて強いのかも知れない。

 紅林雄人も特に注意する事なく好き勝手にやらせるつもりみたいだし。

 安易な考えは捨てた方が良さそうだ。


 俺と妹達が戦闘に備えて身構えると、お祖父ちゃんが俺達の前に一歩踏み出す。

「ヤクモ、僕が勇者の相手をするよ」

「え?アランさん大丈夫なんですか?」

「うん、前に負けた時は本気出す前だったし、今回は最初からクライマックスで行くから大丈夫。それに、勇者の相手は魔王がするものでしょ?」

 飄々と言い放つけど、ホントに大丈夫かお祖父ちゃん?

「それに援軍も到着したみたいだ」

 え?援軍?何言ってるのお祖父ちゃん?

 レーチェに通信してもらったばかりだから、そんなに直ぐに援軍が来る訳が……。

 そう思った瞬間、上空に巨大な魔力の気配を感知した。

 見上げると、三つの光りが此方に向かって流星の様に飛んで来る。

 明らかに危険予知が敵対的な赤を示しているけど、あれホントに援軍か?

 三つの光りはお祖父ちゃんの目の前に着地し、人の形を成したと思うと即座に膝を突き魔王への礼を取る。

「遅れて申し訳ありません、魔王様。我ら『四天王』只今参上しました」

 いや、三人じゃねーか『四天王』。

 一人どうした?

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