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魔王

「「やっぱり、お祖父ちゃんだ!」」

「おじいちゃん……?」

 あ、バカ妹達。

 それって、いつもの逆鱗に触れるパターンじゃねーか!

 ……と思ったけど、魔王は鳩が豆鉄砲を食ったように口をぽかんと開けて呆けているだけだった。

 嵐の前の静けさ、じゃないよね?

 俺は恐る恐る魔王に話しかけてみる。

「あの~、俺達、勇者ミサと貴方の息子の子供でして。貴方から見れば孫に当たる者です」

 詳らかに関係を伝えたつもりだが、魔王は眼を見開いて俺達を凝視する。

 ダメだったか?と思いきや、

「そうか、君達は僕の孫だったのか。いや、会えて嬉しいよ」

 魔王はニッコリと微笑んで、少しオーバーアクション気味に両腕を広げ歓迎の意を示した。

 よかった、年齢的な事を気にするなんて男らしく無いもんな。

 余計なツッコミが必要なのは、年行ったBBAだけで充分だよ。

「でも、おじいちゃんと呼ぶのはちょっと勘弁してね」

 気にすんのかい!

 ちょっと女々しいぞ、お祖父ちゃん!


「えっと、じゃあ何とお呼びすればいいですか?」

「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はこの魔王城の主でアラン。君達の名前も教えてくれるかい?」

「俺は八雲です」

「美紅です」

「美緒です」

 一通り自己紹介が終わった所で、俺はふと疑問に思った事を尋ねてみる。

「今、各国の兵が魔大陸に向けて攻め込んで来てるはずですけど、アランさんは迎撃に向かわなくて良いんですか?」

 俺の問いに、少し困った様な顔を見せるお祖父ちゃん。

「そうしたいのは山々なんだけど、僕に掛けられた呪いの一つのせいで、この魔王城から出る事が出来ないんだよ。まぁ、ノヴァちゃんが迎撃してくれるから、余程の達人でも来ない限りここまで辿り着く事すら無いだろうし」

 お祖父ちゃんは遠くを見つめて嘆息する。

 お祖母ちゃん相手に勝てる奴なんてそう居ないだろうし、魔王様の出番なんてあまり無いんだろうな。

 そんな哀愁漂うお祖父ちゃんに妹達が無造作に近付く。

「ねぇ、おじ……じゃなくてアランさんって魔王なんでしょ?あんまり強そうに見えないけど」

「私もそう思った。っていうか、アランさんって魔族っぽく無いよね。お母さんが魔王は魔族だって言ってたのに」

 おい、美紅、美緒。失礼な聞き方すんなよ。

 強そうに見えないって、まだ闘いたいとか思ってたのか?

「今は魔族だけど、元々は人間だしね。呪いの一つのせいで種族的に魔族になってるだけだから、実際は人間と変わらないんだよ」 

 寛大な魔王様はバカな妹達の戯言にも怒りを顕わにする事は無かった。

 それどころか、孫に甘すぎる様な雰囲気が漂ってるな。

 父さんの娘を溺愛し過ぎる処とよく似てるなと思った。

 あと、気になったんだが……、

「なんか凄く沢山の呪いを受けてるんですね」

「そうだね。108つぐらいあるかな?半分以上は抑え込めてるんだけど、僕の力が及ばない呪いがいくつかあって」

 ごく普通にとんでもない事を言い出す魔王。

 思春期の男の子が受け易い煩悩という名の呪いも108つだが、まさかそれじゃ無いよね?

 と、魔王が俺の方へ近寄って来て、俺の額の前に右手を翳した。

「ああ、やはり君には僕の呪いが遺伝してしまってるみたいだね。子孫に迷惑をかけてしまって本当に申し訳ない」

 掌からの温かい波動を感じながら、俺は困惑する。

 一体何の事を言ってるんだ?

「『認識阻害』と『汚れた魂の反射』が大きく影響しているね。『認識阻害』は容姿を醜く見せる呪い。『汚れた魂の反射』は相手の魂の汚れを鏡に映した様に見せてしまう呪い。どちらも純粋な魂の持ち主には影響しない呪いだけど、きっとこれらの呪いのせいで苦労した事だろう。君の父も同様に苦しんでいた。あの子はミサ殿が現れてくれた事で救われた様だが、君の前にも良き伴侶が現れてくれる事を祈るよ」

 お祖父ちゃんの黒い瞳は悲しそうな色を映し出していた。

 『認識阻害』と『汚れた魂の反射』。

 俺がブサイクなのは、呪いのせいだったのか。

 異性から外見を否定され、剰え嫌悪感まで抱かれる。

 それが日常であり、それが俺の現世の宿命だと思ってた。

 まぁ、今更呪いだとか言われても、ブサイクとして扱われる事に変わりは無いだろ。

 魔王が解けない呪いを解く手段があるとも思えないし、解ける呪いなら賢者の石とかで既に解いてるだろうからな。

 いや、それよりも重要な事をお祖父ちゃんは言っていた。


――純粋な魂の持ち主には影響しない。


 もしそんな相手に巡り会えたなら、ブサイクな呪いを受けた俺にも幸せを掴む未来があるのかもしれない。

 今回お祖父ちゃんに会えた事で、呪い以上に希望を貰えた気がするな。

「ありがとう、アランさん。俺、ブサイクとか言われてるけど結構楽しく生きてるから。呪いが遺伝したとか気にしなくても大丈夫だよ」

「そうかい。そう言って貰えると少し心が軽くなるよ」

 俺が笑顔を見せると、お祖父ちゃんも安堵した様に笑みを返してくれた。

 けど、こうして話してみると、確かに魔王様あんまり強く無さそうだな。

 妹達が言うのも分かるわ。

 ちょっと心配になって来たんだけど。

「アランさん。言いにくいんだけど、妹達が言う様にあまり戦闘に向いてる風に見えないですよ。魔王として大丈夫なんですか?」

「あぁ、よく言われるよ。これでも元勇者なんだけどね」

 ん?元勇者?

「ノヴァちゃんが『魔王は最初は弱く見せておいて、段々とパワーアップするものだ』って言うから、初めて会う人の前では魔力を抑えてるんだ。おかげでこの前は、パワーアップしようとした隙を突かれて勇者君に不覚を取ってしまったけどね」

 軽い調子で笑いながら話す魔王様。

 段々とパワーアップって、完全にアニメの影響受けてるなお祖母ちゃん。

じゃなくて!

「いやいやいや、元勇者ってどう言う事ですか?まさかアランさんも異世界から召喚されたの?」

 危うく流されそうになったけど、元勇者とか聞き捨てならないわ。

 俺の疑問に、何が?みたいな顔すんな魔王!

「いや、僕はこの世界で生まれた勇者だよ。というか、勇者だった。先代の魔王を倒した時に呪いを受けて、魔王になってしまったんだ。自然発生的に勇者が生まれるのは希でね、僕の後は現在に到っても、この世界で勇者は生まれていない。だから勇者召喚という技術が開発されたんだ。異世界から召喚する際にスキルを付与して、簡易的に勇者を造り出す技術だね。僕ら魔王軍にとっては厄介な技術だけど、孫に会えるという幸せを得られた事だし、勇者召喚も捨てた物じゃないね」

 そうか、お祖父ちゃんはこの世界で生まれた勇者だったのか。

 その勇者が魔王になったから、勇者召喚で勇者を造って倒そうとしたのか。

 ……って、いや、またさらっと重要な事言ったぞ!

 魔王を倒した時に呪いを受けて魔王になったって。

「じゃあ、アランさんを倒すと魔王になっちゃうの!?」

「どうかな?呪いの一部を受けてしまうかも知れないけど、僕が意図して呪いを掛けない限り魔王には成らないと思うよ」

 飄々と話すお祖父ちゃんにちょっと呆れてしまった。

 次々に重要な話をぶっ込んで来るから、長居しちゃったじゃないか。

「ごめんアランさん。俺達これから勇者を倒しに行かないとなんで、もう行くよ」

 俺が『舞空』を発動しようとした処で、突然お祖父ちゃんが真剣な顔で後ろへ振り返る。

「いや、向こうから来たみたいだよ」

 お祖父ちゃんの言葉とほぼ同時に、魔王城の外から雷鳴の様な轟音が響いた。

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