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気功

 装甲の重さを感じさせない機敏な動きで、魔導兵器が此方へ猛獣の様に駆けてくる。

 先手必勝とばかりに、その足元へ滑り込んだ俺は右拳に気を込めて魔導兵器の足を思い切り殴った。

 ガンッ!という音が辺りに響くが、銀色の脚部には傷一つ付いた形跡すら無かった。

「ふっ、はははは!そんな攻撃がゴーレムに効くものか!」

 ハゲ男は勝ち誇った様に高笑いしてるけど、そのゴーレムが暴走してるのにそんな余裕見せてていいのかよ?

 俺が一旦離れるために後方へ飛ぶと、次に美紅と美緒がそれぞれ左右から挟み撃ちにする形で飛び掛かった。

 魔眼は無いけど、気の動きは分かる。

 妹達は先程俺がやったのと同様に拳に気を込め、魔導兵器の足の脛の辺りへと叩き込む。

 もっとも俺とは比べものにならない程の気の量だが。

 ドガンッ!!と、音を聞いただけで違いが分かる攻撃を受けて、魔導兵器がグラグラと蹌踉めく。

 崩れこそしなかったが、美紅と美緒の気をモロに受けた部分はひしゃげて変形してしまっていた。

「バ、バカな!?魔法金属で造られた装甲を素手で!?」

 ハゲ男が驚愕に眼を見開いているが、だからそんな場合じゃねーだろって。

 ハゲ男よりも衛兵達の方が状況を理解している様で、負傷兵を城へ運びつつ全員が撤退の準備を始めていた。


 ゴーレムの動きが鈍った処を突いて、今度は美紀叔母さんが左後ろからバレエの様に華麗な回し蹴りを放つ。

 美紅と美緒に勝る気を込めた蹴りがゴーレムの左腕に炸裂し、装甲が剥がれて吹き飛んでしまった。

 あの3人の気の強さが異常過ぎるんだが、俺の攻撃と何が違うんだ?

 右手に気を込め直してみたが、どうやってもゴーレムにダメージを与えられそうな程には高まらなかった。

 歯痒い気持ちを抑えて再び攻撃に転じようとした時、ゴーレムの右手部分が装甲の中に引っ込み、代わりに砲身が顔を出し此方に照準を定める。

「くっ、魔力がもう無い!」

 バリアを張れない俺は、ゴーレムの砲身からレーザーが照射される瞬間に右へ跳躍してなんとか躱す。

 だが、ゴーレムは右腕を動かしてレーザーを追従させて来た。

「やべえ、避けきれないっ!」

 レーザーが俺に追い付く寸前に、美緒が右腕を蹴り上げて攻撃を逸らしてくれた。

 俺は地面に空けられた穴を見てぞっとする。

「危ねぇ、助かったわ美緒」

「お兄ちゃん、貸し一つだからね」

 美緒の蹴りを食らったゴーレムの右腕はベッコリと凹んでいた。


 やはり、俺と妹達では気の練度みたいなものが違うらしい。

 『気穴』を開放してもらい気を使える様になった程度で、少し調子に乗っていたかもしれないな。反省。

 修練を積み重ねた人達には小手先の力では敵わないと確信したが、このまま叔母さんと妹達に任せるのは男として情けなさ過ぎるだろ。

 攻撃力が足りない分は数で補う事にして、俺はゴーレムの右腕のレーザーを食らわない様に左側へ回り込み、拳に気を込めつつ体も強化して高速で殴り続けた。

 一発では傷すら付かなかったが、銀色の装甲が見て分かるぐらいには凹んだ。

「これだけやっても妹達程の攻撃力が出せないって……」

 愕然としていた俺の頭をゴーレムの左腕が掠める。

「八雲、戦闘中に気を抜いちゃだめでしょ。それから、気の神髄は相手の内部に撃ち込む事だから、あなたが今やったみたいに力任せの攻撃ではダメージを与えられないわよ」

 次々にゴーレムの装甲を変形させていく叔母さんの注意を聞いて、漸く自分の戦い方が間違っていた事に気付く。

 そういえば、叔母さんが城壁を破壊した時は魔眼で見たら、気が壁に吸い込まれる様に消えてから壁が砕けたっけ。

 あのイメージでやればいいのか。

 俺は、両脚が歪んで真面に歩けないゴーレムの後ろへと回り込み、右拳にありったけの気を込める。

 自然体で斜に構え、腰をやや落とし右腕を引く。

 体の軸をずらさずに真っ直ぐに右拳を突き出し、ゴーレムの右足へ杭を打ち込むように気を解放!

 ガンッ!という鈍い音が響いた後、一瞬送れて銀色の装甲が吹き飛び、ゴーレムの右足の骨格らしい金属が顕わになる。

「よ……っしゃ……、て……あれ?」

 急に体が重くなったと思ったら目の前が歪み、俺はその場で膝をついてしまう。

 何が起こった?

 早く逃げないとゴーレムの攻撃が来る。

 しかし、俺の体は言う事を聞いてくれない。

 ゴーレムが上半身を回転させて俺の方を向き、右腕を突き出した瞬間、

「お兄ちゃん、危ないっ!」

 俺の左頬を強烈な蹴りが直撃した。

 いや美紅、お前の本気の蹴りの方が危ねぇよ……。

 10m程吹き飛んだ俺は、再びリバー・オブ・サンズのせせらぎを耳にする。

 やべぇ、異世界にいるのに更なる別世界に旅立つとこだったわ。

 なんとか意識を取り戻した俺は、体中の気が殆ど無くなっている事に気が付く。

「内気功だけであれだけの気を放出したら、体が動かなくなるのは当たり前よ。美紅と美緒の気の流れ方を感じてみなさい」

 叔母さんに言われるままに、美紅と美緒の気の流れを感じてみると、体の内側の気は急な方向転換や攻撃する一瞬にしか使われていない事に気が付いた。

 そして、体の外側から宙に漂う気が流れ込んでいるように感じる。

 そういえば妹達をこの世界に連れて来た時に、『外気功で気を取り込む』みたいな事を言ってた気がするな。

 でも、気穴を開いただけの俺にいきなりそんな高レベルな事ができると思えないんだが。


 俺が困惑した顔を見せていると、美紀叔母さんがゴーレムから少し距離を取る。

「美紅、美緒。ちょっと引きつけておいてくれる?八雲、外気功は自然の気と一体になるように自分の気を解放するの。今から私がやるのをよく見ておいて」

 叔母さんは目を閉じて自然体に構え、呼吸の速度を少しずつ落としていく。

 呼吸の間隔が長くなるに連れて、周りの気が叔母さんの体内へと流れ込む。

 真綿が水を吸収する様に、気が流れ込む度に叔母さんの中で大きく膨れ上がっていくのを感じた。

 そして叔母さんが眼を見開いた瞬間、金色の輝きに包まれてそれが一気に溢れ出す。

 肉眼で見える程の気を纏った叔母さんは、その強大な気を更に練り上げていく。

「高まれ!私の女子力!!」

 いや、女子力ってそんなに攻撃的な力じゃないから!

 寧ろどんどん低まってるから、女子力!

 美紀叔母さんの最大まで低まった女子力と反比例する様に、練り上げられた気は爆発的なうねりを見せ、炎の如く立ち上る。

 漫画の主人公の様に全身から黄金色のオーラを放った叔母さんは、地面を蹴ってゴーレムへ向けて疾走した。

「はあっ!!」

 叔母さんの放った正拳から膨大な量の気が溢れ出し、ゴーレムの銀色の装甲を覆い隠す程の新星の様な眩い輝きを放った。

 眩しさに眼を細めるが光は直ぐに消え、後にはゴーレムの脚だった部分だけが残されていた。

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