魔導兵器
城内の俺達が降り立った広場は、恐らく衛兵の訓練に使われている場所なのだろう。
草樹は生えていないし、それなりに広くて見通しがいい。
迎え撃って闘うにはいい場所だとは思うが、戦闘が俺達の目的ではない。
ハルナとその他2名を救出する事が最優先だ。
先ずは衛兵を捕まえて、ハルナの居場所を聞き出すところからだな。
「ねぇ、お兄ちゃん。ホントに此処にハルナちゃんいるの?」
「どういう事だ?」
「ハルナちゃんの気配を感じないよ?」
確かに妹達の言う通り、城内を『魔眼』と『危険予知』で見ても、全員が危険を表示する真っ赤でハルナらしきものは見えない。
ハルナなら、緑とは言えなくても黄色ぐらいにはなっているはず。
地下牢という可能性も考えたが、地面に向かって見てもそれらしい反応は無かった。
どういう事だ?
イザヨイはこの国に居たんだから、ハルナもこの国に連れて来られたんじゃないのか?
よくよく見てみると、勇者のパーティらしき反応も無い。
既に何処かへ移送された?
レーチェが居ればマーキングで居場所を特定できるんだが、残念ながらあの羽虫妖精も捕まっている。
焦燥だけが募って考えが纏まらない――というか、考えた処で答えなんて出るはずが無かった。
一先ず撤退して、組織の情報網に何か引っ掛かっていないか確認するのが最善か?と思った処で、城の中から衛兵がゾロゾロと群れを成して出て来た。
衛兵達は俺達から距離を取って構えたまま、此方をジッと見続ける。
その衛兵達の間から黒いフードを被った怪しげな人物が前へ歩み出た。
「勇者様の言った通り、餌に食らいついて来たな」
不気味なドス暗い声を発してフードを取った人物は、頭に髪の毛一本すら無い、黒いちょび髭で陰湿な眼をした男だった。
「態々自ら橋を落として退路を断つとは、なんと滑稽なモルモットだろうか」
そう言って男がパチンと指を鳴らすと、城の周りにバリアが展開された。
逃がす気が無いと言いたいんだろうけど、この城内の衛兵だけで俺達に勝てると思ってるのか?
と、そこで俺と妹達は一つの違和感に気付いて後ろへ振り返る。
「あれ?美紀さん、あのちょび髭男には求婚しないの?」
「ハゲは嫌」
美紀叔母さんが結婚出来ない理由を垣間見た気がした。
そしてハゲという言葉に、ハゲ男がこめかみの青筋をピクピクと痙攣させて怒りを顕わにしていた。
「ふざけおって……。勇者様と共に開発した魔導兵器の贄となるがいい!」
ハゲ男が右手を振り上げると、この広場へ出るための城の扉の中で一際大きいものが、物々しい音を響かせてゆっくりと開く。
扉の奥で怪しく銀色に光る何かが機械音と共に動き出した。
「何だあれ?ロボット?」
銀色の装甲を纏い、重量級の足音を響かせて一歩ずつゆっくりと歩いてくるロボット。
一見すると巨人が銀色の全身鎧を着て動きにくそうにしている様にしか見えない。
あそこまで動きが遅いと放って置いても良さそうだけど、何故あのハゲ男はあんなに自信満々なんだ?
取りあえず魔導兵器に向かって無詠唱でファイアボールをかなり強めに放ってみた。
赤髪の効果も上乗せされて轟々と燃えさかりながら魔導兵器に向かって飛んで行く。
ファイアボールが着弾すると、地面を揺るがす様な爆音と共に魔導兵器が業火に包まれた。
ハゲ男の後ろで構えている衛兵達は驚いていたが、ハゲ男は眉を少し動かしただけだった。
炎が収まると、何事も無かったかの様に魔導兵器は再び歩きだして、先程より少し機敏な動きで此方に向かってきた。
「魔力を吸い取っているのか?」
魔眼で見ると、魔導兵器の胸の辺りへ魔力が吸い込まれている様に見えた。
「くくく、良くぞ見破ったな。如何にアレア様を倒す程の魔導士であろうとも、耐魔法加工が施されている上に魔力を吸引して自身のエネルギーに変えれる魔導兵器『ゴーレム』に勝つ事は不可能。バリア内の魔力も少しずつ吸っているから、直ぐに魔法も使えなくなるぞ。魔力が尽きた時、お前達はゴーレムになぶり殺されるのだ!」
ご丁寧に解説ありがとう、ハゲ男。
「ソレハタイヘンダー」
あ、棒読みになっちゃった。
魔力が尽きる前に空間転移でバリアの外に脱出しようかと思ったけど、先ずはあのハゲ男からハルナの居場所を聞き出さないとな。
だが、ハゲ男を捕まえる為に使おうとした空間転移は発動する事が出来なかった。
「またかよ……」
スキルが消されている。
いつの間にか他のスキルも使用不能で、魔力の流れが見えなくなっていた。
「何か特殊なスキルでも使おうとしたか?ゴーレムが魔力を一定以上吸い込むとアンチ・スキルの機能が発動するのだよ。最早為す術無く殺されるだけだな、はははは!!」
イザヨイがスキルを消す刀を持っていたが、あれと同じ技術が使われているんだろう。
制限時間があるかは分からないし、時間を掛ければゴーレムがどんどんパワーアップしてしまう。
早期決着する必要があるな。
「美紀さん、美紅、美緒。とりあえず魔導兵器は後回しで、あのハゲを取り押さえよう」
「そうね、あの人を抑えれば銀色ロボットも止まるでしょう」
「「じゃあ、私達は衛兵を抑えるね」」
俺達が動こうとした次の瞬間、ハゲ男の後ろで控えていた衛兵達がレーザーの様な砲撃でなぎ払われた。
「ぎゃああああああ!!」
砲撃の放たれた方を見るとゴーレムの銀色の胸部分が開き、戦車に搭載されている様な砲身が二本飛び出していた。
あそこからレーザーが発射されたのか。
しかし、何故衛兵を攻撃したんだ?
こちらに寝返ったのか?と思った矢先に、こちらにも砲身が向く。
「やべえっ!!」
ゴーレムの砲身から高周波を発するよな音が響き、レーザーが発射される。
高速で迫るレーザーを、僅かに残っている魔力を使って即座にバリアを展開し弾き返す事で、辛うじてゴーレムの攻撃を防ぐ事が出来た。
「まだ魔力が残っていて助かったけど、一体どうなってんだ?」
「どうみても暴走してるよ」
「あれをほっとくって無理じゃない?」
「だよな~」
こちらはまだ余裕ある会話をしていたが、ハゲ男の方は真っ青になって慌てふためいていた。
「な、何が起こっているのだ?何故ゴーレムが暴走している!?」
彼方にとっても想定外の事態らしい。
そりゃ味方撃たれちゃってるもんね。
「この辺一帯の魔力が尽きる前になんとか止めるしかないか。四方から一斉攻撃で的を絞らせないようにしよう」
「「了解」」
「分かったわ。でもその前に八雲、髪を染めるのは不良のする事だから止めなさい」
「……はい」
俺は偽装を解いて黒髪に戻った。
髪染めてると不良って……叔母さん、考え方古いよ。




