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ブクマありがとうございます。
一応男達が生きてることを確認してホッとする。
いくら異世界とはいえ人殺すのは良くないよね。
この国の法律がどうなってるか分からんけど、貴族でもない限り無罪放免とはいかないと思うし。
まぁ、いざとなれば『空間転移』で元の世界に逃げればいいんだけどさ。
「遅れてしまったが、私が来たからにはもう大丈夫だ!……って、な、なんだこれは!?」
突然後ろから声がしたので振り返ると、金髪金眼の若い青年が立っていて、何故か驚いていた。
「な、何が起きたんだ!?あれ?マリアさんは!?」
何だ、コイツ?
俺は『情報開示』でこの青年のステータスを見た。
【名前】ヴェルデ
【レベル】4
【HP】21/21
【MP】30/30
【腕力】7
【敏捷】10
【魔力】18
【職業】貴族
【スキル】威張る
ああ、こいつがヴェルデか。
今頃出てきても、子分達は全員倒しちゃったぞ。
「き、貴様がこれをやったのか!?」
ん?金髪君が俺をめっちゃ睨んで威嚇し始めた。
子分がやられて相当頭に来たのかな?
でもこいつ、親分の割にすごく弱いんだけど。
【職業】が貴族だから、金を積んで雇った用心棒か何かだったのかな?
「おのれぇ!」
ヴェルデ君、なんか、おのれぇ!とか言って剣を抜いたけどけど、構えた姿がへっぴり腰すぎて全然怖くない……。
そして、ドタドタとおよそ武術なんて嗜んだことがないだろう足裁きで、俺に向かって切りつけてきた。
「しょうがないな」
スローモーションというより、コマ送りレベルのショボい攻撃を軽く躱して、スキルを発動せずに腹に一発入れてやった。
「げぼっ!!っ……」
口から色々なものを吐きだして、ヴェルデ君も気を失いました。
めでたしめでたし。
っと、一応放っておくわけにもいかないか。
ほっといて死んだなんてことになったら、後味悪いしな。
「すいません、この中にお医者様はいらっしゃいませんか~?」
キャビンアテンダントばりに周囲に呼び掛けるも、お医者様らしき人は名乗り出ない。
回復魔法ないからな、困った。
「あんた、ヴェルデの手下じゃないの?」
声をかけられたので振り向くと、どこかへ行っていなくなっていた先程の美人のシスターさんが立っていた。
「ええ。この人達とは初対面ですが?」
「じゃあ、早くこっちへ!」
そしてシスターさんは素早く倒れている四人に回復魔法らしきものをかけて、俺の手を引っ張り路地裏へ入った。
回復魔法はもちろん『魔眼』にストック。
これで怪我しても大丈夫だな、ラッキー♪
俺はシスターさんの柔らかい手の感触を味わいながら、一緒に路地裏を走った。
女の子の手を握ったのなんて、幼稚園の時のお遊戯以来だなぁ。
あの時の女の子、後で一生懸命手洗ってたっけ……。
涙で視界が霞む中、五分ほど走った先で周りの家よりも一回り大きい教会が見えてきた。
おそらくシスターさんの勤める教会なのだろう。
「裏手から、教会の隠し部屋に入るからついてきて」
シスターさんに続いて、教会の脇から裏手へ廻る。
やや古くなって建付けが悪くなった木のドアを開けて中に入ると、そこは6畳程の広さで、ベッドと小さな机が置いてあるだけの質素な部屋だった。
ドアを閉めると、シスターさんはこちらをじっと見つめてきた。
なんか俺の格好、変だったかな?
それとも容姿が好みじゃ無いと罵倒されるのだろうか?
美人に見つめられると、普通の人は赤くなって照れるのだろうけど、俺は萎縮してしまう。
過去にあまりいい思い出がないから、若干女性恐怖症なのかもな。
昨日一日であれだけ拒絶されたせいもあるかもしれない。
「君は、ヴィンター族か?」
「うぇっ!?」
やべ、急にシスターさんが問いかけて来たから変な声出ちゃった。
俺の容姿は今、偽装で白髪碧眼になっているが、これは5回目に召喚されたところの人達をモデルにしている。
偽装するにしても、実際にいる人種に近くないとモンスター扱いされるかもしれないからね。
たぶん、あの種族がヴィンター族なんだろうけど、迂闊な答えは身を滅ぼすかもしれない。
「その白髪、北方から来たんじゃないのか?」
「田舎で育ったので、自分が何に属してるのかはよく分からないです。この町に来たのも今日が初めてなので」
「そうか。だが、君はもうこの町を出た方がいい」
「は?」
今日来たばっかりなのにもう出た方がいいって、何故?
「君がさっき気絶させた男は、この国の侯爵の息子だ。親子共々悪い噂の絶えない人達だから、目をつけられる前に逃げるべきだ」
なるほど、よくある権力を笠に着た悪者なわけね。
あんな程度の奴らに負けることは無いと思うけど、目立つのは本意じゃないしな。
言われたとおり、この国からは離れた方がいいか。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったね。私はマリア。この教会でシスターをしているんだ」
「俺はヤクモです。あちこち旅をして廻ってます」
お互いに自己紹介を終えると、マリアさんは少し悲しそうな目で俺を見つめた。
「私事に巻き込んでしまったね。ヴェルデは私目当てで、手下を使ってよくちょっかいを掛けて来てたんだ。君もその仲間かと思って放って逃げたんだけど、手下だけじゃなくてヴェルデまで殴ってしまうから驚いたよ」
なるほど。
それで微妙な顔になって、いつの間にかいなくなってたのか。
しかし、ヴェルデっていつもこんな茶番してたとは、ちょっと残念な奴だな。
「まぁ、俺が勝手に巻き込まれに行ったんで気にしないでください」
「いや、助けてくれたことは感謝するよ。今すぐ町を出ていくとヴェルデの手の者に見つかるかもしれないから、今日はここで泊まって明日朝一で町を出ることを勧める。この隠し部屋は今は誰も使ってないから自由にくつろいでくれ。私はこの後用があるので、食事は誰かに持ってこさせるから」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
この世界の食事を体験できるのはいいな。
「じゃあ、くれぐれも外に出て見つかったりしないように。私も庇いきれないかもしれないからな」
「はい、わかりました」
パタンと扉を締めてマリアさんは出ていった。
マリアさんはちょっと強気な感じで男っぽい話し方だけど、優しくて美人だから、この町を離れた後もちょくちょく会いにこよう。
せっかく知り合えたんだしね。
ヴェルデ達に見つからなければ問題ないだろう。
しばらく、自分のステータス等を確認していると、コンコンと扉をノックする音がした。「あのぉ、マリアさんに言われて食事をお持ちしたのですが」
若い女性の声に緊張してしまう。
「は、はい、どうぞ」
俺が返答すると、マリアさんが着ていたのと同じようなローブを纏った美少女が入ってきた。
俺はその子を見て目を見開いた。
やや長めの赤髪に真紅の瞳――。
一番最初に俺を召喚して返還した美少女だった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
なるべく毎日連載したいですが、仕事の関係上1日置きになってしまうかもしれません。
なんとか、がんばって更新したいと思います。