魔導具
イザヨイの持つ刀は不気味な黒いオーラを漂わせていて、直感的に触れる事すら危険だと思わせる。
迂闊に飛び込めないので、俺はジリジリと摺り足で少しずつ間合いを詰めていった。
「恐れを成したか?矮小なるクソムシよ」
あれで挑発してるつもりなのかな?
小物感が漂い過ぎてて、慎重に行ってる俺がバカみたいじゃないか。
逆にちょっと頭に来たので、俺は無造作に一歩踏み込んでみた。
次の瞬間、目の前に2体のイザヨイのビジョンが浮かび上がる。
フェイント1つだけだし、それが見え見えでビジョンの濃度も違い過ぎる。
俺は明らかに濃度が濃い本命の攻撃だけを見据えて避ける。
「なっ!?」
フェイントが何の効果も発揮せず、あっさりと自身の攻撃を避けられたイザヨイは驚愕し眼を見開いた。
そして隙だらけの脇腹に向けて俺が拳を突き出すと、それをもろに食らって吹き飛んで行った。
イザヨイに頭から突っ込まれた瓦礫は更に細かく砕け散る。
こんなに弱い癖にあんなに偉そうだったのかと思うと、凄く哀れになってくるな。
まぁ、普通の人から見たら相当強いんだろうけど。
瓦礫の山の中で呻きながらも、イザヨイは俺を睨み付けてくる。
「お、おのれぇ!」
しかし『気穴』を開いて貰っただけでこれだけ闘えるって事は、魔法も混ぜたら俺無敵じゃね?
いやいや、調子に乗るとフラグが立っちゃうから自分を戒めねば。
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすのだよ。
「厄介なスキルを持ってる様だが、私には通じない!」
兎――もとい、イザヨイが刀を地面に突き刺すと、刀に纏わり付いていた不気味なオーラが地中に吸い込まれるように消えた。
そして次の瞬間、俺達の周りの地面が黒い光の様な物を発して鼓動する様に一度だけドクンと跳ねる。
ダメージを受けた気配は無かったが、俺は自身の変化に直ぐに気付いた。
――スキルが消された!?
賢者の石が出来る事だから、他の魔導具でも同様の事が出来ても不思議じゃない。
しかも、今回は俺の持つ5つのスキルが全て消された。
気を扱える様になって調子に乗っていた俺も、流石に動揺を隠しきれなかったが、
「ふははは!僅か数分しかスキルを消せないが、貴様に止めを刺すには充分な時間だ」
とイザヨイ君がネタバレしてくれたので、俺は直ぐに安堵の溜息をつく事が出来た。
なんだよ、数分で元に戻るんなら大した事は無いな。
焦って損した。
「「お兄ちゃん、今の何?」」
「あぁ、気にしなくていいぞ。大した事無いから」
「「了解」」
「なっ……!?」
顔を引きつらせて怒りの余り声も出せないイザヨイ。
実際今の俺にとってはスキルを数分消された程度、問題にならない。
でも、こんな三下ですら魔力やスキルを消せるってのは後々大変な事になる気がするな。
まさかと思うけど、魔導具を作れる方の勇者が脅されて作った物だったりして?
仮にそうだとすると、相当厄介だ。
もし本気で魔導具を作ったら、自分だけ魔法が使えて周りはスキルすら使わせて貰えないなんていう、賢者の石級のチート魔導具が出来てしまうんじゃ……?
そんなものを仮にアレアが手にしたとしたら、お祖母ちゃんと同等の危険な存在になってしまうじゃねーか。
幸い魔導具を作れる勇者はハルナが捕らわれているエッセル共和国にいるはず。
こんな雑魚はさっさと片付けて、早くエッセル共和国に殴り込まないとな。
「舐めおって!スキルも魔法も使えない奴に我が剣技は躱せぬ!」
地面に刺さった刀を抜いたイザヨイは、身を屈めて全力で踏み込んできた。
イザヨイの右肩が僅かに下がるが、危険予知が無くても気の流れでその動作がフェイクであるとハッキリ分かる。
本命は左手で隠し持っている苦内だろ。
俺は右足でイザヨイの陰になって見えない部分を蹴り、苦内を弾き飛ばした。
「何ぃ!?」
それでもイザヨイは残った右手に持つ刀で下から斬り上げようとするが、そこにもう俺の姿は無い。
イザヨイの後ろに回って首筋目掛け全力の手刀をくれてやると、衝撃で地面にめり込むようにイザヨイは倒れて動かなくなった。
その様子を見て動揺した残りの忍者達は、逃げる事すら出来ないまま妹達と美紀叔母さんに四肢をあらぬ方向に曲げられ無力化されていった。
街の外側で結界を張っていた魔導士達は、戦闘能力が低くあっさり倒す事が出来た。
魔導具を使っていた訳ではなく、闇魔法の一種で魔力を食う様な事をしていたので、一応魔眼にストックしておいた。
それから、便利な魔導具だから貰っておこうと思ったイザヨイの刀は、スキルを消す能力が切れると崩れ落ちて刀身が無くなってしまった。
簡易的な魔導具で1回しか使用出来ない制限とかがあったのかな?
「ぐうぅ……」
暴れられないように縄で後ろ手に縛っておいたイザヨイが目を覚ました。
無駄だとは思うけど、一応多少は何か聞き出せるかも知れないので問い詰めてみる。
「なぁ、勇者の目的って何だ?知ってたら教えてくれ」
「ふん!知っていたとしても、貴様の様なクソムシになど教えるものか!」
こいつ、この状況でこの態度って、意外と大物?
まぁ情報も得られないなら、こいつらは放置してさっさとハルナの救出に向かおう。
と思ったところで、美紀叔母さんがイザヨイの前に歩み出る。
「ねぇ、あなた。私の婿になるなら拘束を解いてあげるわよ?」
何言い出してんの、この人?
「ふん!貴様の様な下劣な女と一緒になるぐらいなら殺された方がマシだ」
「じゃあタヒね!」
「美紀さん、殺しちゃだめえぇ!!」
右拳に有りっ丈の気を込めてイザヨイに殴りかかろうとする美紀叔母さんを羽交い締めにしたが、叔母さんの気当てで既にイザヨイは吹き飛んでしまっていた。
だが瓦礫の山に突っ込んだイザヨイは、「覚えてろ……」とか言ってたので辛うじて生きてたみたいだ。
俺と妹達は今の光景を見なかった事にして、荒ぶる叔母さんを連れ瓦礫の街を後にした。




