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気穴

 壁が崩れ瓦礫だらけのゴーストタウンと化している、人影すら無い静かな街跡。

 日が昇っている現在でも、不気味に静まり返っている。


「一瞬で景色が変わった……。一体何をやったの、八雲?」

 美紀叔母さんは、目を見開いて辺りを見回しながら俺に問う。

「『空間転移』の魔法です。一度行った事がある場所なら一瞬でどこへでも行けるんですよ」

 正直、言っても信じないだろうなと思ったんだが、

「そう。それで、ここは何処なの?」

 あっさり受け入れた?

「ここは、異世界です。漫画とかでよくある剣と魔法のファンタジー世界みたいな処です」

「そ、そうなの……」

 魔法は受け入れるのに異世界は受け入れないの?

 気功とか出来るから超能力的な事は信じられるけど、平行世界の様な超常現象的な事は信じられないとか?

 叔母さんの中での線引きがよく分からん。

 そして何やら右手を開いたり閉じたりしながら、「この子達が使っていた変な力の源はこれね」とか独り言を言ってる。

 さすが妹達バケモノの師匠だけあって、あっさり魔力を感じ取ってるみたいだ。

「「お兄ちゃん、失礼な事考えてる眼だ」」

「なんの事か分からんな」

「まぁいいけど。ここがエッセル共和国なの?」

「既に滅んでるみたいだけど?」

「いや、まだずっと先なんだが、行った事のある場所にしか行けないから一番近い場所に転移したんだ」

 因みにここを滅ぼしたのは母さんである疑いが濃厚だが、確証は無いので黙っておこう。

「取りあえず俺はエッセル共和国まで飛んで来るから、ちょっとここで待っててくれ」

 とは言ったものの、俺は『舞空』の魔法を発動する事が出来なかった。


――魔力が消えてる!?


 そんな事が出来るのって賢者の石ぐらいのはず……。

「お兄ちゃん、多分周りを囲んでる人達のせいだよ」

「お兄ちゃん、油断しすぎ」

「いや、周りを囲まれてるのは知ってたけど、魔力もショボいからお前達に任せようと思ってたんだよ。まさか魔力を消せるとは思わなくてさ」

 魔眼と危険予知で赤い表示が20程見えている。

 この瓦礫だらけの街の外側に10人、瓦礫の陰に隠れながら近付いてくるのが10人。

 幸いなのは、賢者の石と違って近付いてくる10人の魔力も抑制されている事だな。

 肉弾戦なら負けないぞ――妹達が!

 俺は身体強化すら使えない状態なので、他力本願と言われようとも空気に成って見ていよう。

 徐々に近付いて来る気配を無視して、美紀叔母さんが俺の正面に立つ。

「八雲、あなた何か急に弱くなったわね?」

「まぁ、魔力が無くなったから身体強化出来なくなってるもんで」

「紛い物の力に頼っているからよ。敵意のある者が近付いて来てるし、あなたの『気穴』開いてあげるから自分の身は自分で守りなさいね」

 叔母さんは右手の拳を俺の正中線をなぞるように何度か軽く当てて、最後にへその下辺りを思い切り気功の様なもので打ち抜いた。

「ぶえほっ!」

 時間にして僅か一秒程だと思うが、体内を駆け巡る気の奔流に晒されて走馬燈が見えた。

 天に召されるかと思った次の瞬間、再び叔母さんの気当てが俺の心臓に飛び、なんとか意識を取り戻す。

「あ、あぶねぇ!リバー・オブ・サンズが見えたよ」

「「何で英語?」」

「あなた達、バカな事言ってないで準備しなさい。もう間合いに入るわよ」

 いやホントに見えてたから。渡らないで引き返せてよかったよ。

 『気穴』と言うのは良く分からないが、何故か危険予知を使わなくても周りにいる人の気配をハッキリと感じ取れる様になっていた。

 魔力が消されているのに、身体強化以上の強さが体に満ち溢れている。

 例えるなら、某漫画で長老みたいな人に力を引き出して貰った感じだろうか。

 一瞬で俺をパワーアップさせるとか、叔母さん何者だよ?

 美紅と美緒が使ってるチート能力の正体はこれか。

 肉弾戦における手札の少なさが一気に解消されて有頂天に成っている俺の耳に、聞き覚えのある声が流れ込む。

「クソムシを始末するために網を張っていたが、これほど上質な女まで引っかかるとはついている。勇者様に献上するとしよう」

 下卑た笑いを浮かべながら、黒い長髪の鎧武者が瓦礫の陰から亡霊の様にスッと現れた。

 サントゥリア王国で最後まで俺に敵意を向け続けていた裏切り者の男、イザヨイ。

 ハルナを連れ去った張本人が目の前に現れた事で、俺の心が炎の様に揺らめく。

「おい、ハルナは何処だ?」

「ハルナ殿は勇者様に既に献上した。貴様の様なクソムシが会う事など最早適わぬ」

 既に、あの勇者の処に……!?

 焦燥に駆られ、動揺して揺らぐ俺の心に叔母さんの声が届く。

「八雲、心を乱してはだめよ。気は精神の揺らぎに敏感なの。一先ず今やるべき事を見据えなさい」

 そうだ、焦りでコイツにやられてたらハルナを助ける事なんて出来ない。

 先ずは、目の前の敵をぶっ潰す!

「ありがと、美紀さん。こいつら悪い奴らなんで手加減無用だからね」

「見れば分かるわ。私好みの顔じゃ無いもの」

「「選り好みしてるから行き遅れるんじゃ……」」

「何か言った?」

「「何もっ!」」

 余裕綽々の俺達を見て苛立ちを募らせるイザヨイは、俺達に絶望を与えようと躍起になる。

「我らの闇魔法でこの辺一体の魔力を枯渇させた。如何に貴様がアレア様を凌ぐ魔導士であろうと、魔法が使えなければ只の小僧。ここで刀の錆にしてくれるわ」

 三流感が主張し過ぎて四流が顔を覗かせてるよ、イザヨイさん。

 『気穴』が開放されたせいか、イザヨイがそれ程でもない強さであると手に取るように分かる。

 こんなどうでもいい奴に時間を掛けて居られないんだよ。

 イザヨイが右手に持った刀を真上に掲げると、それを合図にしていたかの様に黒装束の忍者達が一斉に俺達に襲いかかった。

 しかし、忍者達が持つ苦内は悉く空を切る。

「っ!?」

 敵を見失って視線を彷徨わせるという無様を晒した忍者達が、何かのアトラクションの様に次々に宙を舞った。

 俺は避けるだけで精一杯だったが、叔母さんと妹達は避けながらも攻防一体の技を繰り出していた。

 相変わらず凄えな。

 忍者達は魔力による身体強化が無ければそれなりに鍛えている自分達に分があると思ってたんだろう。

 遙かに陵駕された身体能力を持つ達人達を前に、動揺を隠せない様だ。

 動きの鈍った忍者達の間を縫う様に駆けながら技を放つ妹達。

「ねぇ、お兄ちゃん確認だけど」

「この世界の魔法って、どの程度のケガまで治せるの?」

「アキレス腱断裂とか内臓損傷を妖精の魔法で治してたから、生きてさえいれば大体治せると思うぞ」

「「分かった。じゃあ四肢が動かなくなる程度なら平気だね」」

 さらっと物騒な事を言い放つ妹達にドン引きしていると、

「でも、それってちゃんと止め刺して置かないと復讐されるって事じゃない?ここって治安機関が無いんでしょ?」

 さらに物騒な事を言い出す叔母さん。

 まぁ向こうは殺す気満々で来てるし、返り討ちにしても正当防衛だと思うけど、

「命を奪うのは後味悪いし、後々の戦意を喪失する程度にして貰えませんか?」

「こんな雑魚相手に命は取らないわよ。安心して」

 微妙に安心出来ない叔母さんの言動を気にしつつ、俺は刀を構えるイザヨイと相対していた。

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