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据え膳

「そんな訳で、俺はその時の振られた後遺症から、多分女性恐怖症になった……って、寝てるーー!?」

 俺の話を寝物語にして、ハルナは小さな吐息を漏らしながら夢の国へ誘われていた。

 もう深夜だから、眠くなる様な話を聞いたらそりゃ寝ちゃうよね。

 でも、男の部屋でそんな無防備に寝るって、ガード甘過ぎだろ。

 少し薄めの生地は、ハルナの柔らかそうな体をクッキリと浮かび上がらせる。

 寝息に合わせて上下する胸は、膨らみこそ小さいがはっきりと山岳地帯を作っており、アルピニストでなくとも登頂せずには居られない。

 これを据え膳と呼ばずして何と呼ぼう?

 さぁ行こう、チョモランマはそこにある!

 そして俺のマッターホルンもボルテージMAXです!


 そこでふと、先程自分で話した事に違和感を覚える。


――俺、ホントに女性恐怖症か?


 振られた後遺症で女性恐怖症になったのなら、異性に近付こうとすら思わないはず。

 それに、マリアさんやルルとは触れても何とも無い。

 アレアを背負っても、ハルナに触れた時の様な拒絶反応は無かった。

 何故ハルナに対してだけこんな症状が出るんだ?

 ハルナの姉に拒絶されたから、似ているハルナに恐怖を抱いている?

 いや、それは違うと思う。

 俺の中の何かが、ハルナにだけ反応している気がする。

 いったい何が……?


 そんな事を考えながらも本能でハルナの胸に右手を伸ばしたところで、頭から血の気が引き、俺の意識は闇の中へ沈んだ。


 目覚めたのは、窓から差し込む朝日の眩しさとコンコンというノックの音の御陰だった。

 寝惚けた頭を左右に振り、返事をして入口の扉を開ける。

 そこに立っていた黒装束の忍者らしき人物は、俺が泊めてもらった部屋の中を見て頭巾の隙間から見える双眸を見開いた。

「ちっ……。首領が及びです。奥の広間までお越しください」

 いや、今舌打ちしたよね?

 なんでそんな態度なんだよと振り返り見ると、まだ寝息をたてて就寝中の美少女の姿が眼に入る。

 天使が舞い降りたかと思う程の神々しさ溢れるハルナの寝顔。

 こんな娘と一晩同じ部屋に寝ていた――手を出す前に気を失ったけど――そんな光景を見たら誰だって舌打ちしちゃうよね。てへ。

「とにかくお急ぎください」

 黒装束の人は俺を睨むと踵を返し、すたすたと歩き去ってしまった。

 俺がリア充に見えて嫉妬したのかもしれないけど、残念ながら何事もありませんでしたよ~。


 ハルナを起こしてしまうのも悪いので一人で出て来てみたが、広間の場所をちゃんと聞いておかなかった事を後悔している。

 完全に迷子だ。

 レーチェも何処に行ったのか分からないし。

 人に聞こうと思ったけど、何故か全員が敵意を示す赤で表示されていて、怖くて聞けなかった。

 昨日はもうちょっと友好的で黄色ぐらいだったのに、今日は完全にアウェーだ。

 もしかして、さっきの黒装束の人が有ること無いこと言い回ってるんじゃないだろうな?

 誰にも尋ねる事が出来ないまま亡霊の様にウロウロしていると、廊下の突き当たりにある大きな扉の向こうに、唯一黄色に表示されている人がいた。

 なんか大広間の扉って感じがするし、あの人が首領だろうか?

 とりあえず味方では無いにしても敵視されていない事に少し安堵して、扉をノックする。

「入れ」

 中から聞こえたのは艶やかな女性の声だった。

 扉を開けて入ると部屋の床には畳が敷いてあり、いかにも日本風の大広間といった感じになっていた。

 奥の方の一段高くなった場所に、座布団の上で胡座をかいた黒髪の女性が座っている。

 レイン程ではないが、やや大きめの胸を鎖帷子がギュッと締め付けているのが印象的だ。

 何故か、黒髪とアンバランスな程の黄金色に輝く瞳にどこか見覚えがある気がした。

「お前がヤクモか。話は聞いている、まぁそこに座れ」

「はい……」

 横柄ながらも威厳を感じさせる声音に思わず従ってしまう。

「まずは一言言わせてもらおう」

「はぁ」

「昨晩はお楽しみでしたね」

「何がだよ!?」

 思わず素でつっこんでしまった。

 何を言ってんのこの人?

「ハルナとの逢瀬は既に城内で噂になっているぞ。ハルナはこの国ではかなり人気があってな。男衆は皆、お前に向けた殺意をたぎらせておる」

「勘弁してくださいっ!ハルナには何もしてませんよ」

「っ!?貴様それでも男か!?」

「え~」

 マジで、何言ってんのこの人?

 ドン引きする俺を余所に、黒髪の女性は「いやそうか、ナニが立たないのか?それならば仕方無い」とか勝手な事をほざいている。

 ちゃんと立つわ!

 マッターホルンの如くそそり立つわ!

「あの~、そんな事より御用件は何でしょう?」

 首領だか何だか知らないが、俺は無駄な会話に付き合う気は無い。

 そこそこ美人だが、マリアさんやハルナを見た後では容姿に惹かれるという事も無いんでね。

「ああ、すまんな。ハルナは箱入りなせいか、色恋に疎いので少々気を揉んでいたんだ。お前の事は嬉しそうに話していたので、どうかと思ってな」

 へ~、ハルナが俺の事を嬉しそうにか。

 ちょっと顔がにやけてしまう。

「えっと、用件はそれですか?」

「いや違う」

「違うんかい!」

 しまった、また思わずつっこんでしまった。

 なんだこの人?ボケのタイミングに親近感を覚える。

 誰かと話している時もこんな感じだったような……?

「時に、兄上は元気かな?」

 へ?兄上?

 誰と勘違いしてるんだ?

「あの~、俺には妹は二人いますが、兄はいませんよ?」

「あぁ、違う違う。私の兄なんだが、君から見たら父に当たるな」

 え?

 今なんと?

「それじゃあ、あなたは俺の叔母さん?」

 その時、黒髪の女性のこめかみからブチッと何かが切れる音が聞こえた気がした。

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