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大魔導士

 呆然と立ち尽くすだけの俺にレーチェが何度も呼び掛けていた。

『ヤクモ~、勇者が勇者に連れてかれちゃったよ~?ねぇってば~』

 紅林雄人が勇者だった事による衝撃。

 イケメンに負けた事による落胆。

 少女が連れて行かれた事による焦燥。

 混乱する程の感情の波の中で動けないまま、どれ位時間が経っただろう?

 いや、実際は十分にも満たない時間だったと思う。

 俺を現実に引き戻したのは、ヒステリックな程の甲高い声だった。

「あんたユウトにとって邪魔みたいだから、消えてもらうよ」

 声の主、紅林雄人の仲間らしき緑のローブの少女が、先程の勇者が崩した瓦礫山の影から現れた。

 短く揃えられた金色の髪に、整った顔立ちの少女。

 その瞳には冷たい陰が宿っており、『危険予知』と『魔眼』で視ると相変わらず真っ赤な危険信号を表示している。

 まずいな、何もせずに去ってくれた事で油断していた。

 俺に追っ手を差し向けるなんて、余程後ろ暗い何かがあるのか?

 空間転移は切り札だから見せたくは無いけど、相手は達人級だから二人以上が相手なら使わざるを得ないな。

『レーチェ、この緑ローブ以外の奴は近くにいそうか?』

『たぶん、近くにはいないよ~』

『そうか。危険だからまだ出て来るなよ』

『わかった~』

 俺の『危険予知』にも反応は見られないから、目の前の緑ローブの少女だけのようだ。

 既に杖を構えて臨戦態勢の少女に俺は一応問う。

「邪魔ってどういう事?俺なんかしたかな?」

「さぁ?そんなの知らないけど、私はユウトの為にあんたを消すだけ」

 さも当然と言った様に俺を消すと言う少女の目に、微塵も迷いは無かった。

 盲信的な信者という感じでも無いのに、揺らがない絶対の信頼があるのか?

 あっさり消すとか言ってくれるけど、残念ながらこっちも簡単に消される訳には行かないんだよね。

 俺が距離を取ろうと一歩下がると、少女は高速で呪文を詠唱し両手を上に掲げた。

 少女の手から魔力が放出され、俺達の周りにドーム型のバリアの様なものが張られた。

「ふふん。賢者の石は無くても私レベルの魔導士になれば小規模ながら一瞬で結界を展開できるの。これでもう逃げられない」

 得意気に語る少女の姿は、俺には実に滑稽に見えた。

 何故なら、俺は元の世界を経由して転移すればバリアの外に出れてしまうから。

 同一空間内の転移を弾くバリアでも、別の亜空間を通る異世界転移の前では無意味。

 まぁ、逃げる必要も無い気がするけど。

 仮にも勇者パーティの一員だから油断は出来ないが、相手がこの魔導士一人だけなら、多分負けないと思う――お祖母ちゃんみたいに肉弾戦有りじゃなければ。

 少女は俺に向けて杖を構え、高速で呪文を詠唱し始めた。

 お祖母ちゃんは無詠唱で魔法使ってたから、ちょっと見劣りするんだよな。

 髪型とか容姿もそうだけど、お祖母ちゃんの劣化版みたいだ。

「この大魔導士アレアの『ファイアストーム』で灰になれ!」

 名前はアレアか。正直どうでもいい。

 少女の杖から、激しくうねる蛇の様な炎の竜巻が俺に向かって放たれた。

 少女――大魔導士アレアは口角を吊り上げほくそ笑む。

 そして……次の瞬間、アレアの眼は驚愕によって大きく見開かれた。

 俺が無詠唱で発動した『ファイアストーム』によって魔法が相殺されたからだ。

 ぶつかり合った魔法は、砕けるように辺りに飛び散った。

「な、なんなのあんた?なんで白髪が炎系の魔法なんて使えるの!?」

『え?使えると拙いの?』

『拙くは無いけど白髪は氷系が得意だから、威力が落ちる炎系の魔法覚える人なんて殆どいないよ~』

『ああ、そうなのか』

 確かに、若干俺の魔法の方が押されてたかも?

 驚いた顔で硬直しているアレアを余所に、レーチェに確認をして納得。

 言われてみれば苦手な魔法を態々覚える物好きなんてそうはいないか。

 気を取り直したアレアは再び得意気な顔で顎を少し上げ、余計な事を語り始める。

「まぁいいわ。白髪如きじゃ私程の威力は出せないでしょうからね。全属性の金髪を持つこの大魔導士アレアに魔法で勝てると思うの?」

 へぇ、金髪って全属性なのか、それは良い事聞いた。

 お祖母ちゃんが大魔導士と呼ばれるのも金髪の全属性という特性があるからなのか。

 あ、ヴェルデ君も金髪だったな……努力すればすごい大魔道士に成ったりして?

 じゃあ俺も金髪になっておくか。

 偽装を白髪から金髪に変えると、アレアは更に眼を見開く。

「なっ!?髪の色が変わった!?属性は、生まれ持った天性の物のはず……」

 この娘もの凄く便利だな、余計なことをベラベラ喋ってくれる。

 ひょっとして、頭弱い娘なのかな。

 魔導士って賢くないと出来ないんじゃないの?

 力を誇示したい系によく有る、どうせ勝てば口を封じれるとか思ってるやつかな?

 勇者パーティの一員で、他のメンバーも達人揃いだから今迄負けた事とか無いんだろうな。

 俺みたいなチート有りまくりの人間と出会ったのが運の尽きか。

「で、でもこの魔法はちゅかえないでしょう!」

 めっちゃ噛んだ!

 動揺しすぎだろ、大魔導士。

 アレアは再度高速詠唱で魔法を発動する。

 この高速詠唱って口は殆ど動いてないのに、声が重複して聞こえる。

 いったいどうやってんだろ?

「くらえ!『サンダーストーム』!!」

 今度は杖から雷が渦を巻いて俺に襲いかかる。

 もちろん、俺が無詠唱で同じ魔法を発動して相殺したので、砕ける様に散乱した。

「残念だったね、使えるよ」

「ば、ばかな……」

 驚きの余り、杖を落としそうになる程手が震えているアレア。

 予想通りだが、魔導士相手なら負ける気がしないな。

 実は『魔眼』と『危険予知』を同時発動していた御陰で、無敵の力が発動していた。

 『危険予知』で集中することにより、直近の未来に迫る危険を映像ビジョンとして見ることが出来る。

 これを魔導士相手に使うと未来に使用される魔法が視えるので、その魔法を『魔眼』にストック出来てしまうのだ。

 つまり、未来に発動されるはずの魔法をストックして無詠唱で発動できるから、必ず相殺できる。

 しかもストックされた魔法はMPを消費しない。

 更にさっき仕入れた情報だが、金髪になっていれば全属性なので全ての魔法を最強状態で使える。

 対魔導士に関しては最早無敵!


 それから小一時間程、焦りに我を忘れたアレアが我武者羅に魔法を打ち続けるのを、俺が相殺するという作業が続いた。

 『魔眼』に一度ストックした魔法は覚えてしまう事ができる為、おかげで沢山魔法を習得できてホクホクだった。

 逆にアレアは最早涙目で口元もワナワナと震えていた。

「そ、そんな……私は大魔導士なのにっ!ユウトの為にあいつを消さないといけないのにっ!」

 俺とそう年も変わらないだろう女の子を泣かせてしまった。

 ちょっと罪悪感が湧くけど、襲って来たのは向こうだしな。

 アレアが漸く戦意喪失したらしいところで、レーチェが慌てた声を上げる。

『ヤクモ、大変~!勇者が勇者を連れて行った所って、エッセル共和国みたい~!』

『え?それ、本当か!?』

『うん、マーキングの位置情報と、エッセル共和国に侵入してる仲間の連絡だから多分ホント~』

 どういう事だ?あいつ、保護する気なんて無かったって事か?

 これはかなり拙い事態だが、いずれにしてもあの勇者パーティから奪い取る事なんて不可能。

 魔導士一人相手なら無敵でも、他三人は明らかに肉弾戦主体の前衛だろうからな。

 俺がレーチェと通信している間に、アレアは展開していたバリアを解いて『舞空』の魔法を発動した。

 眩い光を放ち、高速で離脱を試みたアレアは、

「ぷぎゃっ!!」

 俺が展開したバリアにモロにぶつかって、きりもみ状に墜落し気を失った。

 俺がそんな便利な魔法をストックしてない訳が無いでしょ。

「さて、この女どうしてくれようか?げへへ」

『ヤクモ……、どう見てもそれ悪人だから~』

 おっと、いかんいかん。つい欲望が……。

 しかし、ホントにこれどうしよう?

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