捜索
「きゃああああ~!ヤクモ、早すぎる~!速度落として~!」
「いや、何で付いて来るんだよ?嫌なら帰れ」
「駄目だよ~!ラルちゃんにヤクモのお守りを任されてるんだから~!」
今、俺とレーチェは『舞空』魔法で空を高速移動している。
エッセル共和国の勇者が逃げ出したという事らしいので、今日は帰らずに異世界で捜索する事にしたのだ。
もっとも、魔大陸から出る為に一度元の世界に転移して、ついでに母さんには帰らない旨を伝えてある。
ルルがまだ雪女の様に吹雪を纏っていたので、身の危険を感じた俺は素早く異世界に戻ったけど。
エッセル共和国へは、スィフル王国――氷の女王リリィの国からが一番近いということで、まず俺は行った事のあるスィフル王国の時計塔に転移した。
城内で見つかると拙いので、確実に人が居ないであろう場所を選んだという訳だ。
その間ずっとレーチェは俺の頭の上でモゾモゾ動いてやがって、虫が這ってるみたいで気持ち悪いんだよ!
俺は時計塔の最上段にある部屋の窓から、『舞空』を無詠唱発動して飛び出す。
ホントに飛べるのか半信半疑だったけど、窓から出るとフワリと浮いたのでなんか楽しくなってくる。
そのまま空中をグルグルと回転してみて、思い通りに飛べる事を確認したら直ぐにエッセル共和国へ向かって高速で飛び出した。
空からスィフル王国を眺めて見ると、かなり標高が高い山の上だった事が分かった。
周りが雪の様に真っ白い雲で囲われていて、麓が見えない。
これだけ高いところにあったら寒いわけだ。
てか、空飛んでるとめっちゃ寒い!
エッセル共和国は、この国から魔大陸の方を向いて左手側。
この世界は魔大陸を中心に各国がぐるりと囲む地形になっているので、方角を見る時は魔大陸に対して右左というのが一番分かり易い。
各国の時差があまり無いような気がするが、地球みたいに丸い訳じゃないのかな?
異世界だから天動説?いや、天動説でも時差はあるはず。
日も大分傾いて来ているので余計な事を考えるのは止めにして、俺は『舞空』の最大出力で高速移動を開始した。
頭の上の羽虫妖精の絶叫を無視して――。
レーチェの話では、同族の妖精がエッセル共和国に潜り込んでいて情報を組織『ウル』に流しているとのことだ。
召喚された勇者は、魔導具を作るスキル『創造』を持っていたが、そのスキルの使い方すら知らない召喚直後に、無理矢理奴隷契約させられたらしい。
しかも逃げれない様に両足の腱を斬られて、牢の中で昼夜問わず魔導具制作を強要されていたとか。
いくら軍事国家でも、そこまでするって怖ぇな。
「そりゃ、逃げたくもなるわな」
一歩間違えば我が身に降りかかっていた災難だと思うと、少し背筋が寒くなる。
もっとも俺は最初の召喚で空間転移のスキルを得ていたから、何かされても逃げれたと思うけど。
いや、この考え方は危険だな。
お祖母ちゃんの時みたいにスキルを消される可能性もあるんだから、今後はその辺も考慮して動く事にしよう。
「組織の救出部隊が動いてたんだけど~、ひと足違いで間に合わなかったの~。今も探してると思うけど~、共和国の人間に見つかる訳にもいかないから大変みたい~」
確かに、そんな面倒な奴らに見つかると厄介だよな。
俺も敵対的行動を取る奴に容赦する気は無いけど、なるべくなら人間相手に闘いたくは無い。
この世界では口さえ動けば魔法で攻撃できてしまうので、意識を奪えなければ殺すしか無くなるし。
でも捜索してる共和国の人間と、かち合わない様に捜すのは大変だろう。
「どうやって捜そうかな。レーチェ、捜索の魔法とか無いのか?」
「マーキングしてあれば『位置情報』の魔法で大体の居場所が分かるけど~、牢に入ってる時は誰も近づけなかったみたいだし~、マーキングする間も無く逃げ出したらしいから無理~」
「そうなのか」
そんな話をしているうちに、既にスィフル王国とエッセル共和国の国境付近まで来ていた。
さすがにもう山の麓まで降りているので、雪も無く春の陽気程度にそこそこ暖かい。
さて、どうしたものかと考える。
俺の魔法で捜索に使えそうな物は無いから、スキルで何とかしてみよう。
まだ完全にスキルの全てを理解した訳では無いので、何か隠れた使い方があるかも知れないしな。
一番使えそうなのは、やっぱり『魔眼』で魔力を視る事か。
広範囲でも生物の纏う魔力は、一つの塊として遠目でもハッキリと見える。
空を飛んで眼下を一望に出来るようになった御陰で、かなり有用になった。
しかしこれでは敵味方の区別が出来ないので、迂闊に近付けば共和国の人間と出くわしかねない。
勇者だから魔力が大きい人間を捜せばいいだろうか?
否、勇者じゃなくても達人級の魔力の持ち主が捜索に出ている可能性もある。
と、ある事に気付いた――『魔眼』と『危険予知』のスキルって似ているな。
視える物こそ違うけど、どちらも見えない物を映像化して感じる事が出来る。
同時に発動させたらどうなるんだろう?
初めに『魔眼』を発動させて、人が纏う魔力を認識する。
その状態を維持しつつ、『危険予知』を発動してみた。
「おおっ、これ便利かも」
魔力の塊が色を帯びて何色かに分かれた。
おそらく、相手の俺に対する危険度によって危険を表す赤から段階的にオレンジ、黄色、黄緑、一番安全な緑へと変わっているようだ。
つまり緑で大きめの魔力を捜せば、逃げ出した勇者である可能性が高い。
確実な方法では無いけど少しは絞れるし、緑の人は俺に対する敵意が少ないはずだから安全だろう。
一応誰かに視られても隣の国の住人だと思わせるために、定番となった白髪に偽装する。
白髪でもよく絡まれるんだけどね。
もう日が落ち始めてるので、スキルを全開にして急いで捜索しなければ。
『舞空』の魔法は体の周りが輝いてしまうから夜は目立って飛べないのだ。
草食動物等の魔力も見えてしまうので、なるべく人間っぽい魔力の塊を視ていくと、やたらと赤とオレンジばかりである事に気付く。
この国の人間って危険人物ばかりなのかよ?
ってか、組織の人間も捜索してる筈なのに緑いないってどういう事よ?
そんな中、一つだけ黄色い魔力の塊を見つける。
緑では無い事が少し気になるが、他のに比べれば大分マシだから、これが多分逃げ出した勇者だろう。
「見つけたぞ」
「え!?ヤクモ、すご~い!」
直接そこに降りると目立つので、周りの人達に悟られないように少し離れた所に着地する。
『舞空』を解除すると体の周りの輝きも消えた。
歩いて移動しても良かったが足音で誰かに気付かれるのは拙いので、見える範囲に空間転移を繰り返して進んでみる。
5回程転移した先で、寂れた廃村のような場所に出た。
いくつかある建物は屋根も無く、ボロボロになった土の壁が重なり合っているだけだ。
魔物の群れに襲われたかの様な破壊の跡まであるが、あれをやったのが20年前の母さんじゃないと信じたい。
俺は魔力の塊が隠れているところへ向かった。
四方を壁に囲まれた小さな小屋の窓を覗くと、暗い闇の様な黒髪黒眼の少女が一人蹲っていた。
漂う疲労感と、両足に付けられた金属の添え木のような物でこの娘だと確信する。
どう声を掛けたものかと迷っていると、ふとその少女と視線が交わる。
「あ、怪しい者じゃないよ。君を助けようと思って来たんだ。君は勇者かい?」
なるべく敵意が無い事を伝えるつもりで話しかけたが、魔力の色が黄色から沈みゆく夕日よりも濃い赤へと変色した。




