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妖精さん

 雲の中の様などこまでも白で埋め尽くされた空間で、俺の目の前を羽虫のように妖精フェアリーが飛び回る。

「あなたがヤクモだよね~。聞いてた通り、世界でも希なブサイクさだね~」

 なんなんだこの失礼な妖精は、捕まえて羽根毟ってやろうか?

 俺は怒りに任せて思い切り睨む。

「ちょっと~、命の恩人に対してその態度は無いんじゃない~?」

 爪楊枝のように細い腕を腰に当てて、妖精はピンク色の頬を膨らませた。

 状況が良く分からないが、どうやらこの妖精が助けてくれたらしい。

「ああ、ごめん。君が助けてくれたのか?」

「そうだよ~。刺されたとこも回復魔法で治してあげたんだからね~」

「そうだったのか、ありがとう。ところで君、何なの?」

 俺が問うと、空中で一回転トンボ返りする妖精。

 その動作いる?

「私はレーチェ。組織『ウル』のメンバーだよ~。主に諜報活動やってま~す」

 なるほど組織のメンバーだから、俺を助けてくれた訳ね。

 初対面の俺を組織のメンバーであると見抜いた理由は解せぬが。

 それにしてもこの組織って、黒豹やらピンクおっぱい忍者やら妖精やら、色んな種族が入り乱れすぎてて珍獣博物館だな。

 いや、そんな事より今は現状把握に努めよう。

「なぁ、この空間って何処なんだ?どこかに転移したのか?」

「これは周囲から別空間に隔離する魔法だよ~。だから位置は動いてないの~」

 なるほど、空間転移より空間収納に近い魔法で、人間を丸ごと収納したみたいなもんか。

「余程の達人でも無い限り、この空間内に干渉出来ないから安全なんだよ~」

 おい、何ばっちりフラグ立ててくれてんだよ。

 あの護衛の人、かなりの達人だからね。

 そう思った瞬間『危険予知』のスキルが発動して、剣の切っ先が空間を裂くビジョンが見えた。

 俺は考えるより早く、虫の様に飛び回る妖精を掴んで空間転移を発動した。


 俺はスカルラットの気配察知から逃れる為に、街の外のゴブリンがいた森まで転移した。

 別空間の気配まで読める相手の様なので、なるべく距離を取りたかったからだ。

 転移した後の事は分からないが、きっとあの空間は綺麗にスライスされてしまっただろう。

 しかし俺って運悪過ぎだよな、軽い気持ちで闘って達人に当たるとか。

 今回は特にヤバい奴だったし、次からは慎重に行こう。

 冷や汗をかく俺の手の中から逃れようと、妖精がジタバタともがいていた。

「急に何するんだよ~?」

「バカ、お前あそこにいたら真っ二つだったぞ」

「え~、そうなの~?」

「まぁ、これで助けてもらった分はチャラな」

「はや!借り返すのはや!ヤクモ、ずるい~」

「回復魔法で治してもらった分を貸しにしといてくれていいから」

「え、そう?じゃあ許す~」

 妖精ちょろいな。

 間延びした喋りから、きっと頭軽いんだろうと思ってたが、これは予想以上かもしれん。

 体のサイズに合わせて脳も小さいのか?

 もっとも、脳の大きさと頭の良さは比例しないらしいけど。

「ヤクモ、失礼な事考えてるでしょ~?」

 妖精にまで考えを読まれるとは、俺ってかなり顔に出やすいのか?注意せねば。


 そういえばと、俺は妖精と余計なやり取りをしている場合じゃない事を思い出す。

「あっ、マリアさんを助けに行かないと!」

「マリアちゃんなら大丈夫だよ~。さっきの空間魔法でマリアちゃんの姿消したら金髪男が諦めたみたいだから~」

 ああ、それでヴェルデ君が教会から出て来て俺に八つ当たりの魔法をぶつけたのか。

 いつの間にかそっちも何とかしてくれてたとは、便利だな妖精さん。

「そうか、マリアさんが無事なら良かった」

 ヴェルデ君は今度会った時に締めるとして、じゃあ後は報告して馬車を借りたら帰ろう。

「俺ラルド達に色々報告しに来たんだけど、何処にいるか知らないか?」

 この妖精も組織の一員らしいからちょっと聞いてみる。

「ラルちゃんなら、もうこの国には居ないよ~」

「え?マジで?」

「イスナーニ公国の第一王女が、勇者召喚が失敗した責任を取って魔大陸に攻め込む事になったから、それを止めるために馬車で行っちゃったよ~」

 はい、ツッコミどころ満載の説明ありがとう。


 勇者召喚失敗したって、絶対俺に関係あるじゃねーか。

 俺がまだ関わっていない残った一人、二番目に召喚されたとこの栗色ショートで笑顔が凍り付いてた娘だろう。

 召喚失敗の責任を取らされるって聞くと、なんか罪悪感涌くな。

 いや、ルルやミーシャと違ってあの娘は俺がブサイクだから返還クーリング・オフしたっぽいし、助ける義理は無いか。

 それより魔大陸に攻め込むって、あのお祖母ちゃんに勝てる見込みあるのかな?

 各国に達人がいるとしても、魔力を消されたらその他大勢は魔族になぶり殺しにされそうだけど。

 そもそも組織が動いたぐらいで止めれるもんなのか?

 とりあえず、俺が今考えなきゃいけない事は移動手段が一つ無くなった事だ。

「馬車が借りれないのは困った」

 空間転移程じゃなくても高速で移動できる手段が欲しいよな。

 地上は目立つから空を飛ぶのが理想だけど……そうだ、あれが出来れば!

 俺は空間転移を発動した。


 転移した場所は、元の世界の自宅の玄関――でもここは経由に使うだけで、直ぐにもう一度転移して、魔大陸のさっきお祖母ちゃんと闘った場所に出た。

 周りを闇深い森林に囲まれた、小さな牧草地の様な僅かに開けた草原。

 いるかな~?と思ったら、案の定まだお祖母ちゃんは漫画を夢中になって読んでいた。

 辺りを見渡すが、エスターテの姿は無かった。

 放置しておいたレッドドラゴンの姿も無いが、そっちはどうでもいいや。

「え~?ここ、魔大陸~?」

 ん?何か余計なのが着いて来ちゃったか。

 俺の頭の上で虫みたいなのがもぞもぞ動いてるのを感じた。

 いつのまに取り憑いたんだよ、この妖精は?

 まぁ、今はほっとこう。

 俺は本に夢中で此方をチラリとも見ないお祖母ちゃんに話しかける。

「あの、お祖母ちゃん。集中してるとこ悪いんだけど……」

 その俺の言葉に、お祖母ちゃんは幽鬼の如くゆらりと首を上げ、俺の方を睨む。

「おばあちゃん……だと!?」

 美しい白い肌のこめかみで、青い筋がミミズの様にピクピクと動いていた。

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