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一時帰宅

 俺達は魔大陸から出るために門の近くへ転移した。

 だが、森の木の陰から門の様子を覗うと、門の付近に冒険者達が屯していたために近付く事が出来なかった。

「レッドドラゴンが居なくなったから、帰ったと思ってたのに」

「どうするの、お兄ちゃん?今からドラゴン連れてくる?」

「人いっぱいいるし、紛れ込めばいいんじゃない?」

「いや、お前ら冒険者ギルドの前で暴れてたから面が割れてるだろ。ドラゴンは魔力切れで、あの人数相手だと負けるかも知れないし。下手な事して絡まれたくないから、一旦家に戻ろう」

「「え?バリアあるのに家に戻れるの?」」

 鳩が豆鉄砲食らったような顔で驚く妹達。

「ああ、異世界間航行は通ってる空間が違う感じがするから、多分戻れる」

「それって、お祖母ちゃんが作ってるバリアもお兄ちゃんの前じゃ無効ってことじゃん」

「さすが、お兄ちゃん。さすおにだね」

 さすおにって何だよ?何でも略せば良いってもんじゃないぞ。

 妹達が俺の両腕に掴まったところで、俺は空間転移を発動した。


 予想通り、元の世界への転移は別空間を通っているようで、バリアの影響を受けずに自宅に戻ってきた。

 森の中から、一転現代風の造りの我が家へ。

 玄関で靴を脱いでいると、リビングからルルとミーシャが小走りに出て来て俺達を迎えてくれた。

「お帰りなさい」

「おかえり~」

「「「ただいま」」」

 少し遅れて母さんも顔を出す。

「あら、もう帰ってきたの?思ったより早かったわね」

「いや色々あって、早く戻る事は出来たんだけど……詳しくは中で話すよ」

 そう言って、俺達は全員リビングに向かった。


 リビングに入り、母さんがお茶とお茶菓子としてケーキを用意すると、ルルとミーシャは目を星にして爛々と輝かせていた。

 子供は甘いもの大好きだな。

 報告は残念な内容なので、ルルとミーシャがケーキを食べ終わるのを待ってから話すことにしよう。


「――と言う訳で、残念ながら『賢者の石』は手に入らなかった。でも、それに代わる魔導具を入手するための情報は得たんだ。明日はそっちに向かってみるよ」

 ケーキの余韻に浸っていたルルも、今は真剣に聞いている。

 ミーシャはちょっと眠そうだ。お昼寝の時間か?

「ありがとうございます、ヤクモ様。でも、無理はなさらないでくださいね」

「大丈夫だ。スキルの使い方も大体覚えたし、何とかするよ」

「はい」

 ルルの頭を撫でて、早く何とかしてやろうと決意を新たにする。

 その横で母さんが妹達と話をしていた。

「さっき美紀から電話が来て、美紅と美緒に来て欲しいって言ってたわよ」

「ええ~、師匠から呼び出し?」

「それじゃ明日、異世界に行けないね」

 がっくりと項垂れる妹達。

 ちなみに美紀というのは俺達の叔母さんで、合気道の道場で俺達に指導してくれていた。

 俺は小学生で止めてしまったけど、妹達は今でも手解きを受けている。

 美紅と美緒は師匠と呼んでるけど、道場に通う子供達は美紀ティーチャーを略して「ミキティ」と呼んでいる。

 だから何でも略すなって。

「じゃあ明日は俺一人で行ってくるよ。行った事無い場所だから移動に時間かかるだろうし、一人の方が動きやすいからな」

「師匠の呼び出しじゃしょうが無いから、明日は諦める」

「そうだね。でも明後日は付いてくからね」

「分かった分かった」

 かなり不満な様で、河豚の様に頬を膨らませる妹達。

 不満を俺にぶつけられても困るんだが。

「とりあえず俺はラルドに報告に行ってくるよ。明日の移動のために馬車も借りないとだからな。お前らは付いて来なくてもいいぞ」

「……お兄ちゃん、報告とか言ってハルナちゃんに会いに行くんでしょ」

「な、な、なんの事かな?」

 なんでそこでハルナの名前が出て来るんだ?

 そりゃ、教会に行くから会えるかな~?ってちょっと思ってたけど。

「ハルナって誰ですか?」

 何故かルルが恐怖を感じさせる様な冷ややかな笑顔で聞いてきた。

 ルルの辺りから冷気も感じるけど、気のせいか?

 いや、さっきまで眠そうにしてたミーシャが寒さで震えながら覚醒してるし、絶対気のせいじゃない。

 さすが氷の女王の娘。

 でも、何故このタイミングで氷系魔法使ってるの?

「いや、今日行ってた国で知り合った女の子なんだけど。色々あって多少親しくはなったかな?」

「へぇ~、そうですか」

 口元だけニッコリと微笑んだルルの目は全く笑って居なかった。

 さっきより気温が下がった気がするけど、雨でも降るのかな?

「私と友達になるって言ったのに他の女と……私と友達になるって言ったのに他の女と……」

 ルルさんが何かブツブツ呟き始めた……なんか怖い。

 まさかルルってヤン――いや、そんなはず無いよね。

 危険予知のスキルは発動していないが、俺の中の何かがここに居てはいけないと言っている。

「じゃ、じゃあ俺ちょっと行ってくるわ」

 俺は急ぎ玄関へ走り靴を履くと、即座に空間転移を発動した。


 逃げる様に一人で異世界に転移した俺は、マリアさんの教会の裏手に出る。

 教会の前だと人通りがあるかも知れないから、人が居ないであろう場所に転移したのだ。

 案の定、日が高いにも関わらず人の影は無い。

 時間的にまだラルド達はここに着いていないだろうから、一先ずマリアさんに話しに行くか。

 俺は教会の脇の路地から正面の入口を目指す。

「念のため偽装で白髪にしておこう」

 この国では指名手配されてる白髪だけど、マリアさんやハルナに迷惑を掛けないためには逆にこの方がいい。

 疑われたら俺に脅された事に出来るからね。

 教会の入口へ向かうと、中から何か言い争う様な声が聞こえた。

 一人はマリアさんだが、もう一人は男の声だ。

 思ったより早くラルドが着いたのかな?と思い、扉を開けて見ると、そこに居たのはラルド達では無かった。

 マリアさんの近くに長めの金髪に豪華な装飾の服を着た男がいて、こちらを振り向く。

 次いで二人からやや離れた所に立っていた、黒い甲冑を着て頬に傷のある初老の男が目だけで此方を確認した。

「き、貴様は……!」

 金髪の男の方が俺に向かって何か言っている。

 というか、この金髪と少しくすんだ金色の眼――どこかで見た事あるよな?

 あぁ思い出した、こいつヴェルデ君か。

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