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魔族

 俺達が戦闘態勢に入ると、前方の集団から鎧を纏った一際青い魔族が前に出てきた。

 他の連中が装備している鎧よりも豪華な装飾が施された重厚な鎧。

 背中にはコウモリのような翼、瞳はアメジストのような不気味な紫色。

 一人だけ前に出てきたってことは、隊長とか司令官なのか?

 その魔族は右手を振り上げ、高らかに叫ぶ。

「魔法部隊前へ!」

 声に従って、30人程の褐色のローブを纏った四つ目の魔族達がゾロゾロと前に出て来た。

 迂闊だった、こっちだけが魔法を使えるとは限らないんだ!

 俺は急いで偽装を解いて黒髪に戻り、『ダーク・アンチスペル』の準備をした――が、魔法が来る気配は全く無く、魔族達はお経を読むようにチンタラと呪文を詠唱していた。

 ファンタジー小説なんかだと、魔族は魔力との親和性が高いから無詠唱で魔法使えたりするのに、現実だとこんなもんか。

 向こうの詠唱が終わるのを待ってやる義理もないし、おあつらえ向きに魔法を使う厄介な奴らが前に出てくれてる。

「美紅、美緒。あれ、なぎ払え」

「「ラジャー!」」

 美紅と美緒が無詠唱で炎の塊を、魔法使い系の魔族に向かって大量に放った。

「「「「「「ぎゃああああっ!!」」」」」」

 悲鳴と共にローブの魔族達がポップコーンが弾ける様に吹き飛び、それが開戦の狼煙となって他の魔族達が攻めてきた。

「ドラゴン、ブレスの溜めにどれくらい時間がかかる?」

『約3分程です、ご主人様』

 3分程度ならなんとか持ちこたえられるか。

 正面を美紅と美緒に任せて、俺は後方へ回りつつファイアーボールを連射して牽制するが、鎧が強固な奴や筋肉ムキムキな奴は無理矢理突っ込んでくるので、近くまで来た敵から順に合気道でいなしていく。

 魔族の体は大小の違いはあれど構造が人体と同じようで、関節を有らぬ方に捻ると抗えずに痛みを覚えない方に体を向ける。

 そこへ軽く力を込めてやれば、ほうら30mも吹き飛んだ……いや、チートステータスと身体強化で投げてるから、最早合気道とは言えないな。

 完全にグーで殴ってる妹達は論外だ。

 まぁ、今は技とかに拘ってる場合じゃ無いんで、妹達の判断は間違って無いんだけど。

 というわけで俺もちょっと強めに力を込めて魔族に腹パンを決めていくと、ゴブリンのように腹部がはじけ飛ぶことは無いが、簡単に意識を刈り取ることが出来た。

 ゴリラの様な頑強そうな魔族も問題無く倒せるので、ドラゴンの溜めが完了するまで何とか持ちそうだ。

 そう思って妹達の方を見ると、何故か不自然な程苦戦していた。

 俺でも倒せる程度なのに、何で?

「美紅、美緒!大丈夫か?」

「う~ん、なんか身体強化がうまく使えなくて、いつも通りに動けない」

「そうだね、逆に体が重い感じがする。魔力と気って似てるようで違うね」

 苦戦してるとは言っても結構余裕そうだし、問題ないか?と思ったところで、

「やっぱりダメだ。あれやろう、美緒!」

「了解、美紅!」

 二人がそれぞれ離れて闘っていたのに、急に近付いて背中合わせになる。

 そのまま各々逆方向に構え、呼吸を合わせるように一息吐き出す。

 それと同時に、二人の体からあふれ出た魔力が互いに同調するかのように交わり、それが大きく膨れ上がった。

「「双牙乱舞!!」」

 叫び声と同時に駆けだした二人は、密集する魔族の群れに突っ込んで行った。

 背中に鬣のある狼のような顔をした魔族を美紅が投げ飛ばすと、それに合わせるように美緒が別の魔族の体制を崩してぶつける。

 直後に美緒が次の魔族の拳を躱すと、美紅が他の魔族の腕を引き誘導して同士討ちにする。

 二人とも背中に目があるのかと思う程周りの状況を把握しており、二人の呼吸もピタリと合っている。

 妹達は俺の考えを易々と読む程洞察力に優れているが、これはそんな領域を遙かに越えていた。

 闘うというより舞っているかのように完全にシンクロした二人が、二つの牙となって魔族達を次々に蹂躙していった。


「やっぱ凄えなあいつら。全然心配する必要無かったわ」

 そういえば妹達が小学校六年生になった頃、近所のいじめっ子集団30人を纏めてボコボコにした事件があったな。

 それ以来『二騎当千』とか言われてたっけ。

 さらに一年後、結構モテる妹達は族の総長に求愛されるという事があった。

 かなり大きな族で総勢数千とも言われていたが、迷惑だという理由だけで何者かに壊滅させられたらしい。

 その後、何故か妹達の二つ名が『二騎当万』に格上げされたとか……、何かの偶然だよな?

 そもそも『二騎当万』って何だよ、語呂悪すぎだろ。


 もう妹達だけで全て倒してしまいそうだと思った処で、

『ご主人様、充填完了しました』

 ドラゴンの口の中で魔力が轟々と渦巻いていた。

「よし、美紅!美緒!つかまれ!」

「「うん!」」

 美紅と美緒が走って来て俺に掴まったのを確認し、ドラゴンごと今迄闘っていた所から少し離れた場所に転移した。

「放て!」

 俺の号令と共にレッドドラゴンのブレスが、丁度いい具合に一個所に集まってしまっていた魔族達に降り注がれた。

「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」

 魔族達は顔色がさらに青くなる間も無く、黒焦げになって全滅した。


 残ったのは、一人離れていた翼の生えた魔族。

「な、何だ今のは!?一瞬で移動しただと!?」

 驚愕しながら目を見開く魔族だったが、直ぐに気持ちを切り替えたようでこちらに向かって構えをとる。

 こいつだけは他の連中とは格が違う様で、纏っている魔力の量が段違いだ。

 やはり隊長クラスなのか?

『ご主人様、申し訳ありません。今のブレスで魔力が尽きてしまいました。』

 ドラゴンは、さっきの俺達との戦闘でかなり魔力を消耗していたようだ。

「しょうが無い。ドラゴン、お前は休んでていい」

 あの魔族の奴結構強そうだけど、俺と妹達だけで何とかするしか無いか。

 そう思った矢先に、

「「お兄ちゃん」」

 美紅と美緒が真剣な顔で俺を呼んだ。

「どうした?」

「「疲れたから、ちょっと一人で闘って」」


 俺の遠い目には、白い雲の流れが映り込んでいた。

 魔大陸の空も青いんだなぁ……。

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