魔法の練習
妹達が言うには、スリーサイズや体重を見られたくないとのこと。
妹の体重なんて興味無いし、スリーサイズを知る迄もなく残念だと分かるのに、何故隠そうとするんだ?
お前らが平たい胸族である事は周知の事実だろ。
おい二人共、なんで俺の頬をつねってるんだ?痛えよ!
妹達の異常な洞察力はさておき、昼飯を食べ終えた俺達は魔法を練習することにした。
「え~と、ホントは呪文みたいなのを詠唱するらしいんだけど、俺は出来ません」
「え?じゃあ、お兄ちゃんどうやってるの?」
「俺は誰かが使った魔法を魔眼にストックすると、そのまま無詠唱で使えるようになるんだよ。だから呪文詠唱とか知らんの」
「チートじゃん!ずるいっ!」
いや、お前らの方がよっぽどチートだろ。
百歩神拳とか、多分こっちの世界の人達でも使えないからね。
「俺の事は一先ず置いとけ。魔法を使うのに必要なのは体内で魔力を練ることと、練った魔力を元素等に干渉させて物理現象に転化させる事だ」
俺は掌の上で魔力を練って、それを炎の玉に転化させながら説明した。
しかし、美紅も美緒もアホみたいに口をぽかんと開けたまま、よく分からないといった顔をしている。
「取りあえず、魔力を体内で練ってみろ。それは寧ろ俺より得意だろ?」
「「うん、やってみる」」
美紅は右手に、美緒は左手に魔力を集中させる。
魔眼で見ると魔力が小さな台風の様にもの凄い勢いで渦巻いていた。
いきなり出来るって、やっぱお前らの方がチート過ぎるわ!
「じゃあ、その練った魔力を現象に転化させてみろ。炎を生み出すには、原子の動きを加速させるんだ」
ここで妹達はつまづいた。
物理の知識が乏しいから原子の存在をイメージ出来ないんだな。
「う~ん、出来ない~」
「だめ~、どうやるの~?」
魔力は異常な程大きくなってるのに、全く転化出来ていない。
どう説明すればいいんだろう?
俺は成績悪い訳じゃ無いけど、普通の高校生だから詳しくは分からないぞ。
「確か、原子の運動量が熱量と関わりがあって……」
「お兄ちゃんの言ってる事よく分かんないっ!もっと感覚的に言ってくれないと。何かの映画で『考えるな、感じろ!』ってラーさんが言ってたし」
いや、それどこの太陽神だよ。
「違うよ美紅。映画に出てたのってレーさんだよ」
美緒、それ何のホラー映画だよ。映ってたの?怖いわ!
「まったくお前ら脳みそまで筋肉だな。もっと脂肪も付けないとな、特に胸のあたりに」
突然、美紅と美緒の周りに冷気が漂い、ショートカットの黒髪が天に向かって逆立つ。
そして、二人が掌に練っていた魔力が巨大な炎の玉に転化されていた。
炎の玉を作っているのに冷気が漂ってるのは原因不明だが、とりあえず二人とも魔法を使えたじゃないか。
……でも、それを兄に向けるのは止めようね。
「「いっけええぇぇぇぇ!!」」
「いっけええぇぇぇぇ!!じゃねぇっ!!」
俺に向かって放たれた二つの炎の塊を、すんでの所で空間転移で躱した。
殺す気か!?
美紅と美緒が放った炎の塊は俺が居た場所を通過して、奥の森に入ったところで弾けて大爆発する。
「「「「「ぐぎゃあああああああっ!!」」」」」
何故か大量の悲鳴と共に、青い肌をした人型の何か達が宙を舞っていた。
「ちっ、外したか」
「残念」
いや、当たってるからね、向こうの人達(?)に。
お前ら、マジで俺に向けて放ちやがったな。
っていうか今はそれより、
「何だ、あれ?」
「お兄ちゃん、敵だよ。あいつらこっちに向かって殺気放ってた」
「お兄ちゃん、囲まれてるの気付かなかった?」
俺の疑問に、いつの間にか戦闘の構えをとっている妹達が応える。
ん?ちょっと待てよ。
「囲まれてたんなら、態々俺の方狙って打たなくても良いだろが!」
「「てへ」」
「いや、可愛くないから」
それにしても、何故俺の危険予知のスキルは反応し無かったんだ?
囲んでいただけで攻撃する意志が無かったとか?
いや、妹達が敵と認識してるって事は攻撃的な気を発してるって事だよな。
いまいちこのスキルだけ使えない感じがする。
吹き飛んだ青い何か達は鎧のような物を着て頭には角が生えている。
体格、腕や足の長さは人の様だが、鱗や毛皮が体の各所に生えていて、とても人間とは思えない。
ひょっとして、これが魔族か?
そう思っていると、森林の木の陰から同様に青い魔族らしき輩がゾロゾロと出てきた。
総勢数百人――いや、数百匹?に一気に囲まれてしまった。
「おい、ドラゴン」
『何でしょうか、ご主人様。もう放置プレイのご褒美はお終いですか?』
このまま放置して捨てて行こうかな?
「アレって、魔族か?」
『はい。大魔導士様直属の第二親衛隊の魔族だと思います』
へぇ~、お祖母ちゃんの直属の……って、
「やべえぇぇ!!お祖母ちゃんの部下に攻撃しちゃってるぅ!」
「お祖母ちゃんの部下だったんだ」
「じゃあ、お祖母ちゃんとも闘わないとね」
おいこら、何でお前らワクワクしてんの?
「まさかと思うが、わざとじゃないよな?」
「「何のこと?」」
二人共、目を逸らすな!
しかし、いくら何でも数が違い過ぎるな。
いきなりこんなに大量にエンカウントするとは、さすがに魔大陸を舐めてたかも知れない。
全身フルプレートの奴とか禍々しい剣を持ってる奴とか、巨大な戦斧を持った2m以上ある筋肉の塊みたいな奴までいるし。
こちらにドラゴンがいるためか、今はまだ警戒してるようで一定の距離を保ったままだ。
闘うとしたら、俺達の無詠唱魔法で時間を稼ぎつつ最後はドラゴンのブレスで一掃するのが順当かもな。
「お兄ちゃん、闘うんでしょ?」
「お兄ちゃん、もう攻撃していい?」
「既に攻撃しちゃってるし、やっちまうか」
「「うん!」」
美紅と美緒が魔力を練って、煌々と燃え上がる炎の塊を作り始めた。




