従魔の主
とりあえず、『従魔の契約』が切れると困るので、ドラゴンの角を治してリングが外れないようにしとくか。
「美紅、美緒。その折れた角貸しなさい。治すから」
「「え~、せっかくのドロップアイテムなのに~」」
いや、ドロップしたんじゃなくて、もぎ取ったんだろ。
「ドラゴンの角ならかなり優秀な武器を作成できるぞ?」
ラルド、妹達を甘やかすなよ。
まぁ優秀な武器は欲しいとこだけど、また今度でいいや。
妹達から渋々渡された角をドラゴンの切り株のように残っていた角に付けて、回復魔法を使う。
予想通り角は骨と同じらしく、回復魔法で治った。
本来骨折なんて完全に治るまで数ヶ月かかるのに、魔法ってすげえな。
『治療して、また折るんですね。ありがとうございます。ハァハァ』
ドラゴンの余計な言動は無視する事にしました。
精神衛生上と妹達の教育上良くないのでね。
角の先が二股になっているので、これで自然にリングが外れることは無いだろう。
前の主も多分この方法で『従魔の契約』のリングが外れない様にしたんだろうな。
うちの妹みたいに、無意味に反対側を折ったりはしなかったと思うけど。
一先ずこれで俺の従魔となった訳だが、何故こんな性格になってしまったのやら。
「従魔は主に似ると言われてるけど、どんな性格になったのだ?」
レインが何か言ってるが、俺には聞こえない。聞こえないったら聞こえない。
俺はレッドドラゴンに向き直り、再度質問する。
「さて、それじゃあ改めて。お前が言ってた『あるお方』ってのは誰だ?」
『魔王様のお后様である『大魔導士ノヴァ』様です』
従魔になった途端、簡単に吐きやがった。
なるほど、お祖母ちゃんがドラゴンの元主だったのか。
大魔導士――母さんが闘うなって言ったぐらいだから、相当強いんだろうな。
この異常に耐久力のあるレッドドラゴンを従えるなら、少なくとも俺達と互角程度には強いんだろう。
と思っていたら、
『ノヴァ様は勇者を警戒して、各国から魔大陸に入る全ての門に従魔を配備しました』
なんてドラゴンが言い出した。
各国って、確か大きな国は七カ国有るって聞いたような気がするぞ。
つまり、このレッドドラゴン級の従魔をあと6匹も従えてるのか?
お祖母ちゃんすげえ!
「ヤクモ、何と言ってるんだ?」
あぁそうか、ラルドとレインは龍語が分からないんだった。
俺とドラゴンが話すのを怪訝な顔で見ていたラルド達に通訳する。
「このドラゴンの元の主は、魔王の后である『大魔導士ノヴァ』らしい。そのノヴァが勇者を警戒して、レッドドラゴン以外にも各国の魔大陸に入るための門に従魔を配備したということだ」
「何っ、ここ以外にも従魔が!?」
色々知ってるラルドも知らない情報だったか。
まぁ、この世界に携帯とか無いだろうし、遠距離じゃあ『通話』の魔法も使えないからね。
「通信魔導具の魔力が切れていなければ」
ラルドが腰に付けた道具袋のような物から、小型の通信機を取り出した。
携帯有るんかい!
しかも電池切れ――もとい、魔力切れとは。
通信機が一昔前の女子高生並にデコってあって、ちょっと引いた。
それにしても空飛ぶ馬車とか遠距離通信機とか、意外と科学力進んでるな異世界。
というか、航空力学無視した作りで空飛べるって、元の世界より凄くね?
「ラルド、その通信魔導具って俺にも用意してもらえないか?」
「これぐらいなら大丈夫だと思うが。何故だ?」
「いや、訳あって常に行動を共に出来る訳じゃないんだ。俺も妹達もこの世界に来れるのは、精々週に2日程度だからな。来た時に連絡する手段が欲しい」
俺の要求にラルドは二つ返事で頷く。
「分かった。お前達の事だから我々が計り知れない事情があるのだろう。直ぐには用意出来ないので、マリアに預けておく。2~3日後以降に教会に取りに来てくれ」
計り知れない事情って、只学校が有るだけだけどな。
「ありがとう。じゃあ多分来週になると思うけど、教会に顔出すよ」
通信魔導具が用意してもらえる事になったので、次に気になっていた事をラルドに聞いてみる。
「随分と魔王側も勇者を警戒してる様だけど、やっぱり勇者って魔王を倒すもんなのか?」
我ながら変な質問だと思うが、昨今のラノベでは魔王と勇者が恋愛するような話もあるからな。
それに、マリアさんが「国の戦力増強のために召喚」とか言ってた気もするし。
異世界の常識を自分の杓子定規で量ってはいかんよね。
「そんな事は無いと思うぞ。20年程前に召喚された勇者は一国を滅ぼし、魔王以上の脅威とされて恐れられたと言うからな」
母さんェ……。
魔王より恐れられてたって、俺がその勇者の息子とか絶対にバレない様にしないとな。
「「へぇ~、お母さん凄い」」
「あっ……!」
「お母さん!?ヤクモ、まさかお前達の母親が……!?」
言ってる側からバレてーらーorz。
「オ、オフレコでお願いします……」
「あ、あぁ……」
ラルドの顔が、黒豹の黒い毛皮に包まれてるのに真っ青になっているのが分かった。
その横でレインが腹を抱えながら転げ回って笑っていた。
「あははははっ!ヤクモ、面白い!こんなに面白いんだったら、返還しなくてもよかったかも!あはははははは!」
何がそんなにツボったんだよ?
俺がレインの感性を理解できる日は来るのだろうか?
俺達の後ろでレッドドラゴンが赤い頬を桜色に染めて、
『放置プレイですね!ありがとうございます、ご主人様!』
何かほざいていたが、俺は一切取り合わなかった。




