二度あることは五度ある
部屋で本を読んでいたら、また目の前が真っ白になった。
通算三回目の召喚……。
今回は、なにやら薄暗い場所に召喚された。
神殿みたいな作りだから、前の二回と同じような場所だとは思うけど。
そして、例によって俺の目の前には美少女……ではなく、妙齢の美女。
黒髪黒目で日本人に近い容姿だが、目鼻立ちの整った顔は西洋人っぽい。
それ以上に目を引くのが、露出度の多い服!
胸元がぱっくり開いてて、二つのスイカが大変なことになってますよ!
さて、日本の諺には『三度目の正直』というものがあります。
前の二人は若すぎて、俺の魅力がきっと分からなかったんだ。
今度こそは――。
美女は黒い瞳でじっと俺を見つめる。
俺は美女の胸の谷間をじっと見つめる。
そして、ふいに美女がつぶやいた。
「チェンジ」
??スリーアウトぉ??
「彼の者を返還したまえ!『クーリング・オフ』!」
はい、『二度あることは三度ある』でした。
元の世界に戻った俺は、またステータスアイコンが点滅していたので、ステータスを確認した。
【名前】橘 八雲
【レベル】1
【HP】80/80
【MP】40/60
【腕力】45
【敏捷】74
【魔力】65
【職業】返還者×3
【スキル】他言語理解 空間転移 空間収納 ★魔眼
うお、魔眼!?すげぇ中二っぽいスキルが……!
【魔眼】一度見た魔法を3つまでストックでき、無詠唱で発動できるようになる。ストックした魔法は使用するとストックから消失する。
ほほう、見た魔法ってことは他人が使った魔法でもストックできるのか。
これはすごい!
でも、今覚えてるスキルは無詠唱で発動できるし、異世界を散策して誰かが魔法を使ってるとこを見ないとだから、まだ出番は無いスキルだな。
少し時間を置いて、先程召喚されたとこに行ってみたけど、美女はもういなかった。
なんか薄暗くてよく見えないから、アイテムとかは見つけられなかった。
残念。
なんか疲れたし、風呂に入ってもう寝よう。
服を脱いで、風呂のドアを開ける。
今日はやけに湯気が多いな、目の前が真っ白……って、また召喚!?
ちょっとまて、俺、今全裸!!
視界が開けてくると、やはり神殿らしき場所に出た。
俺の目の前で、美少女……と呼ぶには幼すぎる5~6歳ぐらいの幼女が、俺の股間を凝視していた。
「この不埒者がぁぁー!!」
幼女の後ろにいた騎士風の鎧を纏ったおっさんが、俺に向かって剣を振りかざしてるっ!
「うわあぁぁ!!」
俺の悲鳴に幼女が我を取り戻し、
「彼の者を返還したまえ!『クーリング・オフ』!」
間一髪、おっさんの剣が俺に届く前に返還の呪文が発動して、無事元の世界に戻れた。
あっぶねぇ!元の世界だったら、事案発生――じゃなくて、斬られて死ぬとこだったわ。
また召喚されるかとビクビクしながら体を洗い、俺は急いで風呂からあがった。
部屋に戻ってステータスを確認すると、また新しいスキルを覚えていた。
【名前】橘 八雲
【レベル】1
【HP】140/140
【MP】80/110
【腕力】95
【敏捷】112
【魔力】95
【職業】返還者×4
【スキル】他言語理解 空間転移 空間収納 魔眼 ★偽装
偽装??
【偽装】ステータスや容姿を偽装できる。
ああ、たぶん相手のステータスを確認する魔法とかがあるのかな?
とすれば、【職業】返還者×4とかになってるのはまずいから、偽装しておいた方がいいのか。
さて、まだ召喚は続くんだろうか?
そういえば考えてみると、召喚は一時間半ぐらいの間隔で行われていたな。
ってことは、次に召喚されるとしても、約30分後ぐらいか。
本を読みながらしばらく待っていると、また目の前が真っ白になった。
いいかげん慣れたので、もう何のオドロキも無いな。
って、寒っ!!
なんか今回は氷で出来た神殿みたいなとこに召喚された。
案の定、目の前には美少女が。
先程の幼女程ではないが、あどけなさの残る10歳前後と思われる美少女が笑顔でこちらを見ていた。
幼いながらも、白髪に銀色の瞳は見る者を魅了する。
俺も一応微笑んでみた。
しかし、美少女の笑みは凍り付かない。
俺を拒絶しない……だと……?
今度こそは――と思った瞬間、美少女の前に二人の白髪の美女が歩み出た。
「「お下がり下さいっ!この様な容姿の者が勇者であるはずがありません!!」」
俺の幻想はぶち殺された。
「「彼の者を返還したまえ!『クーリング・オフ』!」」
美女達が同時に詠唱し――しばらくその場の時が止まる。
……あれ?何も起こらないんだけど。
美女二人がこちらを睨み続ける。
ひょっとして、召喚した美少女が唱えないと返還できねんじゃね?
でも、ここに留まっちゃダメだよね。
めっちゃ睨まれてるし歓迎されてませんね、分かります。
空気が読める俺は声を出さずに空間転移を発動し、自分で元の世界に戻った。
俺の心に五つの傷を刻んで、五度にわたる召喚(返還)を終えました。
 




