詮索
「「ふわ~、速~い!」」
「もうちょっと高く飛ばないと、見つかるんじゃないか?」
俺達は今、ピンク忍者が持ってきた『航空魔導機』なるもので空を飛んで移動している。
まぁ、外見はどう見ても只の馬車なんだけど、座席部分は無駄に金色に輝く装飾が施してあるし、それを引っ張る動物も魔導機の一部らしく同様に金色だ。
UFOよりも光り輝くという余りにも目立つ配色の上、そもそも空飛ぶ馬車が目立たない訳が無いんだから、地上で騒ぎになっていてもおかしくないはず。
しかし、俺と妹達の対面に座っているラルドが首を横に振る。
「心配無い。この馬車にはステルス魔法が掛かっているんでな」
「へー、そうなんだ。馬車……馬車ね……」
この馬車らしきものを引っ張っている動物は馬のような形をしているが、何故か鹿の角が生えている。
トナカイ程大きい角ではないので鹿の角だと思うのだが、ならば何故鹿をモチーフにせずに馬にしてしまったのだろうか?
馬と鹿……この魔導機を制作した者の悪意を感じずには居られない。
「ステルス付ける前に外装の金色も見直すべきじゃね?」
「忍者の馬車も、忍ぶ気無し!」
「いや、だから忍べよ!」
ラルドの隣に座っているピンク忍者に一応つっこんでおいた。
この忍者、名前はレインと言うらしい。
どこかで見た事がある気がするが、まだ思い出せないままだ。
レインの方も、俺を見た事が有るらしいが思い出せないと言っていた。
たぶん白髪で町中をウロウロしてた時に見かけた程度じゃないかな?
今は赤髪赤眼になってるから、白髪でいた時の俺に似ていると思ってるんだろう。
レインの胸元のスイカが馬車の揺れに合わせてたゆんたゆんと揺れる。
それに合わせて俺の視線も上下する。
妹達は窓から下を眺めているし、レインとは何を話せば良いか分からないので、自然と俺はラルドの方に会話を振ることになった。
「で、どれくらいで着くんだ?」
「三十分と掛からないだろう」
「というか、このまま魔王城まで飛んで行った方が速くないか?」
「魔大陸全域は結界で囲われているので、空や川から進入は出来ないんだ。きっとお前の魔法でも入れないだろう。各国から続く街道の先の門を潜るしか入る方法は無いんだが、今回その門の前にレッドドラゴンが居座ってしまったということだ」
どの国から行くにしても入口が決まっているってことは、門番のようなものがいるかも知れない。
モンスターなら倒せばいいが、人間が相手では手続き等面倒事があるかもしれないな。
今回レッドドラゴンが道を塞いでくれたのは、逆に幸運だったのかも知れない。
しかし『空間転移』で超えられない結界があるんじゃ、毎回通るのが面倒だな。
結界を通過せずに元の世界から転移すれば行けるか?
「着く迄の間、お前達の事を教えて欲しいんだが」
ラルドの余計な一言に、俺は分かり易く顔を顰める。
組織『ウル』に所属することになった以上、ある程度の情報は開示しなければ成らないんだろうが、俺はまだ信用してないからな。
メリットが少ないよりもデメリットが少ない方が不安が残る。
隠蔽された事実があるのではと疑心暗鬼になってしまうのは、昨今の企業の在り方から当然の結果と言えるだろう。
異世界の組織であろうと人が運営する以上、大なり小なり歪みが出てくる筈だからな。
俺だけなら空間転移で逃げてしまえばいいが、妹達やルルとミーシャにも事が及ぶ可能性があるのだから慎重に成らざるを得ない。
「あまり詮索しないで欲しいんだが。話せない事の方が多い」
「あれだけの強さと特殊なスキルを持っているのだ、話せないと言うのも分かる。そこで、情報交換という形で我々の知る事を教えるというのはどうだ?マリアから聞く限りでは、田舎で育ったので世情に疎いらしいじゃないか」
「まぁ情報は欲しいと思ってるが、そっちにも明かせない事があったりするだろ?」
俺の意見に、ラルドは少し考える仕草を見せる。
「では、お互いに3つ知りたい事を言って、答えられる質問だけ答えるという事でどうだ?」
「いいね。それでいこう」
ラルドの提案を受け入れて質問を考える。
先ずは、ハルナのスリーサイズ!これは外せん!
だが、ラルドが知っているとも思えないので却下。
妹達よ、ジト目でこっちを見てないで外を眺めてなさい。
まぁ、この世界全般について殆ど何も知らないんで色々教えて欲しいんだが、余りにも稚拙な質問をして此方の知識が乏しいことを知られると、いいように利用される可能性もあるな。
ということで俺が選んだ質問は、
「一年前に召喚された勇者について知っている事、賢者の石について知っている事、勇者召喚と組織との関わりについての3つだ」
俺の言葉に、目を見開くラルド。
質問が分かり易過ぎて俺の正体を明かしてる様なもんだが、これは逆に脅しだ。
俺の事を詮索するのは藪蛇に繋がるぞってね。
「まさか、お前……」
「余計な事は言わないでくれよ」
レインは良く分かっていないようで首を傾げていたので、こいつにまで情報を与える必要は無いと思い、一応釘を刺しておいた。
「で、そっちの質問は?」
ラルドは少し考える素振りを見せるが、
「いや、今のお前の質問で大体察した。すまなかったな。詫びとして3つの質問に関して俺が知っている範囲で答えよう」
思いの外効いたようで、此方に有利すぎる提案に拍子抜けする。
「いいのか?」
「ああ、もう詮索はしない。されたくない理由も検討がつくし、お前達の事を他言するつもりも無い」
「こっちに都合が良すぎて気持ち悪いな」
「お前達に貸しを作っておく方が、後々利が有るだろうからな」
黒豹の鋭い牙を見せてニヤリと笑うラルド。
捕食されそうで怖ぇよ。
「じゃあ借りとくわ。知ってる事を教えてくれ」
「分かった。まずは一年前に召喚された勇者についてだが……」
ラルドがそう言った時、突然妹達が顔を窓の外に出して叫ぶ。
「「お兄ちゃんっ!!」」
瞬間、馬車の内部が赤く染まった――ように見えたが、これは俺のスキル『危険予知』が発動しているのか!
前方の窓へ視線を移すと、馬車の進行方向の遙か先に、赤い物体が羽ばたいているのが見えた。
蛇のような鱗、頭には角が生えていて背中に巨大な翼を持ち、トカゲのような手脚には鋭い鉤爪。
そいつは自身の体よりも更に赤い燃え上がる炎を、今まさに口から此方へ向かってはき出そうとしている。
「レッドドラゴン!?」
多分、馬車ごとは空間転移出来ない。
俺が咄嗟に思い付いたのは、先程マリアさんが使った魔法『ダーク・アンチスペル』。
『危険予知』スキルのおかげか、何故かこれから来るドラゴンの攻撃が魔法属性だと分かる。
闇属性の魔法を使うために、赤髪赤眼のままだった『偽装』を解いて黒髪黒眼に戻し、魔眼にストックされていた『ダーク・アンチスペル』を発動した。
俺の放った闇が目の前で一気に膨張し、馬車のすぐ手前でドラゴンの炎と衝突して、闇が全てを食い尽くすように炎を相殺した。
しかし、ギリギリ間に合った程度だったので、衝撃波をもろに食らって馬車が大きく揺れた。
「うおっ!あぶねぇ」
「ギリギリだったね」
「さすがお兄ちゃん」
俺達兄妹は割と余裕があったが、ラルドは黒毛皮の下で真っ青になっているのが見て取れた。
そしてレインは、黒髪黒眼になった俺を見て驚愕していた。
「お、お前は……」
レッドドラゴンに驚いているのではなく、俺に驚いている?
次のレインの言葉に、今度は俺の方が驚いた。
「勇者……」




