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魔法と偽装

 おかしいぞ、何かがおかしい。

 俺は召喚によるチート能力を手に入れて、無双状態になってるんじゃないのか?

 俺が単独で勝てたのって、ヴェルデの部下とゴブリンぐらいじゃないか。

 騎士風のおっさんオクルスには多分勝てると思うけど、リリィ女王とかフブキのじじいとか目の前の黒豹ラルドとか、チート駆使してやっと互角ぐらい?

 魔眼の魔法ストックに頼った闘い方だから、武を極めたような相手はやりにくいんだよな。

 もっと俺TUEEEE!って感じで無双したいのに……。


 突然、俺の頬を黒い拳が掠める。

 反射的に首を捻って躱したけど、今のは危なかった。

「戦闘中に考え事とは余裕じゃないか」

「俺は頭で闘うタイプなんだよ」

「お兄ちゃん、頭突き得意だったっけ?」

 アホな妹は無視しとこう。

 ここには、脳筋しか居ないのか?

 ハルナだけは違うと信じたい。

 ちらりとハルナを見ると、子供のように口を開けて見入っていた。

 その顔が幼さを強調して、いつもよりも更に俺の心を揺さぶる。

 ほんと可愛いな、ちくしょう!


 俺は大分昔の勘を取り戻して、合気道の技でラルドの攻撃をいなし続けている。

 しかし、俺には決定的な相手を倒す技が無いのだ。

 小学生の時、師匠によく言われてたっけ。

「お前はカウンター狙いに拘りすぎだ。待つだけで焦れてくれる弱い相手ならば、それでもいいだろう。だが本当に強い敵には、攻めることで相手の気を崩すことも必要になってくるんだぞ」

 返し技は、そこに到るまでの攻防によって全てが決まる。

 故に相手の気を崩すための攻めが無いと、達人クラスとは闘えないってことか。


「ヤクモ、一つ忠告しておく。頭で考えているうちは俺には勝てんぞ。考えるな、感じろ!」

「どこの拳法家だよ」

 ラルドの忠告も無視無視。

 俺は戦略家なんだよ。

 まずは突破口を作るとこからってことで、魔法を織り交ぜて相手の隙を引き出すか。

 俺はラルドの間合いに素早く踏み込んだ。

 虚を突かれたラルドは、一瞬迷いを見せるが右手で俺の肩を掴もうと腕を伸ばす。

 黒い手のひらが掴んだものは残像、俺は僅かに身を低くして無詠唱でファイアボールをラルドの腹部に目掛けて放つ。

 ラルドはそれを左手で俺ごと払おうとしたが、既にそこには俺の姿は無い。

 兵は詭道なり、ってよりただの手品だな。

 視線誘導でファイアボールに目が行った隙に死角に潜り込んだ俺は、ラルドの右脇腹にもう一度ファイアボールをぶち込む。

「くっ!」

 あれ?もろに食らったはずなのに全然応えてない。

 至近距離で魔法受けたのにちょっと呻く程度って、どんだけ強靱な肉体してるんだよ?

 反撃とばかりにラルドが繰り出した右肘を避けて、俺は一旦距離をとった。

「武も鍛錬を怠っている上に、魔法の威力もこの程度か?そもそもお前、ヴィンター族では無いにしても白髪で火属性の魔法を使うというのは、無茶苦茶すぎるぞ」

 鍛錬を怠っているのはバレバレか、さすが達人クラス。

 というか、今聞き捨てならないことを言ったな。

「白髪で火属性って駄目なのか?」

「白髪はヴィンター族に多く見られる特徴だからな。ヴィンター族は寒冷地に住んでいて、氷属性の魔法を得意としている。お前がヴィンター族でなくとも、その格好が何らかの影響を受けていると思うが」

「ああ、なるほど」

 この土地は比較的暖かい地方で、そういえば赤っぽい髪の人が多かった気もするな。

 ハルナも赤髪赤眼だし、ハルナの姉も……は双子なんだから当然か。

 つまり赤髪赤眼に偽装すれば、火属性であるファイアボールの威力が上がるのか?

 以外にも一番使えないと思っていた『偽装』のスキルが、実はとんでもないチートスキルだった。

「これは良い事を聞いたな」

 そう言って俺は、偽装を赤髪赤眼に変える。

「何っ?白髪以外にもなれるのかっ!?」

「ああ。今度は強力だと思うから気を付けろよ」

 俺は右手に魔力を込める。


 本来の魔法の発動は、魔力を練る、呪文の詠唱によって魔力を現象に転化、それを放つ、と3段階の手順が必要だと思う。

 魔眼を通して見ただけなので、実際はもっと複雑かもしれないが。

 そこを俺は、魔力を練りつつ現象への転化も同時に行える。

 これが無詠唱で発動できる理由だろう。

 魔眼で魔法を発動する時にそんな感じがするので、俺も魔法を使う時そんなやり方になってしまった。


 魔力を炎に転化していくと、赤髪赤眼の影響か先程より炎の威力が高い。

 俺は調子に乗って、さらに魔力を練り上げる。

 練る練る練~る練……。

 あれ?なんか異常な程威力が上がってる気が……いや、気のせいだよな。

「お、お前ちょっと、それは……」

 黒猫さんが何か仰ってますが、聞こえな~い。

 俺の手元で小さい太陽が唸りをあげて輝いている。

 だんだん分かって来たが、魔法ってのは魔力で物理現象を操作するものらしい。

 ファイアボールは、手のひらに集めた魔力で原子を加速させる魔法だ。

 逆に原子を減速させると氷系魔法になる。

 偽装で赤髪赤眼になったおかげか、その原子の加速が手に取るように感じることができ、威力の上乗せが容易くなった気がする。

 美紅の放った百歩神拳を越えるつもりで、出来うる限界まで魔力を高める。

 黒豹の毛が全身逆立って、驚異に対して威嚇してる猫科のようになっていた。

 俺は右手を前に突き出して叫ぶ。

 いや、無詠唱で発動できるから叫ぶ必要も無いんだけどね。

「ファイアボールっ!!!」

 俺の手を離れた小さな太陽は、ラルドとの距離が縮まるごとにどんどん巨大化する。

 ラルドの黒毛皮を冷や汗が伝っているようだ。

 やり過ぎたか?

 猫科の丸焼きって美味しいのかな?犬は美味いって聞くけど。

 などと考えてる間にラルドを丸ごと飲み込める程に巨大化した炎の玉は、黒豹の目の前まで迫った。


 炎の玉が到達する――と思った瞬間、黒い人影が炎の玉とラルドの間に滑り込んだように見えた。

「え?」

 巨大化した炎の玉を大きな闇の様なものが飲み込み、魔法はかき消されてそこに黒髪の女性が現れた。

「ヤクモ、これはどういうことだ?貴様やはり侯爵側の人間だったのか!?」

 怒気を含んだ声で、そこに立っていた女性――マリアさんが俺に問いかける。

「恩を仇で返すとは、見損なったぞ!」

 美しい黒い瞳でキッと俺を睨むマリアさん。

 完全に勘違いしているマリアさんを前に、俺は何も言えないまま立ち尽くしていた。

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