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 その娘の名は、ひいらぎ 六花りっかと言った。

 雪の妖精と形容した人もいた程肌は白く、少し垂れた目は男を魅了し、鈴の音のように響く声はとても耳に心地よかった。

 毛先が少し波打つ癖毛を本人は嫌がったが、それすらも彼女の魅力の一つだった。

 その屈託のない笑顔は友人達を楽しい気分にさせ、大人達さえも振り返らせた。

 その柊六花が、自然に――本当に自然に、いつの間にか俺達のグループに溶け込んでいた。

 中学二年の夏、俺とあららぎ 和馬かずまさかき 隼人はやとひいらぎ 六花りっかの四人は、一緒の時を過ごすことが当たり前になっていた。

 誰かが欠けるということは滅多に無く、部活もサッカー部で一緒に過ごす。

 六花はマネージャーとしてチームをサポートし、俺達3人は2年生ながらレギュラーとして試合に出れるようになっていた。

 次の夏の大会が終われば三年生は引退。

 俺達の世代は黄金世代と言われ学校の期待も厚かったので、毎日の練習にも自然と気合いが入る。 

 和馬と隼人はフォワードとして前線を走り回る派手なポジション。

 二人はイケメンなので、女子の声援も多かった。

 対して俺はボランチとしてゲームを組み立てるポジション。

 ポジションとしてはボールが結構回ってくるので地味では無いはずだが、俺の容姿のせいか声援を受けた記憶はほとんどない。

 しかし、六花はそんな俺も差別することなく、和馬や隼人と同じように接してくれた。

 俺から話しかけることもあれば、彼女の方から話題をふってくれることもあった。

 休日には四人で遊びに行くことも屡々。

 そんな日々の中で、俺が彼女に惹かれていくのは当然の流れだっただろう。

 無意識に六花の姿を目で追う。

 ふとした時に彼女を探してしまう。

 淡い初恋。

 身の程知らずの初恋。

 そして……破滅への初恋。

 実るはずなど無い彼女への想いは、捌け口を求めて俺の中で増幅し続ける。

 どうせ駄目なら何もせずに後悔するより、出来ることをやり切って後悔した方がいい。

 先人達は皆そう言ったらしいが、何もしないという選択肢こそが最良である場合が存在する。

 俺がそれを知ったのは全てが終わった後だった。

 そして心に刻みつけられた……いや、心に斬り付けられた傷跡が今も俺を苦しめる。

「なんで私があんたなんかと?」

 思い出したくも無い、彼女との最後の会話。

 俺は、何もするべきではなかったのか。

 何も……。




 ……見たくも無い昔の夢……か……。

 夢から覚めて、徐々に意識が覚醒していく。

 誰かが俺の側で話をしているようだ。

「すいません、私、殿方のお友達が出来るのは初めてだったので。どのように接したらいいか分からなくて」

「なんだ、そうだったのかぁ。そりゃそうだよね、こんな美少女がお兄ちゃんなんかと」

「そっか~、じゃあお兄ちゃんのこと――って訳じゃないんだね。残念」

 妹達と……ハルナ?

 何の話しをしてるのか、よく聞こえないな。

 少しだけ目を開けてみると、見知ってる天井が見えた。

 俺は教会の裏の隠し部屋にいることをようやく認識する。

「お、目が覚めたか」

「「お兄ちゃん、大丈夫?」」

「ヤクモ!大丈夫ですか!?」

 ベッドのすぐ側で黒豹がハードボイルドに笑っているのを見て、ちょっとビクっとしてしまった。

 いや、そりゃ寝起きに黒豹とか心臓に悪いわ。

 なんでベッドの一番手前のポジションにラルドなんだよ。

 そこはハルナに譲れよ。

 あ、でもまた発作が出ちゃうか、無念……。

「とりあえず大丈夫だよ。ごめん、ハルナ。俺が倒れたのはハルナが悪い訳じゃないから、気にしないでくれ」

「ヤクモ……」

 あまりにも心配そうな顔してるハルナに声を掛けるが、彼女の表情は更に複雑になっていく。

「お兄ちゃんに女の扱いとか無理ゲーだよね」

「お兄ちゃんに女心分かれとかクソゲーだよね」

「お前ら言いたい放題だな。後で覚えとけよ」

 妹達はどうでもいいのでもうほっとこう。

 周りを見渡して、気絶する前にいたはずの人がいないことに気付く。

「そういえばマリアさんの姿が見えないけど」

「マリアは、外の様子を見てくると言って出て行った。すぐに戻ると言っていたので心配無いだろう」

「そうですか」

 ラルドはまたもやマリアさんを呼び捨てに。

 やっぱそういう関係なのか?

 そんな事を考えていた俺を横目に、美紅が唐突に爆弾を投下する。

「じゃあ、お兄ちゃんも復活したことだし、魔王城目指して出発しよ!」

 それを聞いたラルドとハルナが目を見開き、俺は慌てて美紅の口を塞ぐ……が、遅かった。

「お前達、魔王城へ向かうつもりなのか?」

「ヤクモ、何故そんな危険なところへ向かわれるのですか!?」

 ラルドは真剣な眼差しで、ハルナは心配そうに俺を見る。

「いや、訳は言えないんだが、友人のためにどうしても行く必要があるんだ」

 俺の言葉にラルドが少し考えるような素振りを見せる。

「どう見ても魔大陸で闘えるようには見えないんだが、腕前を見せてもらえないか?」

「何故?悪いけど、俺達が魔大陸へ向かうことは貴方には関係無いことでしょう?」

 見た目で判断されたことに少しムッとしながらラルドに向かって言うと、

「マリアの知人を危ない目に遭わせたくない……というのもあるが、本音は魔大陸に渡れる程の腕っ節の人間であれば、懇意にしたいという下心があるからだ」

 思いの外、素直に本音を吐いたラルドに毒気を抜かれてしまった。

 ギルドで助けてもらった恩もあるし、マリアさんがあれだけ好意を示す人間(黒豹?)なのだから、悪い奴では無いだろう。

 こっちの世界で動くのに味方は多いに越したことは無いしな。

 俺は、俺達の力を見せてラルドとの信頼関係を結んでみようと思った。

 でも、見た目で判断した意趣返しはさせてもらうよん。

「美紅、美緒」

「「何、お兄ちゃん?」」

「お前らウズウズしてただろ。この黒猫さんに実力見せてやりなさい」

「「やったー!!」」

 黒猫呼ばわりされた事にか、女の子が相手である事がプライドに触ったのか、ラルドは眉間にシワを寄せて俺を睨んだ。

「ヤクモ、俺はお前に腕前を見せろと言ったつもりだが?」

 ラルドの口調がやや威嚇めいてきたが、俺はどこ吹く風で妹達に一つ注意。

「美紅、美緒、二人がかりは卑怯だから一人ずつ闘えよ」

「「わかってるよ」」

 それを聞いたラルドのこめかみから、ビキッという音が聞こえた気がした。

 黒猫さんや、うちの妹達はたぶん虎より強いから頑張ってね。

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