再び教会にて
俺は、とある映画の一場面のように教会の扉を勢い良く開けた。
だが、そこには俺に奪われる花嫁はいない……どころか、誰も居なかった。
正面には十字架を手に持つ聖母のような銅像がこちらを見ているだけで、マリアさんもハルナも居ない。
「ここって教会?」
「誰もいないね」
「う~ん、留守だったか。どうしようかな?」
迂闊に外を出歩くと警察?みたいのに捕まるかもしれない。
闘えば勝てるとは思うけど、手加減が難しいよな。
めっちゃ弱い奴とか達人みたいな奴としか闘ったこと無いから、普通の強さがどれくらいか分からないし。
とりあえず待つしか無いかと思ったところで、裏口の方から戸が開く音が聞こえた。
入って来たのは、黒髪黒眼の聖母と見紛う美女――マリアさんだ。
「ヤクモ?何故この国に戻って来たんだ!?」
前も思ったけど、整った顔立ちと喋り方にギャップあり過ぎだよな。
「いや、いろいろありまして」
召喚とか勇者については伏せておいた方がいいだろうな。
魔王についても話したらまずいか。
どう説明したもんかと思っていたら、妹達が俺の横でザワザワしだす。
「お兄ちゃんごときにこんな美人の知り合いがいるなんて」
「お兄ちゃん、何か騙されてるんじゃ?それか化かされてる?」
お前ら後で覚えてろよ。
ジト目で妹達を睨んでいると、突然バンっと背後の扉が開いた音がした。。
今度は奪われる花嫁がいる!?とか冗談やってる場合じゃねぇな。
警察?衛兵?岡っ引き?とにかく逃げないとと思いつつ後ろを振り返り、そこに立っている姿を確認して安堵する。
「無事に逃げれたようだな」
「あぁ、さっきは助かりました。ありがとうございます」
先程、俺に通報されていることを教えてくれた黒豹の人だった。
人かどうかは定かで無いが、言葉通じてるし二足歩行だから、たぶん獣人種とかそんな感じじゃね?
「何?お兄ちゃん、あの猫さんに助けてもらったの?」
「猫って、豹だろ。さっき通報されてたのを教えてくれたんだよ」
「え!?通報って、お兄ちゃんまさかまた事案を……」
「発生させてねぇ!ってか、またって何だ!俺は常に清く正しく美しく生きてるわ!」
「「美しくはないよね」」
綺麗にハモってツッコミありがとうよ。
美紅と美緒のほっぺを摘まんでやると、黒豹の人が扉を閉めて入ってきた。
「マリアに聞いていて良かった。ヴィンター族はこの辺じゃ珍しいから、もしやと思って近づいたら案の定だったな」
猫科が笑うと捕食する時のような獰猛さが出ると思ったが、この黒豹の人は丹精な顔立ちが崩れない二枚目な笑顔を見せた。
黒豹なのに妙にハードボイルドな感じで帽子と葉巻が似合いそうだが、服装が武闘家みたいでちょっと残念。
そうか、マリアさんがこの人に教えておいてくれた御陰で助かったのか。
ってか、今マリアさんをマリアって呼び捨てにした?
「自己紹介がまだだったな。俺はラルド。冒険者をやってて、ジョブは武闘家だ」
黒豹さんが渋い声で自己紹介してくれた。
ジョブ武闘家って、見たまんまだね。
妹達よ、目キラキラさせて武の構えをとるの止めなさい。
と、俺の横を黒い影が通り過ぎる。
少し頬を赤く染めて、俺には見せない嬉しそうな笑顔を浮かべ、ラルドの元へ小走りに近づくマリアさん。
会話は小声で良く聞こえないが、楽しそうに話すマリアさんを見て悟る。
ああ、そういうことか。
会って間もない女性だから別に恋してた訳じゃないし、悲しいということもない。
でも何だろうな、この虚無感は。
俺に向けられることが無いであろうその好意を、目の前で見せられてるせいか。
これって憧憬?
手が届かないもの程欲しくなるもんだよな。
いや、マリアさんを欲しいって訳じゃない。
好意を向けてもらえるという事象が欲しいのか、俺は……。
ふと我に返ると妹達が心配そうに俺を見ていた。
「お兄ちゃん、元気出しなよ」
「そうだよお兄ちゃん、きっと次があるって」
若干勘違いしている節があるが、まぁ慰めてくれてるんだろうし、いいか。
話が終わったようで、マリアさんが俺達に向き直る。
「まだ警備兵が巡回しているかもしれない。しばらくここにいた方がいいだろう」
「ありがとうございます、マリアさん。あと、いくつか聞きたいこともあって……」
俺が言いかけたところで、また教会の扉がバンっと開いた。
みんなあの映画の一場面好きだよね。
花嫁奪われる男の気持ちも考えろよ。
と思いきや、入って来たのは絶世の美少女だった。
まさかの花婿を奪う展開かっ!?
その赤髪赤眼の美少女は、俺を見て目を見開く。
「ヤクモ!?」
そして、俺は叫ぶ。
「俺を奪って下さいっ!!」
……はっ!また、欲望が暴走してしまった!?
妹達がジト目で俺を見つめる。
マリアさんとラルドはドン引きしている。
そして入って来た美少女――ハルナは、訳が分からないという顔をしていた。
すげぇ可愛い。
とりあえず咳払いしてみると、ハルナが俺の元に駆け寄ってきた。
「ヤクモ、また会えてうれしいです。先日は突然いなくなっていて、マリアさんに出て行ったと聞き、とても残念に思っていました。今日はまだここに居れるんですか?」
「あ、う……うん」
ハルナが頬を少し赤く染めて、俺との距離を必要以上に縮める。
知人として話す距離を遙かに越えて、今俺とハルナの距離は僅か30cm程。
俺好みの絶世の美少女に詰め寄られて、嬉しさが最高潮のはずの俺は……青ざめていた。
「お、お兄ちゃんに突然春が来た……」
「お兄ちゃんが今、現世の女運を全て使っちゃったよ……」
妹達が何か言っているが、まったく聞こえない。
冷や汗が全身を伝い、悪寒が走る。
手脚に力が入らず、ガクガクと震えてしまう。
マリアさんやルルやミーシャは何とも無いのに、何故俺の体はハルナにだけこれ程の異常を見せるんだ!?
まさか、瓜二つの双子の姉に明確に拒絶された事が鍵になって、ハルナに忌避感を感じてるのか?
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「なんで青ざめてるの、お兄ちゃん?」
妹達の声を最後に、俺は再び意識を手放した。
誤字のご指摘ありがとうございました。
見直してるつもりでも、以外と気付かないものですね^^;




