空耳
「手紙渡したら、めちゃくちゃキレてたよ……」
「でしょうねぇ」
お茶を飲みながら、さも当然と言った応えを返す母さん。
ルルとミーシャはおやつとして、アーモンドの入ったチョコを美味しそうに食べていた。
そんなにいっぱい食べると鼻血出るぞ、口いっぱいに頬張りすぎだ。
「で、何か言ってた?」
母さんの質問に俺はジト目で返答する。
「話も聞かずに、いきなり襲いかかってきたよ。氷柱で串刺しになるとこだった」
「それでそんなにボロボロなの?」
「いや、これはフブキって呼ばれてたじじいにやられたんだ。あんな達人がいるなんて聞いてなかったよ」
「フブキ……まだ生きていたのね。やっぱりあの時トドメを刺しとくべきだったわ」
急に母さんの雰囲気が変わり、怒気のようなものを発したのが魔眼を通さずに分かった……怖ぇ。じじい、何やらかしたんだ!?
だがルルの為にも、あのじじいにはトドメを刺しておくべきかと思った俺がいた。
「で、そのフブキってじじいが言ってたんだが、女王が変わったのは操られているかららしいんだ」
「お母様が操られている……?」
俺の言葉にルルが目を見開く。
「ああ……しかも、勇者にな」
「勇者……、そういえばヤクモ様以外にも勇者様がいるんでしたね。私はお会いしたことは無いですが。でも、その勇者様が何故お母様を?」
「そこまではじじいも分からないみたいだった。まぁ、向こうの世界にいる時は注意した方がいいかもな」
俺とルルの話に、今まで大人しく聞いていただけだった妹達が突然食いつく。
「「勇者とかいるの!?すごいっ!」」
「勇者どころか、魔王もいるらしいぞ。しかも、ルルのお母さんを元に戻すためには、その魔王のとこにある賢者の石を取ってこないとなんだよ」
魔王という単語に、美紅と美緒の瞳がキラキラと輝きを増した。
お前ら、まさか……。
「「魔王と闘ってみたいっ!!」」
「アホかーーーっ!!!」
妹達のおつむが弱々なのは知っていたが、まさかの脳筋だったとは。
ほっぺ膨らましてもダメだからな。
俺は美紅と美緒のほっぺを左右にひっぱる。
中学二年の肌はもっちもちだな。
「お兄ちゃんばっかり異世界行ってずるい~!」
「私達も異世界つれてってよ~!」
「お前らな~」
ほっぺを無抵抗で引っ張られながらも、真っ直ぐに俺を見つめる妹達。
困ったもんだ。
「俺はいざとなったら『空間転移』で元の世界に逃げれるけど、お前達は出来ないだろ。こっちの世界と違って異世界では魔法みたいな搦め手もある。はっきり言って俺がお前達を守り切れる保証は無いんだぞ」
「「……」」
美紅と美緒は俯いて黙り込む。
そこで俺達のやり取りを見ていた母さんが一言。
「でも、美紅と美緒の方が八雲より強いわよね」
それ言っちゃダメ~~!!
美紅と美緒が、下から上目遣いで見て、ニヤリと口角を吊り上げる。
「私達がいれば戦闘が楽になるよ」
「私達がお兄ちゃんを守ってあげるよ」
「調子に乗んなっ!!」
まったく、こいつらは。
それにしても腐っても元勇者、俺達の力量を正確に把握して……
「げぼっ!」
母さん、何故俺を蹴る!?
「腐ってないわ!」
マジで心読めんの!?怖ぇよ!!
フブキのじじいよりも鋭い母さんの蹴りを脇腹に食らった俺は、10秒程orzのポーズで蹲った。
母さんのスキルのせいで回復魔法が効かないよ……恐るべし元勇者。
「じゃあ美紅と美緒、ちょっと試験をしてやる。これに合格できたら異世界に連れてってやるよ」
「「ホント!?」」
「ああ」
俺は、じじいが言っていた『体内で魔力を練って弾く』という技術を実験してみることにした。
美紅と美緒は、さっき俺が異世界に連れて行ってしまった時に、魔力を体内に取り込むということを唐突に出来ている。
だから軽く説明するだけで、じじいが『戦闘の基本』と言っていたこれは出来てしまうんじゃないだろうか?
もしこいつらが出来たら、やり方を教えてもらって俺も覚えられるからな。
「俺がこれからお前達に対して魔法を使うから、体内で魔力を練ってそれを弾いてみてくれ。これが出来れば、異世界でもかなり安全に闘えるはずだからな」
「「うん、わかった」」
俺は先程のじじいとの戦闘中に『通話』の魔法もストックしていた。
けっこう便利な魔法だからな。
それを美紅と美緒に向かって無詠唱で放つ。
気配を感じとったのか、妹達は急に真剣な目付きに変わる。
魔眼で二人の魔力の流れを見ると、一旦体の中心よりやや下の丹田のあたりに魔力が集中して、一拍後にそれが開放されたように体の外へ弾け出る。
爆発的な魔力の波に俺が放った魔法は弾き返されて、余波で俺の体も少し後ろに押される。
一発で出来るとか、ホントこいつら化物だな。
「「お兄ちゃん、絶対失礼なこと考えてるでしょ」」
いやだから、何で俺の考えが読めるんだよ?
うちの女性陣はマジ怖いっす。
しかし、こいつらのセンスには脱帽だな。
「しょうが無い、連れていってやるよ」
「「やったー!」」
まぁ、美紅と美緒が居ればかなりの戦力になるし、いっか。
魔法を弾く技術は、魔眼で魔力の流れを見たから大体理解出来たし。
「じゃあ母さん、魔王の城への行き方を教えてくれ」
「分かったわ」
と言って、母さんはサラサラと紙に地図を描き始めた。
「あぁ、それからね……」
母さんが地図を描きながらぽつりと呟く。
「魔王とは闘ってもいいけど、殺しちゃダメよ」
「え?何で?」
「だって、貴方たちのおじいちゃんだもの」
「「「!?」」」
……最近、空耳が多くなって来たな。
異世界に行ったりと、非日常的なことが続いてるせいかな?
よく耳をマッサージして、と。
「母さん……もう一回言ってもらえるかな?」
「だから、魔王は貴方たちのおじいちゃんなのよ」
空耳じゃなかったあああぁぁぁぁー!!!




