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氷の女王

 母さんの書いた手紙――どう見ても脅迫状です、ありがとうございました。

 俺は今、その脅迫状……もとい手紙を持ってスィフル王国の王城に来ています。

 窓の外は辺り一面猛吹雪。

 風がビュービューと吹き荒れていて、5m先すら満足に見えない。

 なんでこの城、窓が吹き抜けなんだよ!?

「寒すぎるっ!」

 かなり着込んで来たのにこれだけ寒いってことは、氷点下いってるなこれ。

 でも、さっき来た時に見た人達は、割と薄着に見えたんだよな。

 袖は長くて足も出してなかったけど、布の服を精々2~3枚着ている程度だと思う。

 ヴィンター族って寒さに強いのかな?


 色々考えながらウロウロしてるけど、さっきより人が少なくて誰にも見つからずに動ける。

 王城内でルルを見つけられないから、外へ探しに行ったのかも知れないな。

 大理石で出来ている通路の床は雪が積もってしまい、最早中なのか外なのか班別出来ない。

 予めルルに王城内の間取りを聞いておいてよかった。

 白い息を吐きながら、俺は壁伝いに少しずつ進んでいく。

 視界が悪く、遠くが見えないので『空間転移』が使えないのがもどかしかった。


 15分程城内を歩き回り、ようやくルルのお母さんである女王のいる部屋へたどり着いた。

 そこは、女王に会うための特別な謁見の間。

 扉の前には2人の衛兵らしい人達が立っていた。

 鎧を着てるけどその下はかなり薄着だ。寒くないのかな?

 アポ無しでいきなりは会ってくれないだろうから、あの衛兵達を何とかしないとだな。

 俺は、一旦空間転移で外に出て、少し離れたところでファイアボールを地面に向けて数発放つ。

 ドンッ!ドンッ!ドンッ!と、爆音が辺りに響き渡った。

「なんだ、今の音は!?」

「外で何かが光ったようだが!?」

 人が集まってくる前に空間転移で柱の陰に移動していた俺は、今来た中の一人であるかのように装い、

「侵入者だっ!向こうに走っていったぞっ!」

と叫んだ。

「侵入者!?」

「追うぞ!衛兵も呼んで来いっ!」

 あ、衛兵も呼んでくれるんだ。

 ちょろい……あんたら、こんなんでホントに女王を守れるの?

 まぁ、俺にとっては都合が良いので、すぐに謁見の間に空間転移して扉を開ける。

 部屋の中はかなり広く、20m四方ぐらいあった。

 大理石の壁と床。

 そして、入口から敷いてある赤い絨毯の先で、白髪銀眼の美しい女性が玉座に座っていた。

 ルルが大きくなったらこんな感じだろうなと思い、間違いなく彼女が女王であると確信する。

「女王様!何者かが侵入したようです!」

 俺が、いかにも報告に来た城内の者であるかのように話す。

 今の俺はヴィンター族に偽装しているので疑われることは無いはずだ。

「そして、こんな紙切れが落ちていましたっ!」

 早歩きで女王の手前5mぐらいまで近づいて跪き、母さんから渡すように言われた手紙を差し出す。

 すると、女王の脇に立っていた白髭の凜々しい執事風のおじいさんが、俺の手から手紙を取って女王に渡した。


 ちなみに、母さんが書いた手紙はこの国の言葉で書いてある。

 元勇者である母さんも例外なく『多言語理解』のスキルを習得していた。

 『多言語理解』のスキルって凄すぎ。

 このスキルあれば英語の授業とか楽勝じゃね?


 わずか数行の文章を読んだ女王は読み終わると、こめかみに青筋をたててピクピクしていた。

 おこなの?

 いや、そりゃそうか。

 さて、これからどうなるの?と思った俺に向けられた言葉は、

「で、貴様は何者だ?」

 やべえ!ヴィンター族じゃないってバレてーら。

 偽装してたのに何で?

 これは闘う流れか……。

 ルルの話じゃ女王は氷の魔法のエキスパートらしいから、レベル2の俺じゃ勝てないだろうな。

 でも、ルルと約束したから逃げる訳にはいかないんだ。

 俺は偽装を解いて、黒髪黒目の元の姿に戻った。

「その黒髪、その瞳。貴様まさかっ……!」

「ええ、俺は元勇者ミサの息子でヤクモ。ルルは今、俺達の下で保護しています。どうか話を聞いてもらえないでしょうか?」

 ダメ元でなんとか話をしようと試みるが、女王のこめかみの青筋は更にピクピクと躍動し始めた。

 激おこなの?

 プンプン丸なの?

 ねぇ、いまどんな気持ち?

「こ、ころっ、すっ!」

 怒りが有頂天過ぎて噛んだっ!?


 女王が途轍もない魔力を籠めて詠唱を始め、周囲の温度がグングン下がっていく。

 俺が女王と闘って勝つには、魔法を魔眼にストックして相殺し続け、相手のMP切れを誘うしかない。

 俺のMPが先に尽きそうだったら空間転移で逃げて作戦を立て直しだな。

 そして数秒の後、女王の詠唱が完了し魔法が発動した。

 よし!魔眼にストック!……は成功したが、俺は目の前の光景に息を呑む。

 謁見の間は数千にもおよぶ氷柱つららで埋め尽くされており、氷柱の尖った先は全て俺の方を向いていた。

「この『千氷柱サウザンド・ピラー』から逃れる術は無いぞっ!」

 女王が高らかに吠えたけど――術あります、ごめんなさい。

 一斉に氷柱が俺に向かって飛んで来たのを躱すために、『空間転移』で女王の後ろに転移する。

 今まで俺がいた場所を視認すると、そこには天井まで届く程の巨大な氷の柱が出来上がっていた。

 『空間転移』が無かったら、あの氷の柱の中に人型の何かが埋まっていたのか……恐ろしい。

「あぶねぇ。この世界の人って、ホント話聞かない人多いね」

「何だと!?」

 俺が後ろにいることに気付いてようやく女王が振り返る。

「我が魔法を躱すとは!フブキよ、こいつを殺れ!」

「御意」

 フブキと呼ばれた執事風のおじいさんが、格闘技っぽい構えをとって俺に襲いかかってきた。

 動きの速さはそれほどでも無いのに、一瞬で間合いを詰められる。

 古武術で言うナンバの動きに似ているが、この世界独特のもののようだ。

 おじいさんの右拳が突き出されるのをうまく躱したつもりが、左脇腹に蹴りをもらってしまう。

「ぐえっ!」

 ステータスは完全に俺の方が上だと思うが、このおじいさんも恐らく達人なのだろう。

 単純な膂力だけでは勝てない、武の格の違いを見せつけられる。

 俺は『空間転移』でおじいさんの右後ろに飛んだが、そこには既に放たれた蹴りが待っていた。

 それをモロにくらい、俺は受け身も取れずに後ろに吹き飛ばされて柱に激突した。

「っつー!痛ってー!」

 ステータスの御陰か、それほど大した怪我はしていなかったが、一応無詠唱の回復魔法で治療しておく。

「お主、途轍もない力を秘めておるようじゃが、武に関してはまだ素人じゃの」

「はは、達人クラスには全部お見通しか」

 おじいさんはまだまだ手加減しているような素振りだ。

 空間転移する先に蹴りを放っておくような化物の相手とか無理じゃね?

 さて、どうしようか?

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