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 時が止まる。

 全ての音が凪いだ。

 その場にいる全員が凍ったように動かなくなった。

 何だこれ?

 まさか、側に立って特殊な力を使う霊的なアレか!?

 星が白金色な人が時を止めたのか!?

 でも、俺の思考は止まっていない。

 それどころか目まぐるしく今ハルナが言った言葉を反芻する。

 まさかこれ、走馬燈!?

 出血多量で俺の命は風前の灯火なのか?

 ……いや、まてよ?

 走馬燈って過去の出来事が一瞬で頭の中を駆け巡る現象だよな?

 でも俺は過去に女の子に告白された事は無い。

 じゃあ、さっきのハルナが言ったあの言葉は……夢?

 やばい、俺!寝るな!今寝たら……、

「くっ、ぷっ、あ、あははははははっ!!」

 そして時は動き出す。

 突然六花が笑い出した事で俺は我に返った。

「あはははは、良かったじゃない八雲。あんたみたいなブサイクを好きになってくれる娘がいて」

 六花が言っている事の意味が一瞬理解出来なかった。

 血が流れすぎているせいで、頭が働かなくなってきたのか?

 何度も反芻した言葉が頭から抜け落ちていく。

 さっきハルナは何て言った?

 『好き』……?

 マジか……?

 俺を……『好き』って言ったのか?


「うおおおおおおおおっ!!」

 腹からドバドバ血が噴き出してるけど、そんなの関係ねぇっ!

 これが叫ばずに居られるかぁ!!

「ヤ、ヤクモっ、血がっ!」

 ハルナが青ざめた顔で俺の腹から吹き出る血を見て叫喚する。

「大丈夫だ、ハルナ。こんなもの愛の力の前ではかすり傷だ!ふははははっ!」

 気功で血を止めて強がってみせるが、調子に乗りすぎてまた頭がクラクラして来た。

 しかし、ハルナが『好き』と言ってくれた今なら、どんな痛みにも耐えられる気がする。

 それが男。

 好きな娘が自分を好きと言ってくれれば何処までも有頂天になれるのが男。

 悲しい生き物だよ、男。

 だが今なら魔王だって倒せそうな気がするぜ!ふははははっ!

 あ、魔王は今弱ってるから普通に倒せるんだった。

 そしてその魔王がチョンボしてくれた御陰でこっちはピンチになってるんだった。

 お祖父ちゃん後で折檻だな。


「茶番はそれぐらいでいいかしら?安心して、二人共一緒に地獄に送ってあげるから。あら、私超優しい」

 そう言って六花は魔法の詠唱を開始した。

 詠唱と共に六花の右手に集まった魔力が強くうねり出す。

 轟音を響かせて炎が渦巻き、六花が高く掲げた右手の上に太陽のような炎の玉が出来上がった。

 魔法なんて俺の魔眼にストックして相殺するだけだ。

 ……っ!?視点が合わない。

 出血で力が入らなくて目の前が揺れている。

 これじゃ魔法に焦点を合わせらなくて、魔眼にストック出来ない。

 だったら避け――られない。

 空間収納すら使えなくなっていて、空間が削れない。

 意識がハッキリしてないとスキルがうまく発動出来ないのか?

 やばいっ!ハルナだけでも!

 俺は震える足を力づくで踏み出させて、ハルナの元に駆けた。

「ファイアーボール!!」

 詠唱が完了し、六花の魔力を極限まで込めた炎の玉が俺とハルナに向けて放たれた。


 スキルが使えない俺に何が出来る?

 外気功は使えるが、美紀叔母さんみたいに強力な発勁は使えない。

 魔力が消されていて魔法も使えない。

 それでもハルナだけは守る!

 俺の鎧は炎の耐性が強いドラゴンの鎧だ。

 どれだけ強力な魔法でも炎系ならなんとか耐えきれる筈。

 例え耐えきれなくても、気功で身体強化して俺自身で耐えきってやる。


 俺は青ざめ震える体を鼓舞して、ハルナに駆け寄る。

 拒絶反応なんて気合いで押さえ込む!

 ハルナも極寒であるかのように体が震えているが、歯を食いしばってその場に留まっている。

 俺は覆い被さるようにハルナに抱き付いた。

 六花の魔法を絶対にハルナに当てないように。

「俺が盾になる!」

「ヤクモっ!」

 ハルナが俺の背中に腕をまわす。

 抱き合う形になるが、それじゃ腕が焼かれちゃうぞ!

 いや、もうそんな事言ってる時間も無い。

 六花の放った魔法が襲いかかって――襲いかかって――……あれ?

 魔法が来ない?


「な……んでよ……?何で魔法が消えたの……?」

 六花の唖然としているかのような声が聞こえた。

 俺が振り返ると六花の放った魔法は宙に消えていて、六花は呆然と立ち尽くしていた。

高度回復ハイヒール!!」

 俺の腕の中でハルナが魔法を詠唱していた。

 そして、何故かその回復魔法は発動して、俺の腹部の出血を止める。

「え?魔法が発動した?」

 魔力が元に戻った?

 六花のスキルはまだ効果時間内じゃなかったのか?

 いや、このチャンスを逃す訳には行かない。

「ハルナ!あそこで倒れてる奴にも回復をっ!」

「はい!高度回復ハイヒール!!」

 ハルナが魔法を使うと、離れた所に寝かせておいた和馬が淡い光に包まれていく。

 傷口が塞がったようで直ぐに出血が止まった。

 なんとか間に合ったか?

 しかし、何故急に魔法が使える様になったんだ?


「もう止めるんだ六花。俺のスキルで君のスキルを消した。もう何も出来ないよ」

 六花の後方から現れたのは隼人。

 先程迄のおかしくなっている感じは無い。

 以前の隼人に戻っている様だった。

「小娘の魔法なんてこの大魔導士様にかかればロウソクの火みたいなもんさね」

 そしてその後ろからお祖母ちゃんとお祖父ちゃんが付いて来る。

 どうやら魔法はお祖母ちゃんが相殺してくれたみたいだ。

「は、隼人……」

 振り返り絶句してしまった六花を、隼人は強い眼差しで見つめていた。

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