友人
鳩尾よりもやや下、内蔵の損傷は無さそうだが血が吹き出ていてもの凄く痛い。
回復魔法は六花のスキルが発動しているので使えない。
しくじった。魔眼に空間転移をストックするの忘れてた。
距離を取って六花のスキル範囲外に出る事が出来ない。
「また逃げられたらたまらないからね。直ぐにトドメを刺して楽にしてあげる」
六花は剣を軽く振って血を払うと、突きの姿勢に構える。
俺は目の前に蹲ってしまっている和馬の肩を掴んで引き寄せると、空間収納で左側の空間を削り取って縮め、俺と和馬の体を高速移動させた。
「ぐっ!」
完全に避けたつもりだったのに、思いの外六花の突きが鋭くて右肩を斬られてしまった。
目の前から俺達が突然移動したので六花は戸惑っているが、俺も正直驚いている。
武道などやって来なかった筈の少女とは思えない速さの突き。
魔力で身体強化しているのだろう。
あれだけ高速で動かれたら接近に気付かなかったのも頷ける。
「逃がさない」
六花は地を蹴って俺が移動した先へと高速移動してくる。
更に空間収納で空間を削って六花の攻撃を躱す。
空間収納で空間を削って移動するのって、空間転移と違って実空間を移動するから体への負荷が大きいんだよな。
六花の攻撃が届かない範囲まで空間収納で長距離移動するのは、俺にとっても辛いし、出血量が多い和馬にはかなり危険だ。
しかし、六花を抑えてたはずのお祖父ちゃんはどうしたんだ?
やっぱり武器とか鎧が無い状態だし、魔力も制限されてたから抑え切れなかったのか?
いや、お祖父ちゃんを責めてる場合じゃない。
六花は次々に剣を振るって連続攻撃を仕掛けてくる。
そしてその眼は明らかに常軌を逸していた。
何度も六花の攻撃を躱していたが、出血のせいか少し頭がぼーっとして来た。
俺は気功である程度出血を抑えていられるが、和馬はヤバイ。
時間は無いが、空間転移がストックされてない状態じゃ逃げ切れない。
迎撃するしかないか。
俺は大きな通りに出て和馬を少し離れた所に寝かせ、六花と向き合った。
「逃げるのは止めたの?じゃあ今度こそ確実に殺してあげる」
俺が諦めたと思ったのか、六花は口角を吊り上げる。
痛みと出血のせいで意識が集中出来ないからか、危険予知がうまく働かない。
気の動きを察知して、カウンターを合わせるのが一番有効か?
六花はここぞとばかりに連続して突きを繰り出して来た。
それを空間収納は使わずに体裁きだけで避ける。
色々ヤバイ奴らと戦って来た御陰か、六花の動きが手に取るように分かった。
外気功で気を取り込む際に六花の周りの気も感じ取れている気がするな。
身体強化で常人を超えた突きを繰り出している筈なのに全て俺に躱されて、六花に焦りの色が見え始めた。
「くっ、このっ!!」
徐々に動きが雑になり、目に見えて苛立つ六花。
その突きの一つを見切って、剣を持つ手首に手刀を入れる。
「っ!?」
六花が痛みで落とした剣を素早く足で踏み、そのまま空間収納に入れた。
自分の使っていた剣が突然消えて六花は一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに俺の仕業と気付いて忌々しそうに睨む。
女の子に手を挙げたくはないけど、このままじゃ和馬が出血多量になってしまうから攻撃に移らせて貰おう。
首筋を叩いて気絶させるのは素人の俺には無理だから、戦闘不能になるまで殴るしかないか。
気が進まないな……と思った所で、ふいに俺は崩れるように片膝を突いた。
気功である程度出血を止めてたけど、まだ慣れてないから少しずつダメージを受けていたらしい。
拙いな、これ以上戦うのは無理か?
意識を持って行かれる前に離脱しないと危険かもしれないが、六花が易々と逃がしてくれるとも思えない。
それに六花のスキルの効果範囲がどれぐらいかも分からない。
残るは、六花のスキルの持続時間が切れるのを待つしか手は無いか?
だが俺の考えを読んだのか、六花が表情を変え微笑を浮かべる。
「スキルの時間切れを待っても無駄よ。あと30分は持つからね。それまでに出血多量でゲームオーバーよ」
ご丁寧に説明してくれた。
六花は武器を失っても、俺達の側でスキルを発動し続けるだけで勝てるという訳だ。
万策尽きたか?
念のため素手でも襲ってくるかと思い空間収納で空間を削って距離を取ったが、六花は何もしてくる気配は無かった。
しかし、逃げれば追ってくるだろう。
自身のスキルの効果範囲に置いておけば、俺と和馬は出血を止める手段が無いからな。
膠着状態に陥った俺達の後ろに、誰かが駆けてくる気配を感じた。
六花の動きに気を配りながら振り返ると、俺はその駆けてくる人物を見て眼を見開いた。
「ヤクモっ!」
美しい赤い髪を靡かせて呼吸を乱しながら駆けてくる、女神のように神々しい美少女。
「ハルナ!」
俺は心底会いたかった少女の名を叫ぶ。
いまだに出血は収まらず徐々に力は抜けていくが、ハルナの顔を見たら何故かちょっと回復した気がする。
美少女は眼福ですからな。
俺とハルナはお互いに駆け寄り――はしなかった。
一定の距離を置いてどちらも青ざめながら震えている。
「誰よ、あんた?」
六花が牽制するようにハルナに問うた。
それに対してハルナは震える唇をぐっと噛んでから、意を決して叫ぶ。
「私はヤクモの友人ですっ!!」
ハルナの美声が辺り一面に響き渡った。
友人。
時にそれはもの凄く男の心を抉る言葉。
「友達からなら」
告白してそう言われたら、確実に友達以上は無理という間接的な拒絶だから気を付けた方がいい。
そして俺は六花に告白した時、友達にすら成れなかった。
あの時は明確な拒絶を突き付けられて絶望したなぁ。
だが、先日俺はハルナに拒絶された筈なのに、彼女は友人だと言ってくれた。
それが微かな光となり、俺の心を照らしてくれた。
顔は青ざめて手脚は震える。
俺が一歩近づくと、ハルナもビクリと震えて額に汗を滲ませる。
しかし、ハルナも歯を食いしばり、震える足を踏み出す。
「何なの、あんたら?青ざめちゃって。友人とか言って、お互いに嫌がってるようにしか見えないけど?」
俺達の様子を見ていた六花は特に攻撃してくるでも無く、呆れたように呟いた。
それを聞いたハルナが六花を炎のような赤目で睨む。
「嫌がってなんかいません!私は勇者の術に掛けられて意識とは別に体が震えているだけです。こんな震え、私の心を顕してなんかいないのに。だって私は……」
やはりハルナは勇者に術を掛けられていたのか。
腹部は痛むが、ハルナの話を聞いて少しホッとして力が抜けた。
そしてハルナは続ける。
「だって私はヤクモの事が好きなんですから!」




