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妹達

 自分の部屋へと空間転移して戻ってきた俺は、クローゼットから冬物の服を取り出す。

 戦闘する可能性も考慮して動きやすくて防寒性能が高いものを選ぶ。

 あの白髪の美少女はそうでもなかったけど、周りの人達は敵対的だったからな。

 返還したはずの勇者が現れた時に突然攻撃してくる可能性もあるので、なるべく誰にも見つからずにあの美少女の元へ行かなければならない。

 ファーのついた動きやすそうな上着を着ようとした時、唐突に俺の部屋の戸が開いた。

「あれ~?お兄ちゃんがいる」

「ほんとだ。友達の家に行ってるんじゃなかったの?」

 双子の妹、美紅みく美緒みおだ。

 そういえば、ハルナも双子って言ってたっけ。

 俺の周り双子多いな。

「ちょっと服を取りに戻っただけで、またすぐ出掛けるよ」

 と言った俺の手元を見て、美紅が不審そうに眉を顰める。

「なんで冬服なんて出してるの?なんか怪しぃ~」

「え、いやちょっと寒くなりそうだな~と思って」

「今日、気温高くなるらしいよ」

 妹達の攻めに俺は冷や汗が止まらない。

 ここは話題を逸らすしかないな。

「それより、俺の部屋になんか用か?」

「ラノベの続き借りに来たの。って、あれ?棚が空だ。私まだ全部読んでないのに売ったのぉ?」

「私もマンガの続き読もうと思ってたのに」

 そういえば空間収納に入れたままだった。

 ちょっと悪戯してみよか。

「何て本だ?」

「『老人転生』3巻と『剣が無いのに無双』2巻」

「私は『ドラゴンの股間のボール』18巻」

 ふむふむ、美紅はラノベの『老人転生』と『剣が無いのに無双』で、美緒は『ドラゴンの股間のボール』だな。最後のなんてタイトルだよ。

 俺は二人の目の前で右手をクルッと回して、手のひらの上に突然本が出るように空間収納から取り出した。

「「!?」」

 ふふふ、二人ともビックリしてるな。

 手品に見えただろう。

 ホントに種も仕掛けもありません。

あれ?でもなんか、妹達の様子がおかしいな。

 ここは、「お兄ちゃんすごーい!」ってなるはずだったのに。

「お兄ちゃん、今何したの?」

 美紅が真剣な目で俺に聞いてくる。

「なんか変な気の流れを感じたんだけど、超能力にでも目覚めた?」

 美緒がじっと俺の右手を見る。

 なんなんだお前ら、何かの達人かよ!?

――あ、そういえばこいつら合気道の達人だった。

 全国1位と2位。

 それも中学生だけじゃなく、大人も含めた一般の部でだ。

 そんな奴らに、迂闊に能力を見せてしまったか?

「何言ってんだ?手品だよ、手品」

 おバカな妹達には誤魔化す程度でいいだろ。

 二人がジト目で俺を睨んでいるが、知らん。

「お兄ちゃん、ここ数日なんか変。彼女でも出来たの?」

「美緒、そんなのお兄ちゃんが異世界に召喚されるより有り得ないよ」

 ぐぬぬ、全く以て美紅の言う通りなので言い返せない。

 彼女出来ないし、異世界に召喚されたよ!その上、返還までされたよ!

「まぁ、ラノベとマンガ売ったんじゃなくて良かったよ。お兄ちゃんの存在価値無くなっちゃうもんね」

 俺のアイデンティティそこぉ!?

 おのれ美紅!こらこら、美緒も頷くんじゃない!

「本は渡したんだからもういいだろ」

 妹達を追い出して、俺は冬服を着込んだ。

 面倒だったのでそのまま自分の部屋から空間転移した。

 後に玄関から出てから空間転移するべきだったと後悔することになるのだが、この時の俺には知るよしも無かった。


 氷の神殿に出た俺は正面にある出口らしい扉に向かう。

 この神殿、窓は無いのにけっこう明るいんだよな。

 マリアさんの教会にあったような照明の魔導具があるのかな?

 出口の扉を開けると、すぐ先は上へと続く階段になっていた。

 地下?

 山の上とか地下とか、召喚の儀式を行う場所って普通のとこじゃダメなの?

 地脈とかが関係してんのかな?

 そして、階段を上りきったところの光景を見て絶句……。

 窓から見える景色は一面雪なのに、窓枠だけでガラスが入ってない!

 今は風が吹いてないからいいけど、吹雪とかになったらすごく寒いんじゃね?

 石づくりの廊下が続いていて、窓から見た感じだと中世のお城っぽい作りだね。

 それにしても気温が低い。

 冬服でもちょっと耐え難いぐらいに寒いけど、ここに住んでる人はいるのかな?

 召喚の時だけ利用される施設だとしたら、あの美少女の行方を探すのはかなり困難だぞ。

 まぁ、こんな寒いとこに住めるとしたら雪女ぐらいじゃねーかな。

 そういえば白髪だったし……まさかな。


 しばらくウロウロしていたら、彼方此方から声が聞こえてきた。

 なんだ人いるじゃん。

 じゃねぇよ!見つかったらやべえ!

 俺はすぐに隠れられそうな場所を探す。

 幸い、廊下を支える支柱のような太い柱が等間隔に並んでいるので、誰か来ても柱の陰に入ればそうそう見つからないだろう。

 だが声が段々増えてきて、かなり多勢の人が何か慌てて走り回っているようだ。

 前後から来られたら柱に隠れても見つかってしまうので、俺は窓枠から外へ出て一旦身を隠すことにした。

 走り回っている人達は口々に

「王女様がいらっしゃらない!探せ、探すんだ!」

とか喚いている。

 まずい時に来ちゃったかな。

 人がどんどん増えてきて、戻るに戻れない状況になってしまった。

 チラリと覗けば、全員白髪。

 でも、瞳の色は赤やら青やら黄色やらと様々だ。

 その中に俺の探している銀色の瞳の美少女は居なかった。

 どうしようかと考えていると、廊下でぐるりと囲む形で中庭があり、その中央に大きな時計塔のようなものがそびえ立っているのがみえた。

 時計塔の中程に吹き抜けの窓があるので、たぶん時計のメンテナンスをするために上に登る通路みたいなのがあるはずだ。

 空間転移でひとまずそこに移動して隠れることにした。


 時計塔の中に移動してみると螺旋階段になっており、上の時計があるところまで繋がっているようだ。

 しばらく時間をかせぐ必要があるし、ここには誰も来ないだろう。

 俺は階段を上り、上を目指す。

 最上段の先には扉があって鍵がかかっていた。

 しかし、そこは中世ヨーロッパ風の作りなので、鍵穴から部屋の中が見える。

「この中に居れば見つかることは無いだろう」

 『空間転移』は、俺が焦点を合わせられる場所ならどこでも飛べる。

 右目だけで部屋内の転移ポイントに焦点を合わせ、空間転移を発動する。

「ふう、ここまで来れば……」

「誰!?」

 後ろから声を掛けられて、驚いて振り向く。

 鍵がかかっていたので誰もいないと思い込んでいたが、内側から鍵が掛けられていたのか!

 迂闊だった。

 しかしそこにいたのは、俺が探していた白髪銀眼の美少女だった。

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