マッチ売りの少女 ※15禁?
スナック菓子より軽いお色気。嫌いな方は読まなくても大丈夫( ̄∀ ̄)
アレクの唇がかすめた。冷たい唇の感触にただひたすら驚いて、眼を見開いて棒立ちになる。
その様子を見たアレクは小さく笑いながら親指の腹で唇を優しくなぞってく。
『馬鹿だな。こんな時は眼を瞑るもんだ。ほら』
優しく滑らかに命じる声をどこか遠くに聞きながらうなずけば、ふいに腕を掴んでいた手が背中にまわされ、ぐっと力強く抱き寄せられた。
『キャッ!』
アレクの胸にもたれかかり、身体をピタリと寄せなければ立っていられない。それほどに近い距離、不安定な体制になんとかバランスを取ろうと足元ばかりを気にする。
そこにアレクの右手が、するりと髪に滑り込んできた。指に髪を絡ませ後頭部から首まで滑らかにすべらせたかと思えば、驚いたことに自然と顔が上がりアレクの瞳とぶつかる。
『眼、閉じろよ』
唇と唇がひたりと重なる。
背中にまわされた手の平の熱が服ごしに伝わってくる。
優しいだけでない、激しいだけでもない扱いに心が踊り狂おしい。
舌が絡まり合う。
眩暈さえしそうな息苦しさの中、好きな人に受け入れられた幸せは甘く甘く体中を痺れさせ頭の芯から足の先まで恍惚とさせてゆく。
ふいに唇が離れた。
安堵に一息つき、眼を開けばアレクのきらめく茶褐色の瞳とかち合う。
その瞳に映すきらめきが、まだこの行為が終わりでないことを語る。
アレクの唇が首へと這い降りる。
あまりの扇状に身体は強張るが、気持ち悪さも怖さもおどずれることはない。
驚くほどの熱い吐息が口からこぼれた。
□□□■□
―――子供は、残酷な生き物。
『おい。お前ん家、すっげー貧乏だから今日もマッチ売りに行ったんだろ?』
本心を真綿にくるんで隠す大人と違って、聞いたまま感じたままを嘘偽りない言葉で投げつけてくる。
子供は、なんて残酷。
夕暮れともなれば街へ働きに出た者達が戻ってくる。街へと続く唯一の細道で親を出迎えようと村の入口には遊んでいる子供達の姿が見えた。
周りの大人に紛れて通り抜けようとしたが、あっという間に見つかり少年達に囲まれる。関わりたくないのにどうしてか彼らは放って置いてくれない。
ニヤついた顔で何度となくなく言われる悪口。
『なぁなぁ、お前ん家って父親が酒ばっかり飲んでて働かないろくでなしだってな。それに母親も病気のふりして寝てばかりの怠け者だって聞いたぞ』
相手にしないのが一番だって知ってるから何を言われても俯いたままでやり過ごす。
彼らは、そんな態度がつまらなかったのか『しかも、婆さんは幼い孫を働かせて平気な顔してる鬼なんだってな』
大好きなおばあちゃんのとんでもない嘘をつく。これには我慢できずに『違う!そんなことないもん』そう叫んで否定してしまった。
すると何が楽しいのか『お~に、お~に。鬼婆、鬼婆』と手を叩いてはやし立てる幾つもの声。
悔しくて涙がこぼれ落ちそうになる。
そうなると決まって『もう、やめてあげなさいよ』と少し離れた場所で遊ぶ少女達が『可哀相でしょ?』と遠くから止めに入る。
でも本当は知ってるよ。あの子達も心の中では笑ってバカにしていることを。今だって、小さな声でヒソヒソと何かを囁いては、クスクス笑って指差しているもの。
でも少年達が少女達に気をとられた隙に間をすり抜け、走って、走って逃げる。それしかできなかった。
はぁはぁと乱れた息を整え、病気で寝てるお母さんを起こさないように『ただいま帰りました』と小さな声で扉を開ける。
『おかえり。今日も頑張ってくれたね』
そう言って迎えてくれるのはソファで繕いものをするおばあちゃん。
朗らかなおばあちゃんの笑顔に、さっきの少年達の嘘を思い出し泣きそうになるが心配かけたくなくてイジメられたことは言えない。
代わりにおばあちゃんの横に座り黙ってしがみつく。するとおばあちゃんは決まって『ここへおいで』と膝の上をポンポンと叩いた。
おばあちゃんの膝の上は特別な場所。
おばあちゃんがギュッと抱きしめてくれるだけで心が丸くなっていく。
おばあちゃんが優しい手で『ありがたいねぇ』と頭を撫でる。
それは、嫌なことも悲しいことも忘れられる魔法の手。
おばあちゃんの、おばあちゃん・・・・・・。
(・・・だめ、まだ)
まぶたの裏に光を感じ、意識が少しずつ引き上げられてく。
きっと目覚めが近い。
一秒でも長くおばあちゃんを思い出していたくて頑なに眼を瞑るけれど浮き上がった意識は再び沈むことはなかった。
(どうして今頃?)
もう何年も見てないおばあちゃんの夢。心地よい暖かなぬくもりに頬を擦り寄せながら諦めて眼を開く。
(!!)
眼が泳いだ・・・アレクの顔が眼の前にあった。しかも、近いのは顔だけじゃない。アレクの腕を枕にし、顔をうずめるように抱きしめられている。
どうしてこんな事に?と落ち着いて考えてみれば、さっきまでの恥ずかしい行為がまざまざと思い出され顔が火照ってく。
胸はドキドキと高鳴り、少し息苦しくもあったが、同時にこれ以上ない幸福感が湧き上がってくる自分がいる。
改めて、寝顔を見つめ・・・指先でゆっくり撫でた。
ただそれだけなのに涙が溢れそうになる。
いつまでもこうしていたい誘惑を振り払い、ゆっくりとアレクの腕から抜け出そうとすると『もう終わりか?』と強く抱き寄せられ捕らえられた。
『アレク!お、起きてたの?』
『あぁ、誰かさんに起こされたからな』そう言って見つめ合えば、宝物を扱うかのように優しく髪を梳かれ唇を塞がれる。次第に深くなる口づけは身体の芯に淫らな花を咲かせ理性を奪っていく。
夢の中はおばあちゃんに守られて幸せだった。でも今は・・・起きながら幸せな夢に堕ちてく。