我がギリオン家は無敵です
深く考えずさらっと読むのが吉です(占い結果)
異世界から来た救世主に、我が婚約者殿はメロメロである。
まぁ元々私はあまり婚約者殿には好かれていなかったので、救世主という伝説の存在の彼女の出現は、彼にとってまさしく救いだったに違いない。
身分はなくとも、救世主という地位は王太子の婚約相手には相応しいだろう。
公爵令嬢よりも、庶民にも受け入れやすいに違いない。
だから私の婚約者、この国の次代の王となるフィリップ王太子に婚約解消を告げられた時の私の心境は
はぁ。そっすか。
これに限る。
いやもちろん口には出しませんでしたが。
そんな訳で今日から私は王太子にフラれた女というレッテルを貼られる訳で。
ごめんなさいお父様。
娘は誰にも貰い手がつかない可能性大です。
※
さて件の救世主様だが、一体我々を何からお救い下さるのか。
過去の救世主は荒れた国を平定したとか、隣国との戦を勝利に導いたとか、はたまた疫病が流行った際、救世主が降臨した瞬間病が収束に向かったとか伝説の内容は様々で、現在我が国で困っていることと言えば、大陸を同じとするとある帝国がガンガン勢力を伸ばしていて、一昨年には隣国を打破りその支配下に治め、今度は我が国を狙っている非常にデンジャラスな状況にあるということか。
救世主様は王太子との婚約も大々的にお披露目し、帝国との戦にも大層張り切っておられるらしい。
お披露目会で決意表明したんだとか。
何故又聞きかというと、私はお披露目会に招待されなかったからである。
いやぁね。私が救世主様に何かするとでも思ってるのかしらね。
招待された我が両親と兄は非常に憤懣やる方なく、欠席するとまで息巻いていたが、公爵と次期公爵がそりゃ拙いだろと私が出席させました。
我ながら家族に愛されている自覚はあるので、兄がこっそりと礼服に隠し持っていた暗器は速やかに没収致しました。
王太子殺したらいけません。
公爵の地位を返上しようとしていた父も止めました。
いきなり国にいらぬ混乱を招くのは止めて。
私達が救世主に殺されちゃう。
しかし歴史の影にギリオン公爵家ありと言われるのは伊達じゃなく、我が家は先祖代々国の大事に携わってきました。決して王家の大事じゃないですよ。ここ重要。
そんな我が家の人を見る目は半端ではない。
帰って来た父と兄曰く、
あの女超うさんくせー(意訳)
あ、やっぱり?
私もちょっと思ってた。
何か鼻につくというか、自分に酔ってるというか。
あんなのよりお前の方が何億倍も可愛いよ。むしろあんな女、お前と比べるのすらおこがましいよ
とは兄談だが、流石にそれはない。
私のことは私が一番良く知っている。
私の容姿は平凡だ。
しかもあまり表情が出ないから、そりゃ王太子も嫌でしょうよそんな女。
閑話休題。
さて、恐らくこの国での結婚は絶望的な私はこの先どうするべきか。
もうすぐ戦が始まるしなぁ。
というか果たして救世主様はどうやって戦をするのか。
王太子も馬鹿だなぁ。
今私を切っちゃったら、ギリオン公爵家の兵は使えないのに。
もし王家の命令には逆らえないとか考えてるんなら、歴史を勉強し直すべきだわ。
ギリオン公爵家は、この土地に忠誠は誓えど、王家には誓ってない。
ギリオン公爵家の娘との婚約なんて歴史的に大事件だったのに、あっさりとまぁ。
これでギリオン家は王家を見限った。
ギリオンに連なる家も同様で、つまりこの国の四割は最早機能しない。
ということを、王を始めとして誰も考えなかったのかしら。
歴史を紐解けばすぐ分かるのに。
平和な時代がたった二百年続いただけで、人って色々なことを忘れるのよね。
ギリオン家がこの地にいるのは、国を興した初代の王が土下座して頼んできたから。
というか元々ギリオン家の土地だった場所を、譲ってくださいお願いしますと頼んできたので満面の笑みでぶん殴った後快く貸して差し上げているのだが。
ギリオン家はそれまでその地を支配していた国家から、唯一支配を受けずに独立していた異例の特別自治領。何でそうなったか?そうね、我が家ってすごいとしか言えないわ。
その土地にはギリオンの守り神がいらっしゃった。
初代ギリオン当主であられたその方がこの地で眠りにつき、以降その血脈をお守りくださっている。
それが何で初代国王が土下座までして借りに来たかというと、占いだ。
初代国王の妹君は稀代の占い師で、「お兄様が国を作るにべストなプレイスはどーこだ」と占った結果ギリオンの土地が吉と出た。
そして手土産片手に土下座する国王(当時はただの革命軍のリーダー)。
それを指さして腹を抱えて笑う三代目ギリオン当主(自治領主)。
二人の間で交わされた密約は国家機密事項ではあるが、まさか当の国家まで忘れるとは本当にすごい。
「お父様にはああ言ったけど、いっそ混乱させるのもいいかもしれないわね」
そんな風に考えていた私だが、父と兄はそれ以上に過激な策を立てていた。
いや、まさか帝国と手を組んで国主を挿げ替えるとは思いもしなかったじゃない?
だってそれギリオン家の実態を知らない周辺諸国から見たら「国を裏切った一族」のレッテル張られるじゃない?
帝国に移住くらいは考えたけど、でも土地がなーとか思ってたら、「我々が移動できないなら、貴方たちがどっかいけばいいじゃない」なんてのを実行するなんて。
無血開城で城を奪い取って、「土地返してね。貸してただけだし」なんてやるとか。
思いもしないじゃないのよ。
おまけに救世主様を強制送還させるとか、もうね、もうあれよ。
我が家が過保護でチートすぎるわ。
ところで元婚約者殿どこやったの?
最後ホラーではないです……よ?




