戦争反対戦線
「みんな集まったな。」
雑居ビルの一階、もう潰れたオフィスの跡地にいる、口元をバンダナで隠し、ハンチング帽を目深に被った男が、同じ格好をしている十数人の男たちに声をかけた。皆、顔はわからないが、隙間からうかがえる目は、血走りギラギラと輝いていた。
「いいか、明日、明日だ。まず、計画を伝える。」
そう言いながら、リーダーらしき男は机に多きめの地図を広げた。それは、どこか大きな施設の写しのようであり、敷地内にいくつもの建物があった。
「明日は多くの一般人が敷地内居る。あの忌々しい、『大量の戦争』の道具を見にな。」
リーダーは吐き捨てるように言った。
「いいか、まず、あの兵器に対して、迫撃砲による攻撃を行う。その混乱に乗じて、見物客に紛れた同志たちが、人質を取って建物に立てこもるんだ。」
指で地図の建物、統括本部とラベルされた部分をトントンと叩いた。
「恐らく、立てこもってから2時間ほどで『政府の犬ども』が要求を聞きに来るからな。その時に、俺たちの掲げる理想を要求するんだ。」
皆でリーダーの後ろの壁を見た。そこには『絶対的な戦争放棄』と、でかでか書かれている紙が貼ってあった。
「もちろん、即座に『あの戦闘集団』は解体は出来ないだろう。だが、我々には、ここに居る以外にも多くの同志がいる。その同志たちが我々の後を引き継ぎ、理想を実現させるだろう!」
大きく手を振り上げ、力のこもった怒号を上げると、それに続いて周りの者たちもおぉ!と声を上げた。ただ、一人だけ、入り口近くの壁にもたれかかったままの者がいた。リーダーが目ざとくそれを見つけた。
「おい、貴様、なんだその態度は。そんなやる気のない状態で革命が起こせると思っているのか!」
ツカツカとリーダーが近づき、もたれかかった男に近づいたとき、ドアがバンと勢いよく開かれた。
「全員動くな!動いたものは容赦なく打つぞ!」
そこには、戦闘服を着込み、ライフルを持った何十人という『戦闘員』が立っていた。突然の出来事に対応が遅れ、バンダナをした男たちは、成すすべもなく、全員が取り押さえられた。
一人、入り口近くにもたれかかっていた男が、部屋に残された。男は帽子とバンダナを取り、床に投げ捨てた。そして、胸の内ポケットから、金の星がついたバッチ付きの手帳を取り出した。それは国家防衛のための、『戦闘集団』の所属を表すバッチだった。
「アイツらの言う『絶対的な戦争放棄』、その構想はご立派だけど、その方法は『戦争』そのものだって気が付いてるのかね。」
そう吐き捨てると、壁に貼り付けてある『絶対的な戦争放棄』の紙を、破り捨てた。