夢の中
何であんなことが起こったのか、よく考える。
誰かのせいにしようとしても、
原因は一つ。私のせいなんだ。
この街全体が悲しみに包まれている。
今では魔法の力など必要とされていない。
いや、効かないだけかも。
弟のモナンが亡くなって一週間。
速かった7日間。
喉は何も通さず、太陽も浴びていない。
何も考えていなかったのか、記憶もない。
ふときずくと、風が窓をうち叩く。
私は風に呼ばれるように重い身体を起こした。
久しぶりの外を観る。
雲一つない青空。
窓を開けると少し冷たい風が秋を運んできて、私の身体を突き抜けた。
すると聞き覚えのある声が私の鼓動を一気に動かす。
モナンだ…
後ろにいる…
だが振り返っても誰もいない。
"お姉ちゃん ここだよ。ここ。"
声と共に鼓動が早まる。
まさか、私の中?中にいるの?
"そうだよ。僕はお姉ちゃんの心の中にいるよ。
やっと気づいた。ずっと窓を閉めてるから、入れなかったんだよ?"
まるでこの一週間のことはなかったかのように話すモナンに戸惑いを感じながらも、久しぶりに聞く声。もう聞くことができないはずの声に自然と涙が出る。
天国はいいところ?
"天国になんていってないよ!僕ずっと、お姉ちゃんが窓を開けてくれるの待ってたんだから。僕風になったんだよ!それから魔法も使えるようになったんだ。すごい気持ちいね!鳥とも話すこともできるの!"
なんかとっても楽しそう。それに、お喋りな所全然変わってない。
なんでそんなに元気なの……死んだっていうのに……
"そんな悲しい顔しないで。みんな元気になってくれたよ!だからお姉ちゃんも元気になって…"
モナンが話している間ずっと思い返していた。双子で兄弟の誰よりも心の繋がりが強かった私達。
家族で一人だけ魔法が使えないモナンだったけれど、そんなこと気にしてなかったな。ただ、おさないころから体が弱くよく寝込んでた。
そしてここ一年で、体は痩せこけて寝たきりに…
魔法で治る病でもなかった。
そんな中、ある日車イスにのって散歩できるくらいまで元気になった。モナンは私に外に連れていって欲しいと泣いてせがんできた。両親に言えば、安静にしなくてはと反対される。
実際に安静は必要だが、元気になり顔色もよく、少しだけならとこっそり外へ連れ出した。
そう、ちょうど今日みたいに雲一つない青空。
久しぶりに外に出てとっても幸せそうな横顔。元気そう。連れてきてよかった。
他愛もない家族の話をして泣いたり笑ったり。
夕方になる前にこっそり帰り、モナンは疲れてすぐ寝てしまった。
だが、モナンはもう起きることはなかった。
まるで自分が今日死ぬと里っていたように…
とても幸せそうな夢を見ているような顔で…
外へ連れていかずに安静にしていればモナンは死ななかった。絶対。悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。
それから一週間たった今、モナンの声が私の心の中から聞こえる。
涙が止まらない。
思い出してしまったモナンの死。
そっか、家族はもう次へ進もうとしている。
だけれど、私は進めない…
"お姉ちゃん…旅にでるの?"
え…?
モナンは私が答を出す前に聞いてきた…
双子の力って凄いな…
と思いながらも、私の心は決まっていた。
モナン、旅にでるよ。
旅というか、もうここには戻らない。
いや、戻れないかも。
"弟達は凄く悲しむと思うよ…"
大丈夫。心で繋がってるはずだから。それに今すぐにでもここを出ないと、ベッドに根をはって化石になってしまうから…
モナンは鈴の音のような声でくすくすと笑った。
"僕が何言ってももう決めたみたいだね。なんかとってもウキウキしてるよ?でも、魔法の封印は禁じられてるけど…?"
また私の考えより先にいってる。
でも、魔法はもう使いたくない。
"間違ったら記憶を失って、力も戻らないかもしれないよ…?"
それでもいいの。
モナンだけ心の中にいてくれれば。
"わかった。ずっとお姉ちゃんの心の中にいる。
約束するよ。そういえば僕が人間だった最後の日、本あげたの覚えてる?"
忘れてた、あの日の事。
鍵付きの太い赤い本一冊。
モナンが私に
"本当に必要になったら僕が鍵をもっているから一緒に開けよう"って約束を思い出した。
でももうモナンは鍵持って…
チリンっ
最後まで言う前に床に何か落ちる音がした。
"すごい!魔法って本当面白いや!"
楽しそうに鍵を出してくれた。
"でもまだその時じゃないよ。お姉ちゃん、これからどうする?"
何も決まってない、でも今しかないかも…
今から、今から行く。
まずは家をでて川を越えて林に向かうの。
"わかった。僕は林でまってるね!"
モナンは風になって去っていった。
途端にまた、寂しい気持ちがどっときたが、もう大丈夫。モナンはいる。
私の心の中で、モナンは生きているのだ。