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七話

 馬騰様から中央への対応を任されて三日たった。


 決裁書を捌きながら余計な仕事を増やしてくれた宦官共に憤怒しながらも何とかキリの良い所まで終わらせる事が出来た。


 これも一重に文官を増員した事によるものだと実感できた。


    人海戦術


 何て良い言葉なんだ。


 優秀な文官一人よりも平凡な文官二十人。一人一人に任せる仕事を少なくして効率的に政を行えるようになった。


 そんな事を考え嬉しく思いながら武都の外へと向かって歩いていく。


(出発は昼ぐらいだから少し早かったか?)


 そんな事を考えながら外に出るとどうやらそうでもなかったらしい。 街道からやや離れた位置に二つ軍団兵が直立不動の如く整列していた。


 出発の準備も既に終えているようで命を下せば何時でも動ける状態であった。


 まさか此処まで早く準備を終わらせているとは思わず慌てて駆け寄る。


「お待たせして申し訳ない。馬超殿、馬岱殿両名も間も無く来ると思いますのでもうしばらくお待ち頂けますか?」


 馬騰様が旗揚げ時代から共にして常に最前線で戦ってきた数少ない戦士だ。


 敬う事になんら問題はない。


「ガハハハ。構わん、儂等が待ちきれんくてな」


 豪快に笑っているのが第五軍団長で白髪混じりの灰色の髪を角刈りぽく揃え老当益壮を体現した老将である。


 この方は第六感的な物を持っており馬騰様も【あやつには幾度か助けられた】と評される程だ。


「然り。待ち人が次代の馬家なら尚更だ」


 堅苦しい言葉で話したのが第八軍団長で第五軍団長よりはやや年下で深謀深く出来るだけ万事に備えようとする性格の持ち主で馬騰様は【あやつの献策は軍を動かす上で為になる】とこれまた評されている。


「お二方、馬超殿と馬岱殿をお願いします。また基礎は私なりに叩き込んでいますのでお二方の経験を持って昇華して頂ければ助かります」


「ガハハハッ!!任せよ韓約。うぬの分までみっちり鍛えてやるわ」


 第五軍団長は盛大に笑いながらにこやかに俺の背中を数回叩く。


「然り。只解せぬのが何故一人ずつなのだ?」


 第八軍団長が第五軍団長に同意しながらも疑問に思っていた事を口にする。


「馬超殿は直情的な性格ですから第五軍団長に、馬岱殿は深謀遠慮とまでは言いませんが考えて行動出来るみたいなので第八軍団長にお任せするのです」


「…ふむ。それならば互いに逆にした方が良いのでは?」


 確かにそれも悪くない。だけど…。


「人は万能ではない。それは軍団長である貴殿方が一番良く分かっているではありませんか」


 その言葉に両軍団長は確かにと頷いて理解を示した。


「それに将来は馬超殿が大将で馬岱殿が副将という事も有り得ます。ならば馬岱殿が補佐を馬超殿が素早く的確な判断をという形にした方が巧く軍配出来るのではないかと思いまして」


 その時の事を思い浮かべているのか両軍団長は目を閉じながら腕を組んでいる。


「ガハハハ。悪くねぇな」


「…成る程。悪くない」


 目を開けて口を開くと出たのは同じ言葉だった。


「本当なら私も誰かにお願いして行軍について学びたかったのですが…」


 そう言うとお二人は気まずそうな表情になった。


「ま、まぁお前さんが抜けると西涼が回んないからなぁ」


「う、うむ。機会は必ず訪れるゆえそれまで座して待て」


 そんな事を言われても書籍だけでは中々分かりづらい事もある。


 一握りの天才みたいに一から全を把握するなんて出来ない。これ以上は実戦を交えながら勉強するしかないのだ。


「お前が開発した新しい鎧や馬鎧は中々好評である」


 んあっ?話が急に変わったなぁ…軍団長達に気を使わせてしまったみたいだ。


「えぇ。西の方から腕試しや新天地を求めてやってきた職人達がやってくれました。革と伸ばした鉄板を幾重にも重ねて軽さと粘り強さを持たせるようにしてますから」


 うちの特産は何と言っても馬や家畜なので革は集めやすい。試験的に数ヶ所で牧場も始めており少ないが成果が出始めてる牧場もちらほら出てきた。


 それに西の諸侯からくる商人達も増え鉱物もそこそこ出回っているので低コストで良品質の量産鎧が出来たと自負している。


「おぉ確かにこれは優れ物だ。矢が多少刺さっても痛くねぇ」


(嬉しい評価だけど矢が刺さる程前線に出てるのかこの人?)


 第五軍団長に馬超殿を任せて良いのか不安になってきた。


「おぉ~~い」


「韓約~~」


 悩んでいる俺の耳に待ち人の声が入る。


 その声に反応して振り返ると自身の得物を手に持ち馬に荷物を背負わせて馬超殿と馬岱殿が駆け寄ってくる。


「お二人とも遅いです」


「これでも急いだ方だぜ?蒲公英が待たせるから…」


「ひっど~い!!蒲公英、お姉ちゃんみたいに女捨ててないもん。これも乙女の身嗜みってやつだよ」


「な、な、なんだとー!!」


 また始まった…。


(はぁ…何でこう馬岱殿は馬超殿をおちょるんだろうか?)


 目の前で追いかけっこを始めた二人を見てため息をつく。


「馬超!!馬岱!!」


「「ひゃっ…ひゃい!!」」


 俺が二人を呼び捨てにする時は相当怒っているって意思表示だ。


 それを理解しているのか追いかけっこをすぐに止めて裏声ながら俺の前に駆け寄り整列する。


「何時まで遊んでいるのですか?お二人とも、間も無く元服も近いのに嘆かわしい」


 俺の言葉にシュンと項垂れる二人に容赦なく説教を浴びせる。


「精鋭たる西涼兵の前で恥をさらしてどうするのです!!」


「す、すまん」


「ごめんなさ~い」


 流石にその言葉は当人には堪えたらしく頭を下げて謝罪した。


 その姿に両軍団長は苦笑いしている。が、二人とも止める気はないようだ。


「母上の馬騰様に恥じない行動をして下さい」


 あまり長くなっては未だに微動だにしない軍団兵に申し訳ない。


「「は、はいっ!!」」


 そう言って締め括ると二人は顔を上げて返事した。


「ではお二人に軍団長を紹介します」


 そう告げて馬超殿に第五軍団長を馬岱殿に第八軍団長を紹介した。


「両軍団長は一兵卒から軍団長になった生粋の叩き上げの軍人です。お二人は軍団長の言う事をしっかり聞いて己の糧にしてきて下さいね」


「分かってるよ、韓約」


「そうだよー韓約」


(本当に分かっているのか?)


 そう疑問に思ったが彼女等の瞳を見てその疑念は晴れた。


 何時に況しても真剣で真っ直ぐな意思を俺に向けていた。


 これだけの意思を込めているのなら問題はない。当人達はしっかり教えを己のものにしてくれるだろう。


「…なら、私はもう何も言いますまい。両軍団長、次代を宜しく頼みます」


 両軍団長にしっかりと頭を下げてお願いする。


 そんな俺に馬超殿と馬岱殿は驚いているが両軍団長は任せろと言わんばかりに無言で頷いてくれた。


「「出立するぞ!!」


 両軍団長の言葉により第五軍団は南へ、第八軍団は城壁を回り込むように北へと移動を開始した。


 馬超殿と馬岱殿も各々の軍団へと加わり時々振り返っては手を振り、そんな二人に俺は逞しくなって帰って来て欲しいと願いながら姿が見えなくなるまで見送るのだった。









 馬超殿と馬岱殿が旅立って五日ほどたったある日、馬騰様から呼び出された。


「韓約、参上致しました」


 予め馬騰様にお客さんが来ていると言うので外向きの言葉で到着を告げた。


「うむ、入れ」


 馬騰様も同じく高揚とした態度で入室の許可を出した。


 中に入ると馬騰様も正面に三人立っておりしかも皆がみな近代的と言える格好をしていた。


(何かのコスプレ集団?)


 一瞬そう思ったが時代的に有り得ないと考え直そうとしたがこの世界が恋姫無双だと言うのを忘れてた。


「我が主、何がご用で?」


 俺がそう尋ねると馬騰様は無図痒げな表情だった。


「あ、あぁ…我が西涼に客将してしてしばらく身を置かせて欲しいと言う者達がおってな。暫しの間だがそれを受けようと思ってお前を呼んだのだ」


 ん~正直、仕官してくれないならいらないのだけどな。下手に仕事を任せると後々やり方を盗まれる可能性がある。


 優秀な人手は欲しいのは確かだがそこまでしなくても西涼は回していける。


「馬騰様はっきり申し上げます。お断りしなされ」


 俺が告げた言葉に三人は驚いてはいない。多分それもまた織り込み済みなのだろう。


「それは何故とお聞きしても?」


 口を開いたのは青髪で白いベレー帽と胸元を改造したナース服を身に纏った少女が面白いと言わんばかりにニヤつきながら尋ねてきた。


「趙雲殿、戲志才殿、程立殿。貴女方は自身の主君をお求めになっている…そうでしょう?」


 そんな趙雲殿にニヤリと笑い返しながら尋ねる。


 此方は大陸中に間者をばら蒔いてるんだ。この三人は無論、三国志で登場する有名どころには皆、専属で張り付かせてる。


 だからこの西涼に来るのも事前に知ってたし、また目的も理解している。


「楽をするのは同じ文官として恥ずかしいと思いませぬか戲志さ…いや郭嘉殿に程立殿?」


 理由は適当だが三者三名とも驚愕している。況しては偽名を名乗っていた郭嘉殿の反応は一番だった。


「…流石【裏西涼】なのですよ~。風達の事すら知っているとは驚きなのです」


 な、何ていやな呼び方をしやがる…。馬騰様もその二つ名を聞いてニヤニヤしている。


 一年前に逃した間者の雇主だろう人物から世に放たれた二つ名で、曰く西涼の太守馬騰は文官長韓約の傀儡である。


 何故なら誰も韓約には否と申さず馬騰ですら彼に口を出す事は許されないらしい。


 故、西涼の支配者は馬騰ではなく韓約であると。


 【裏の西涼の支配者】


 だから略して裏西涼。


 俺はその二つ名を聞いて速攻で馬騰様の元に赴きその二つ名とつけられた由来を話し天地神明に誓ってそんな事はないと身の潔白を訴えた。


 それを聞いた馬騰様はお前が慌ててくるから何事かと思ったとカラカラ笑って俺を信じてくれた。


 が、そのお陰で馬騰様から裏西涼と茶化されるようになった。


「当たり前です。西涼に勧誘したい位優秀なお人ですよ貴女方は。それとその二つ名は捨て置きなさい」


 程立殿の言葉に即答した。


「おやっ?先程と言ってる事が異なるようですが裏西涼殿?」


 何時の間にか復活した趙雲殿が茶化しながら聞いてくる。


(俺は厨二病じゃないからそんな呼び方されると恥ずかしいのだけどなぁ~)


「まぁ神槍と評される貴女に言われるのも悪くないのかも知れませんね」


 取り敢えずこの人は適当に流すのが良いだろう。下手したら馬岱殿よりもしつこいかも知れない。


 それより…


「郭嘉殿、どうされました?」


 さっきから無言なので物凄い気になる。


「あっ!!いえ…少し考え事をしてました」


 んっ?こんな時に?


「どこぞから拾ってきた情報で戲志才が偽名だと見破りしたり顔をしている韓約殿にまさかその程度でと残念な考えは決して浮かんでませんよ」


(うわぁぁ…)


 恐ろしい程、歯に衣着せぬ物言いだ事。ここまで清々しく罵倒されたら腹もたたない。


「おぉう、凛ちゃん言い過ぎなのですよ~」


「う、うむ。流石の私でもそこまでは言えないぞ凛」


 旅のお仲間がドン引きしている。


「ククク…。戲し、いや郭嘉よ気に入った!!暫くこの地に留まると良い。韓約、これは決定だ。異論はないな」


(元々押し通すつもりだった癖に良く言う…)


 ニヤニヤ笑いながら三者を眺める馬騰様に悪態つきながら了承した。










 三人を引き連れて部屋を後にしたのだが正直俺は忙しい。


「さて、取り敢えず趙雲殿は武官という事で宜しいですね?」


「それて構わない」


 俺の言葉に頷く趙雲殿。


「程立殿は私と来て貰うとして郭嘉殿はどうされますか?」


 郭嘉殿は戦略よりは戦術側の人なので内政をさせるよりも趙雲殿と一緒に軍に回した方が良いだろうか?


「そうですね…両方させて頂けると嬉しいです」


「…ふむ。ではそうしましょう。」


 良く分からんが郭嘉殿なりの考えだろう。本人の言う通りして貰う事にしよう。


「では先ずは軍の鍛練所に向かいますね?」


 そう声をかけて鍛練所に向かう。


 鍛練所は政庁からやや離れた場所にあるので何で西涼に来たのか聞いてみた。


「お三方は何故この地へ?」


「私はこの二人に言われてだな」


 俺の問い掛けに趙雲殿が答えてくれた。


「西涼と言えば西都と呼ばれるまで発展しており、異民族との争いがここ最近無い聞いて一度見ておきたくて」


「風も凛ちゃんと同じ理由なのですよ~」


 成る程、成る程。


「それで御感想は?」


「まさか異民族が街道や土地の警備をしているとは思ってもみなかった」


 あぁ警備じゃなくて傭兵なんだけど訂正する必要はないか。趙雲殿には悪いが微笑んでおくだけにしよう。


「驚いたの一言です。主要な街道はきちんと整備され道幅も広い。それに要害な地でありながら上手く土地を使い作物を育てている。最後に異国の者が多いのにビックリしました」


 郭嘉殿らしい内容に良く見てるなと感心して頷いた。


「………」


 あっ、あれっ?順番的に言ったら次は程立殿ではないのか?


「寝るなっ!!」


 郭嘉殿が程立殿に手刀を頭の落とした。


「おぉう…。凛ちゃん痛いのです~」


 寝てたんかいっ!!


 歩きながら寝るなんて程立殿…恐ろしい娘。


「見た事がない農機具がたくさんあったのですよ~それに作物も土地の割りに実りが良さそうです。家畜を使って効率良く耕し土と土を混ぜ合わせていたのが興味深いです~」


 …流石程立殿。良く見てらっしゃる。


 改めて名を残すだけ優秀な人の凄さを知った一時であった。

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